©Jeff Forney

原点を見つめながら新しい道を拓く音楽の旅

 ドン・ウォズが舵を取る現代ブルーノートのクロスオーヴァー性を象徴する歌姫。R&B~ヒップホップ寄りだった 2014年のEPから軌道修正してジャズに重点を置いたデビュー・アルバム『Soul Eyes』に続く2年ぶりの新作『Indigo』は、後見人であるエヴァン・ロジャース&カール・スターケンの紹介で、ジャズとヒップホップを股にかける名ドラマーのカリーム・リギンズが大半の楽曲をプロデュースすることになった。

KANDACE SPRINGS Indigo Blue Note/ユニバーサル(2018)

 「カリームは、大好きなダイアナ・クラール、それにエリカ・バドゥやコモンにも関わっていたから。カリーム自身もドラムを叩いているし、彼のおかげでダイアナ・クラールやロバート・グラスパーのバンド・メンバーが参加してくれたの。アルバムは曲の振れ幅が大きいけど、多くの側面を持っている私を表現できた。17歳の時に録った曲(父スキャット・スプリングスとの共演曲をリアレンジした“Simple Things”)から最近書いた曲まで、自分の音楽の旅を表しているのよ」

 ガブリエル・ガルソン・モンターノのカヴァー“68”でフルートを吹いているエレナ・ピンダーヒューズについても絶賛するキャンディスだが、彼女自身が弾くピアノやローズも温かで、研ぎ澄まされた響きを放つ。

 「大好きなニーナ・シモンとロバータ・フラック、それにシャーデーやエラ・フィッツジェラルドの音楽に現代的な要素を取り入れたらどんな感じになるかと想像しながら作った。特にニーナはジャズを下敷きにしながらクラシックからビートルズまで幅広い。《Fix Me》ではショパンの曲(前奏曲第4番)を下敷きにしているけど、歌詞の中ではプリンスへのメッセージ(When I miss you doves cry)も忍ばせてあるの」

 そのプリンスの前で披露したロバータ・フラック“The First Time Ever I Saw Your Face”のカヴァーもある。これは本作のティーザー的に出したEP『Black Orchid』にスタイリスティックス曲のカヴァーとともに収録されていたが、同EPの表題曲は彼女のアイドルであるノラ・ジョーンズを成功に導いたジェシー・ハリスの曲だ。一方、オリジナルでは、エイミー・ワインハウスを意識したという“Love Sucksvと同じく5年くらい前にエヴァンとカールとともに書いた“Unsophisticated”が出色の出来。ロイ・ハーグローヴのトランペット・ソロが際立つストレートなジャズだ。

 「自分の音楽性は幅広いけど、やっぱりジャズが好き。だからホームグラウンドに戻った曲になるのかな」

 アルバム・タイトルの〈Indigo〉は、彼女が好むムーディな藍色であると同時に故郷ナッシュヴィルにある同名のクラブに感謝を捧げたもの。新機軸を打ち出しながら原点も見つめ直した奥ゆかしい作品なのだ。

 


LIVE INFO.

キャンディス・スプリングス ジャパン・ツアー2018
○11月27日(火) 東京国際フォーラム ホールC
○11月28日(水) サンケイホールブリーゼ

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