写真/廣田達也

 

MU-STARSの新作完成記念! Boseと語るいくつかのはなし

 MU-STARSが実に7年ぶりとなるニュー・アルバム『いくつかのはなし』をリリース。〈ブレイクビーツ〉という方法論はこれまでと同じながらも、ループのなかで細やかに、ゆるやかに展開していく音像は、MU-STARSの新しい音作りの魅力を感じさせるもの。今回は“さいごのうた”にラップで参加した、MU-STARSのトラックを手掛ける藤原大輔が敬愛してやまないスチャダラパーBoseを迎え、新作の内容に迫った。

MU-STARS いくつかのはなし KAKUBARHYTHM(2016)

 

テーマは〈哀〉

――新作の『いくつかのはなし』はMU-STARS、7年ぶりのアルバムということで。

Bose「何をもったいつけてるんだっていう(笑)。時間がかかった理由は?」

藤原「前作からの間には、7インチやミックスCDは出してたんですけど、アルバムをまとめる感じでもなくて、時間が経ってしまったというか……」

Bose「出た、普通! おもしろい回答が思い浮かばなかったら答えなくていいから」

――教育的指導が(笑)。

Bose「〈世界を放浪してた〉とかさ。嘘でもなんでもいいんだから。盛り上がれば(笑)」

――ハハハ。今回のアルバムはこれまでの作品とは違う、チルアウト的とも言える音像が印象的な作品ですが。

藤原「家でシコシコじっくり、深夜に作った感じですね」

Bose「ベッドサイド的な、ヘッドフォンで作ってる感じ。その状況が音に反映されてるんだ」

藤原「7インチでリリースしてたBoseさんとの“さいごのうた”、ニカさん(二階堂和美)との“はじまりのうた”が先に出来ていたんで、そこからイメージを膨らませて制作を進めていくうちに、トラックの気分がこういうメロウな方向性になったんですよね。単純に、バラード的な質感でまとめてもおもしろいんじゃないかなと」

Bose「年齢もあるんじゃないの? 夜中に一人でおじさんが作ってるんだろうな、っていう画が浮かぶのがいいよ、このアルバムは(笑)。やっぱり、家族が寝静まった後に制作してる風景って哀愁あるよね、客観的に見ると」

藤原「絵面も寂しいですよね(笑)。僕も、今回のアルバムのテーマは〈哀〉だったと思いますね。気に入っていただけましたか?」

Bose「(パッケージに貼られている)コメントでも書いたけど、こういう音楽が好きな人は〈ヒップホップ〉とか〈ブレイクビーツ〉って区分けしてるけど、一般の人からしたら、ベースがブンブンして、ドラムがドスドスして、楽器が少ないよね、っていう(笑)」

藤原「正解(笑)!」

Bose「だから山田太一のドラマみたいな感じだよね。殺人みたいな大きな事件は起こらないからこそ、そこに機微を感じるっていう。ニカさんとの“はじまりのうた”は大ちゃんが歌詞書いたんだね」

藤原「レコーディングの当日の朝まで、ニカさんにダメ出しをいただいて(笑)。〈この言葉を伝えるためには、ここの表現が弱い〉とか」

Bose「超いい授業じゃん。僕もやってほしい(笑)」

藤原「泣きそうになりながら勉強しましたね。最後に出来た“ループ”は、当初自分でヴォコーダー通して歌ったんですけど、全然ダメで、それで急遽アチコさんにお願いしたら、くるりのツアーに参加中にも関わらず歌ってくれて」

――STERUSSBELAMA2君の参加経緯は?

藤原「ずいぶん前にSTERUSSと一緒にイヴェントをやってた時に、まっちゃん(BELAMA2)とデモを作ってたんですね。そのデモを今回作り直して。だけど、そのデモのインストが2ミックスしか残ってなくて、そこから力技で組み立て直したら、こういう質感になっていって」

Bose「そういうラフなのは入れたほうがいいよね。やっぱり綺麗に出来すぎちゃうと、ヒップホップはおもしろくなくなっちゃう。SHINCOもドラムマシーンでループさせたビートをそのまま使うとか、サンプルもスクラッチで突っ込むとか、そういうことをやりたがるんだよね。でも、それをやらないと、ツルツルしすぎてヒップホップとして気持ち悪い音になっちゃうから」

 

想像を上回らないと

――Boseさんとの出会いも教えてください。

Bose「もともとMU-STARSの『CHECK 1,2』が出たときに、〈“キックとスネアのバラード”が良いんだよ〉ってSHINCOに教えられたんだよね。ネタの選び方とか音色もSHINCOっぽいなと。そしたらスチャのファンなうえに、ナオヒロックのお店の上に住んでたという(笑)」

藤原「スチャダラパーとビースティ・ボーイズが自分のヒーローですからね」

Bose「曲を一緒にやることに関しても、相当前から言ってたよね。で、この曲をやる前に〈beポンキッキーズ〉で僕がラップするコーナーのトラックを大ちゃんに作ってもらったんだよね。今回はそのお返しっていう」

藤原「2年ほど前に〈もし興味があったら歌ってください〉って、“さいごのうた”の2分ぐらいのデモ・トラックをお渡したんですよね。自分でも自信のあるトラックだったんで、これはBoseさんに歌ってほしいなと思って。そしたら、ある日〈出来たから送るわ〉って、2分のデモが7分以上の長尺の曲になって戻ってきたんですよ。しかもロング・ヴァースが3本と、フックがメロディーっていうすごく豪華な構成で」

Bose「想像を上回って返さないとおもしろくないじゃん。2分のトラックに2分のラップ乗せたら笑いは起きないけど、7分になって返ってきたら〈ええっ!?〉ってなるから。それだけのために努力してるからね、スチャダラパーは(笑)。この内容はトラックをもらう前から思い浮かんでたんだけど、スチャでやるのはちょっと違うな、と思って保留にしてたアイデアだったんだよね。だけどそのイメージにピタッとハマるトラックだったから、この内容が形になって。どうせ人の曲だし、どうせ売れねえし、って無責任にパパッと書いて(笑)」

藤原「感動しましたよ。がんばってれば中学の時からのヒーローと一緒に曲が作れるぞ!っていう部分も含めて」

Bose「でも、客演だけならまだしも、コメントは求めるし、インタヴューには参加させられるし、一個OKにするとベタベタ寄っかかってくるから。〈夢でした!〉って言うわりには要求が過剰(笑)」

藤原「チャンスがあれば活かしたいんで」

Bose「良く言いすぎだわ(笑)」

――〈眠り〉がテーマになったのは?

Bose「ヒップホップって基本うるさいから、子守唄みたいな曲は難しいけど、逆にあえてそれをテーマにしたらおもしろいかなって。それと、僕も子供ができて寝かしつけをしなきゃいけなかったり、いまってスマホだったり情報が多すぎて寝るのも大変だったりするから、それで眠ることをテーマにしようかなって。クラブでこの曲を最後にかけて〈はい、おしまい。帰って寝ましょう〉とかね」

藤原「Boseさんのリリックで〈眠ろう〉と〈レリゴー〉を掛けた部分があって、そこをミックスのときに音を抜いて、言葉を立てちゃったんですよ。そしたら〈こういうのはさり気なくやるのがいいんだよ〉ってたしなめられて」

Bose「〈まだわかってないな~〉って」

藤原「で、そういうふうにミックスし直してチェックしてもらったら〈……やっぱり抜き気味のほうがいいかな〉って(笑)」

Bose「難しい温度だったという(笑)」

 

ヒップホップ経由のポップス

――“さいごのうた”はベースの唸りもすごいですよね。

藤原ビートナッツの“Props Over Here”みたいな、太いけど形がしっかりある、音圧の高いベースにしたかったんですよね。今回もネタありきなんですけど、サンプリングしたフレーズを弾き直して、それをさらにエディットしたりすることで、もっと音楽的に広いモノにしたかったんですよ。弾き直したモノをどう料理するかっていう方法論もおもしろかったし、そこで広がりを出したくて。その意味では、手法はブレイクビーツなんだけど、わりと歌謡曲みたいな雰囲気を出せたら良いなって思ったんですよね。作り方はヒップホップだけど、結果はポップスという方向性というか。昔は、良いネタのループとドラムがくっ付いたらそれだけで最高、って思ってたけど、いまはもうちょい、いわゆる音楽的な感じをそこに込めたいなって」

――その意味では藤原君が手掛けた「とんかつDJアゲ太郎」のサントラ盤と、『いくつかのはなし』は対になってると感じました。〈アゲ太郎〉のサントラは、オールド・スクールなブレイクビーツで、ループ/トラックによって音が円環することで生まれる気持ち良さがある。一方で『いくつかのはなし』は、ループのなかでも細かく音が展開していて、聴き心地もポップスに近いものがあるなと。そのどちらもMU-STARSの特性だと思うんだけど、そのふたつが2枚に分かれて出たような気がして。

藤原「自然にそうなりましたね。確かに『いくつかのはなし』は、ループのなかでメロディーが泳いでるような音像を作りたかったし、これまでとは違う制作の進め方をしようと思ったらあの形になって。一方でサントラ盤は、作者の小山ゆうじろう君から、〈オールド・スクールな感じ〉っていうオーダーもあって、あの形になっていったんですよね」

Bose「〈アゲ太郎〉のサントラはどういう経緯で作ったの?」

藤原「代々木八幡の〈リズム&ブックス〉っていう古本屋に僕のミックスCDを置いてもらってるんですけど、小山君もそこの常連で、僕のミックスを買ってくれてて。それをキッカケに繋がったんですよね。Boseさんも行かれてますよね?」

Bose「僕らの本も置いてもらってるし、何度か行ってるね。小沢健二君とも行ったよ」

――そんな共通項もあるお二人ですが、最後に、これからもMU-STARSとBoseさんの共演はありそうですか?

藤原「僕はぜひともお願いしたいです! スチャダラパーは僕の永遠の憧れですから!」

Bose「こっちはNGで(笑)。あとは売れてから来てほしいよね。フックアップしてほしい」

藤原タワーレコードの特典で、cero荒内佑君によるリミックス盤が付くんですけど、それがものすごく良いんで、それで売れるかもしれないです(笑)」

Bose「それもう自分の手柄じゃないじゃん(笑)!」

 

BOSE(スチャダラパー)
88年にANI、SHINCOと共に結成されたヒップホップ・クルー、スチャダラパーのMC担当。90年に『スチャダラ大作戦』でデビュー以降、12枚のオリジナル・アルバムを発表している。最新作は2016年4月に発表されたミニ・アルバム『あにしんぼう』。また、メンバー個々の客演やトラック提供ほか、電気グルーヴとの〈電気グルーヴとかスチャダラパー〉、SLY MONGOOSEロボ宙とのTHE HELLO WORKS加山雄三キヨサクMONGOL800)、佐藤タイジシアターブルック)、古市コータローザ・コレクターズ)らとの大所帯ロック・バンド、THE King ALL STARSなど、クルーと他のアーティストとのコラボ名義によるリリースなど、課外活動も多い。

 

藤原大輔(MU-STARS)
2003年頃に結成されたDJ/プロデューサー・ユニット、MU-STARSのトラックメイカー。生ドラムと映像を交えたライヴ・セット=MU-STAR GROUP名義でも活動している。これまでに2005年作『CHECK 1,2』、2009年作『BGM LP』という2枚のフル・アルバムをはじめ、3枚の7インチ、2枚の12インチ、3枚のミックスCDを発表。プロデュースやリミックス、CM/舞台音楽やファッション・ブランドへの楽曲提供など外仕事も活発で、2016年は春よりオンエアされたアニメ「とんかつDJアゲ太郎」の音楽も担当。『いくつかのはなし』に先駆けて、タワーレコード先行でそのサントラ『とんかつDJアゲ太郎 オリジナルサウンドトラック』もリリースされたばかり。