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LARRY GRAHAM & GRAHAM CENTRAL STATION

60年代後半からスライ&ザ・ファミリー・ストーンのベーシストとして活躍し、スラップ・ベースのオリジネーターとしても知られるラリー・グラハムが、73年に結成。ラリーがベースのみならずヴォーカルも取り、強力なファンク・グルーヴとラリーの歌で人気を博し、7枚のオリジナル・アルバムを残した。80年代に入ってラリーはソロ活動に移行したが、90年代にふたたびバンドを再開。92年には日本での公演を収めたライヴ盤『Live In Japan』を発表している。そして98年にプリンスとラリーの共同プロデュースでアルバム『GCS2000』をNPGよりリリース。それから14年のブランクを空けた2012年に、プリンスとラファエル・サディークをゲストに迎えた最新作『Raise Up』を発表している。

LARRY GRAHAM & GRAHAM CENTRAL STATION Raise Up Razor & Tie(2012)

 

――彼らは昨年の秋以来の来日になりますね。

「そうですね。でも今回は通常とはちょっと違う意味を持った公演になるんじゃないかと思うんですよ。というのは、ラリー・グラハムは亡くなったプリンスのメンター的な存在で、プリンスのレーベル=NPGから98年にグラハム・セントラル・ステーション名義で『GCS2000』をリリースしていたり、あと宗教的な面も含めて、とても縁の深い関係を築いていました。先日、僕はニューオーリンズで開催された〈Essence Festival〉に行ってきまして、そこでは〈プリンス・トリビュート〉というステージがあったんです。ルーク・ジェイムズケリー・プライスマーシャ・アンブロージアスなどがプリンスのナンバーを歌っていたなか、ラリー・グラハムも登場しました。で、彼が何を歌ったかというと、“One In A Million You”という自分のヒットだったんです」

ラリー・グラハムの80年作『One In A Million You』収録曲“One In A Million You”
 

――ほー!

「“One In A Million You”は80年にラリーがソロ名義でリリースした、サム・ディーズが手掛けた素晴らしい名曲で。タイトルは〈100万人に一人〉〈最高の人〉、つまり唯一無二の存在という意味に近いと思うんですが、その曲の後にラリーはプリンスの"Purple Rain”を歌った。それは、自分をアピールするためにまず自身の楽曲を歌ったのではなくて、〈特別な存在〉であるプリンスに捧げるためにその曲から"Purple Rain”に繋げたんだと思うんですよ。だからとても意味のある流れだったんです」

――ちょっと鳥肌が立ちますね……。

「そうなんですよ。また、ラリー・グラハムといえばスラップ奏法、チョッパー・ベースの人というイメージがあると思うんですけど、ヴォーカリストとしてもまた非常に魅力的なんです。さっき言った“One In A Million You”はラリーのソロ曲のなかでもっとも有名な曲で、昨年11月のBillboard-LIVEでの来日公演でもやっていましたけど、僕はその歌にすごく感動しちゃって。かつてbounceの連載〈IN THE SHADOW OF SOUL:ソウル・ミュージックの光と影〉でも、ベーシストではないラリー・グラハムの魅力にフォーカスした記事を書かせてもらいましたが、それくらい彼の歌は聴き逃がせない。バリトン・ヴォイスの深~い声。80年代頭~中盤に、LTDジェフリー・オズボーンアース・ウィンド&ファイアモーリス・ホワイトといったファンク・バンドのリード・ヴォーカリストがソロ・アルバムを発表していますが、これはラリー・グラハムに影響を受けたんじゃないかと思うんです。つまり、ディスコ・ブームがひと段落して、さあ、次は何をやろうという時に、当時はルーサー・ヴァンドロスみたいなシンガーがブラック・コンテンポラリーの先頭を走っていて、彼のように正面切ってバラードで勝負することが新しい、という感じになった。もちろん、バンドの人員削減や解散の影響もあったとは思うんですけど、そういうなかでグループの中心人物をソロで売り出すってことが、ラリーのソロ・ヒットと前後してある種のブームのようになっていたんですよね」

モーリス・ホワイトの85年作『Maurice White』収録曲“I Need You”
 

――なるほど!  それにしても、おっしゃる通りラリーはとてもイイ声ですよね。聴き入ってしまうような感じで。

「やや大味ではありますけどね(笑)。僕は歌モノ好きなので、楽器演奏よりも歌のほうを重視してしまうんです。あと、グラハム・セントラル・ステーションのライヴでは、プリンスや、ラリーが参加したスライ&ザ・ファミリー・ストーンの楽曲を演ったりするので、そこにも注目ですね。今回はどういうメンバーで来るのかわからないのですが、この前の来日の際はNPGのバック・ヴォーカルを務めていたシェルビー・Jが帯同していて、この人はディアンジェロの〈ヴードゥー・ツアー〉(2000年)のバック・バンド=ソウルトロニクスのメンバーでもあったんですが、彼女の存在も観どころのひとつ。絵に描いたようなファンク・ディーヴァです。来日する頃にはラリーも70歳になっていますが、全然ヨレてませんよね。現役感がすごい」

ラリー・グラハム&グラハム・セントラル・ステーションの2011年のライヴ映像
 

――本当ですよね! 〈昔すごかった人〉という感じじゃない。

「近年もツアーをしたりしていたものの、ボロボロになっていったスライとは対照的。2012年に14年ぶりのアルバムとして発表した『Raise Up』では、往年のイメージを維持しながら、プリンスやラファエル・サディークなど後輩のゲスト陣と渡り合っていたし。そういうところも素晴らしいと思います。やっぱりグラハム・セントラル・ステーションは人力のライヴ・バンドなので、野外で行われるフェスは汗にまみれる感じも含めて、見応えがあると思いますよ。屋内のライヴとでは内容や雰囲気が少し違うんじゃないですかね。昨年の〈サマソニ〉に出演していたディアンジェロ&ザ・ヴァンガードのライヴに惹かれた人はぜひ、彼らのステージを観てほしいです。あ、あと、これは淡い期待という感じなのですが、さっきお話ししたミュージック・ソウルチャイルドはグラハム・セントラル・ステーションの“The Jam”を引用した“Romancipation”っていう曲があるので、ミュージックが飛び入りで参加して、その曲を演ってくれないかなと。喜ぶのは僕だけかもしれませんが(笑)」

ラリー・グラハム&グラハム・セントラル・ステーションの2012年作『Raise Up』収録曲“Raise Up”
 

――そして最後に……〈Billboard JAPAN Party〉の枠ではないのですが、同じタイミングで〈サマソニ〉出演とBillboard-LIVEでの単独公演を控えるメイヤー・ホーソーンについても紹介できたらと。昨年はタキシードとして〈Billboard JAPAN Party〉に参加していましたが、今回はソロでの来日です。

「アルバム『Man About Town』を先日リリースしましたよね。彼は、今回の〈Billboard JAPAN Party〉の面々とは立ち位置というか出自が全然違います。それこそ曲はフィラデルフィア・ソウルやスウィート・ソウルっぽかったり、ちょっとスティーリー・ダンみたいな曲もあったりして、表面的には同じように聴こえるところがあるかもしれないけど。これまで話してきた3組はブラック・コミュニティーで 支持されてきた黒人アーティスト、一方のメイヤーはその外からソウル/R&Bを見つめて、憧れを自分の音楽にぶつけた、みたいな感じですかね」

MAYER HAWTHORNE Man About Town Vagrant/ビクター(2016)

2016年作『Man About Town』収録曲“Cosmic Love”
 

――オマージュというか、世界観も含めたソウル/ファンクへの憧憬をモダンかつイイ感じにアウトプットしている人、という感じですよね、良い意味で。

「古今のソウルをたくさん聴いているでしょうし。ソウルを軸にしながらもいろんなものに影響を受けているから、それが彼の音楽を聴きやすいものにしていますよね。本人もジャンルに当てはめないでほしいと言っていますし。去年タキシードのライヴも観ましたが、スカイスレイヴのカヴァーをしていて、そういうファンクが本当に好きなんだなと思った。そこは原点として揺るぎないところなんでしょうね。今回の〈Billboard JAPAN Party〉の出演者で言えば、ラリー・グラハムがやってきたようなことに憧れて音楽を作っている。DJ的なセンスと言ったらいいのかな。というか、彼はもともとヒップホップのDJですからね」 

――さらに、タキシードは昨年日本でもヒットしましたから、それを経てメイヤーのソロに注目している人が増えたんじゃないかと思います。

「そうですよね。日本人にフィットする歌声だと思います。ライトな歌い口で、メロディーもキャッチーだし。前作『Where Does This Door Go』(2013年)収録の“Wine Glass Woman”はファレル(・ウィリアムズ)がプロデュースしていましたが、いまのファレルが持つポップス的な親しみやすさがメイヤーにはある。大雑把かもしれませんが、ブルーノ・マーズベニー・シングスあたりと並列に並ぶ感じですよね」

タキシードの2015年作『Tuxedo』収録曲“Number One”
 
メイヤー・ホーソーン“Wine Glass Woman”
 

――実際ベニー・シングスはお互いの作品に参加していますし。

「そうでしたね。もちろんソウル的な要素はあるけど、よりポップス寄りというか、軽やかな良さがありますよね。ストーンズ・スロウから出てきた頃と比べると、本当に万人受けするポップスターになったという印象です」

ベニー・シングスの2015年作『Studio』収録曲、メイヤーが参加した“Shoebox Money”
 

――メイヤーはいわゆる〈ムード〉作りが上手い。最新作にはそれがより如実に出ているように思いました。

「そう、いい雰囲気を作ることに長けた人なんですよ。ムードで勝負する人なんですよね。メイヤーも含めて今回お話ししたアーティストは、いまやマチュアなリスナーを対象としながらも、それぞれ現代的なエッジがあったり若さを失っていなかったりするっていう、絶妙なバランスを保っている。だから幅広い世代の人たちが楽しめると思いますよ」

『Man About Town』収録曲“Love Like That”

 

PROFILE:林 剛

70年生まれ。ソウル/R&Bをメインとする音楽ジャーナリスト。音楽雑誌~サイトへの寄稿、CDライナーノーツの執筆、ラジオ番組の選曲などを行う。音楽書籍の執筆/監修も多数。近著は「新R&B入門~ディアンジェロでつながるソウル・ディスク・ガイド 1995-2015」と「新R&B教室~マイケル・ジャクソンでつながるソウル/ブギー・ディスク・ガイド 1995-2016」(共ににSPACE SHOWER BOOKS)。12年間通い続けている〈Essence Festival〉をはじめ、国内外でライヴを観ることをライフワークとしている。

 


Billbord JAPAN PARTY

8月21日(日)SUMMER SONIC 2016〈BEACH STAGE〉16:00~
http://www.summersonic.com/2016/

Billboard JAPAN Party × SUMMER SONIC EXTRA

SWV

8月23日(火)、24日(水)Billboard-LIVE Tokyo
1stステージ:開場17:30/開演19:00
2ndステージ:開場20:45/開演21:30
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8月25日(木)Billboard-LIVE Osaka
1stステージ:開場17:30/開演18:30
2ndステージ:開場20:30/開演21:30
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MUSIQ SOULCHILD

8月20日(土)Billboard-LIVE Tokyo
1stステージ:開場17:00/開演18:00
2ndステージ:開場20:00/開演21:00
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8月22日(月)Billboard-LIVE Tokyo
1stステージ:開場17:30/開演19:00
2ndステージ:開場20:45/開演21:30
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8月24日(水)Billboard-LIVE Osaka
1stステージ:開場17:30/開演18:30
2ndステージ:開場20:30/開演21:30
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LARRY GRAHAM & GRAHAM CENTRAL STATION

8月25日(木)、26日(金)Billboard-LIVE Tokyo
1stステージ:開場17:30/開演19:00
2ndステージ:開場20:45/開演21:30
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8月23日(水)Billboard-LIVE Osaka
1stステージ:開場17:30/開演18:30
2ndステージ:開場20:30/開演21:30
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MAYER HAWTHORNE

8月21日(日)SUMMER SONIC 2016〈MOUNTAIN STAGE〉

8月15日(月)、16日(火)Billboard-LIVE TOKYO
1stステージ:開場17:30/開演19:00
2ndステージ:開場20:45/開演21:30
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8月18日(木)Billboard-LIVE Osaka
1stステージ:開場17:30/開演18:30
2ndステージ:開場20:30/開演21:30
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