birdと冨田恵一が歌に見つけた驚きと喜び――新作『Reconnect』を巡る対談

 6年ぶりとなるbirdのニュー・アルバム『Reconnect』は、冨田ラボこと冨田恵一のプロデュースによる4作目。アルバム単位では『BREATH』(2006年)、『Lush』(2015年)、『波形』(2019年)とこれまで組んできた両者だが、プロデュースのみならず作曲・編曲・全楽器の演奏までを冨田がトータルで手掛けたのは『Lush』以来となる。

bird 『Reconnect』 ソニー(2025)

bird「アルバムごとに作り方はけっこう変わっているんです。『BREATH』はコンセプト・アルバムだったので、初めにテーマを冨田さんにお伝えして作っていった。『波形』のときは〈詞先で作っていく曲もトライしてみましょう〉という提案が冨田さんからあって、それをやってみたら、自分の言葉がこんな音楽になるんだ!?という驚きと喜びがありました」

冨田「バンドで録った曲が『BREATH』には半分くらいあったんです。それに対して『Lush』は〈他のミュージシャンを入れずに二人で作ってみたい〉というbirdさんの意向があった。そのあとの『波形』のときは、ものんくるの角田隆太さんやWONKの江﨑文武さんに作ってもらった曲も入れました。で、今回はというと、『Lush』の方法論に近いんですよ。メロディーをすべて僕が書いているから、birdさんの歌や言葉に対して〈こういうアプローチもいいんじゃないですか?〉というような提案がしやすかった。ただ『Lush』や『波形』はその当時のUSのヒップホップとかで使われるようなビートの音色――サンプル・ドラムとかループっぽいものを使うことで同時代性みたいなものも表わしていたんだけど、今回はもっと独自性を意識した。バンド・サウンドではないけど、生ドラムっぽいアプローチを中心にして、ベースもシンセ・ベースではなく生ベースで作るものを増やして、わりと普通に弾いたんです。なぜかというと、birdさんの歌声を有機的に響かせたかったから」

bird「レコーディング自体がすごく久しぶりだったから、初めは歌い方に関して迷いもあったんです。だけど、まだ言葉が乗ってない状態の“How’s it going?”のデモを、家でラララと歌ってお渡ししたときに、〈リラックスして、のびのび歌っているのがいい〉と言ってもらえて、そこから変わりました。冨田さんに今回作ってもらったメロディーは、聴いていると身体が躍り出す感覚があって、ここに合うカッコいい言葉を書いてみたいなって思ったんです」

 今作のなかで最初に録ったのは、ASOUNDのARIWAと共演した“再び世界へ”だそうだ。

bird「数年前に音楽仲間からASOUNDを教えてもらい、カッコいいヴォーカルだなと思いながら、ずっと聴いていたんです。今回フィーチャリング・ゲストを迎えるなら、同世代ではなく普段あまり出会わない世代の人と歌ってみたいと思って、お声掛けしました。この曲は冨田さんの作った音に勢いとエネルギーがあったので、強い言葉のほうがカッコよく乗るんじゃないかと考えながら歌詞を書いた。〈重なる歌声〉〈つながってゆける あなたと世界へ〉といった言葉はARIWAさんと歌うことをイメージして書いたんです。〈reconnect〉という言葉も自然に出てきて、そのときからアルバム・タイトルは『Reconnect』にしたいと思っていました」

冨田「〈birdさんにアマピアノ的な曲を歌ってもらう〉というのが僕にとって“再び世界へ”のトピックだったんです」

bird「冨田さんからアマピアノをやっている人のYouTubeのリンクがたくさん送られてきて、とにかくそれをひたすら聴いて。そのリズムの上で自分らしい日本語の言葉をどう乗せるかが課題だったんですけど、それも楽しんでできました」

 ゲストをフィーチャーしたものではもう1曲、スチャダラパーとコラボした“センスとユーモア”もおもしろい。

bird「これ、1曲のなかのメロディーの種類が多くて。何段階もの展開がある」

冨田「そのわりに3分の短い曲なんだけどね。始まりのbirdさんの優しい歌の感じからBoseさんのラップの入りまでは明るいんだけど、そこから急変したりね。1曲のなかにいろいろなサウンドが入っている構成がおもしろいわけなんだけど、birdさんが歌えばやっぱりbirdさんらしい歌になるのがまたいいなと」

 そのように凝った曲がある一方、“光と光”は素直なメロディーのbirdらしいバラードだ。歌詞も含め、今作の重要曲のひとつだろう。

bird「去年の3~4月頃に歌詞を書いたんですが、25周年という自分にとって節目にあたる年を意識していた季節でもあったので、未来に向かって発信している曲になったのかもしれません。この曲は私の歌1本で通すものだけに、言葉のアクセントや区切りなどを細かく冨田さんと構築して歌入れに挑みました」

冨田「飾りをつけずに1本の歌でbirdさんの伝えたいことや情感をいかに表現できるか。もちろんどの曲でもそこは大事ですけど、この曲は特に細かく話と作業をして、それが顕著に実を結んだような気がしています」

 歌モノの最後は“海辺のまち”。刺激多き冒険の旅の終わりに、ほっとする町へと辿り着いた、というような感触が曲調にもある。

冨田「初めはこの曲を真ん中あたりに入れて一息つける感じにしようかと思ったけど、“サイレンス”から続く緊張感をなるべく持続させながら“センスとユーモア”まで行って、そのあと開放感を与えるこの曲を経て、アウトロで終わるという構成のほうがアルバムを堪能できるかなと。癒しの役割を持つ曲として、ここに収めました」

 6月には冨田をバンマスとし、ARIWAとスチャダラパーをゲストに迎えるライヴが控えている。ここからまたbirdの新しい旅が始まる。

bird「〈自分の声にはこんな側面もあるんだ!?〉といった発見と喜びがたくさんあって、〈これからもっと歌うことを楽しんでいこう〉と改めて思えたレコーディングでした。自分にとって本当に大切なアルバムです」

左から、冨田ラボの2022年作『7+』、2023年のコンピレーション『冨田ラボ/冨田恵一 WORKS BEST 2 ~beautiful songs to remember~』(共にスピードスター)、ASOUNDの7インチ”恋はカゲロウ”(ソニー)、スチャダラパーの2020年作『シン・スチャダラ大作戦』(ZENRYO/SPACE SHOWER)

birdの作品。
左から、2015年作『Lush』、2019年作『波形』、ベスト盤『25th anniv. re-edit best + SOULS 2024』 (すべてソニー)