30年前にソロ活動をスタートして以降は、ラヴソングのマエストロとして絶対的なポジションに君臨しているマーチンこと鈴木雅之。〈還暦ソウル〉を掲げて赤いジャケットを纏ったニュー・アルバム『dolce』は、衰え知らずなヴォーカルで過去と未来を繋ぐ、ビターでスウィートな魅力に溢れる充実作に仕上がっている。サングラス越しに日本の歌謡シーンを見つめ、ブラック・ミュージックのフレイヴァーを注いでマイルドに変革してきた、そんな男の偉大な歩みをここで振り返ってみよう!
PRIDE AND JOY
50年に及ぶソウル・クロニクルの入口としてのマーチン
2016年はこの記事が公開される前に終わってしまったものの……鈴木雅之とゴスペラーズ、Skoop On Somebodyが中心となって開催している毎夏のイヴェント〈SOUL POWER〉。そのメンバーたちが好きな曲をセレクトする恒例の公式コンピが今年も『ソウル・サミットIV~Soul Chronicle~selected by SOUL POWER』(今回は佐藤善雄と桑野信義、DANCE☆MANも交えて選曲)として出たばかりだ。これがもう、そのままマーチン(ら)が昔から聴き親しんできた各時代のクラシックを一望するのに打ってつけの内容となっているのである。今回は〈ソウル・クロニクル〉をテーマに1950~2000年代のワーナー系音源から選曲されているのだが、レイ・チャールズやドリフターズ、コースターズに始まり、リズム&ブルース、ソウル、ディスコ、ファンク、ブラコン(呼び方は何でもいいが)という悠久の歴史を流れる歌心が堪能できるはずだ(タイムの“777-9311”が入っているのも流石!)。
そうでなくてもステージや音源で往年の名曲カヴァーを披露してきたマーチンだが、それらを遡るところからでもルーツに近づくことはできるし、そこから耳を広げていけば、彼の作品世界の随所に込められたオマージュや遊び心も自然に見えてくるはず。それらをひとつひとつ説明するのもヤボな気がする。 *轟ひろみ