ユニークな編成のクリエイター・トリオが、改めてユニットとしてリスタート! とことんエッジーに振り切ったダンス・ポップは、新鮮な驚きの連続だ!!

 

驚かせたいという気持ちが強い

 動画投稿サイトで高い人気を誇り、昨年、アルバム『極彩色』でメジャー・デビューした女性シンガー・ソングライターの〈れをる〉。彼女がネット時代からの盟友であるサウンド・クリエイターのギガと映像クリエイターのお菊と共に3人組グループのREOLとしてリスタートし、ファースト・アルバム『Σ』を完成させた。

REOL Σ トイズファクトリー(2016)

 「私がこれまでに自分の名義で公開している曲は、8割方、ギガとお菊の2人が関わっているんです。私たちのなかにはすでに3人でひとつの集合体という認識があるので、今回から3人でREOLと名乗ることにしました」(れをる)。

 映像クリエイターがパーマネントなメンバーとして在籍しているのは、REOLのユニークなところだ。

 「私たちは大多数、動画サイトでいまの評価をもらっているから、映像ありきというところがあって。それを作る人間が最初からメンバーにいたほうがいいんじゃないかと。そういう役割の人間が身近にいると、映像先行で音を作ったり、他とは違ったアプローチができる。実際、『Σ』に入ってる“ちるちる”は、映像の世界観を先に決めてから音のアレンジを詰めたんです」(れをる)。

 今回の衣装について、「性格的に可愛い服は避けてしまうんです(笑)。〈カッコイイ〉って言われるのがいちばん嬉しい。だから気高く見える服装に無意識で寄せてたんだと思う」と語るれをる。そんな彼女が歌いはじめたのは高校1年生のときだ。最初はバンドを組んで歌っていたが、高2のときにデスクトップ・ミュージックに出会い、ネット上でギガやお菊と邂逅。高3の冬にニコニコ動画に出会った。バンドをやっていた頃にはJUDY AND MARY東京事変サム41などバンド・ミュージックを中心として音楽に親しんだが、そこからEDMエレクトロなどのデスクトップ・ミュージックも聴くように。ここ数年はR&Bやヒップホップにもその興味の幅が広がったという。

 ギガは中学時代、ゲーム音楽に夢中に。音楽制作ができるゲームソフトでゲーム音楽を耳コピして打ち込んだのが曲作りの原点だという。彼の作るトラックにはエスニックな要素が見受けられるが、それは当時、RPGなどに使われる民族的な音楽や音色にハマったことが影響していると自己分析する。高校時代はR&B系ポップスを聴き、高校卒業後に本格的なトラック作りをスタート。その頃からや海外のダンス・ミュージックも聴くようになったのだとか。

 そんな3人のセンスが結合して生まれたアルバム『Σ』には、中毒性の高い楽曲が盛りだくさん。エレクトロニックなダンス・ビートを基盤に、遊び心と刺々しさが絡み合って爆発している。

 「前回の『極彩色』は淡い世界観で音もそういう感じにしたので、今度はポップな感じにしたいなと。あと、〈Σ〉という文字の形がギザギザしてるので、それに合わせて音もギザギザな感じを出したいなと思っていました」(ギガ)。

 「今回は〈驚かせたい〉っていう気持ちがすごく強くて。〈Σ〉という文字にはネットスラングで〈驚き〉みたいな意味があるからタイトルにしたところもあるんです。大切にしたのは、守りに入らないこと。新しいことをするときって批判も付いてくると思うけど、〈今いるファンの期待を裏切ってしまったらどうしよう?〉とか、そういうことは全部度外視して、22歳の自分が今できて、今やりたいことを存分に表現しました」(れをる)。

 

ネット発の人たちが認められる土壌を

 リード曲の“ギミアブレスタッナウ”は、〈Give me a break! Stop now!(いい加減にして!)〉をカタカナで表現したタイトル。自分を取り巻く環境に対する苛つきを歌った曲だ。

 「これまでの曲は喜怒哀楽だと〈哀〉が6、7割を占めるんです。そのなかには〈怒り〉とか〈ふてくされ〉みたいなものも少し含まれるけど、ただもう怒り叫んでるっていうのは書いたことがなかったから、そこを広げてみようと」(れをる)。

 また、歌舞伎ダブステップと呼びたいパートも飛び出す“宵々古今”は、ド派手でアッパーな和ダンス・チューン。アルバムの総仕上げとして最後に作った曲で、歌詞には「今いるファンと一緒に次のステップへ」(れをる)という願いが込められている。

 そして、抜群にキャッチーなメロディーが頭から離れない“ちるちる”は、届かぬ想いを綴ったラヴソング。本作の他のラヴソングも、恋したときのもどかしい心情を歌った曲が多い。

 「失恋させたがりなんですよね(笑)。成就させたくなくなっちゃうんです。“RE:”も最初は両思いにしようと思ったんですけど、最後に失恋しちゃった(笑)。ちょっと哀愁入ってるのが好きなのかもしれないです」(れをる)。

 ネットで見つからないページにアクセスしたときのエラー表示を曲名にした“404 not found”は、本作で異質なテイストの曲。れをるの儚さと切なさに溢れた歌声が実にエモい。

 「見つけてもらえないもの、忘れられてしまうもの、そういうものに着目して書きました。それって自分たちの音楽にも当てはまるし、自分という存在も100年後には忘れられてると思うんです。今抱えてる悩みや苦しみ全部もずっと覚えてる人っていないはず。その寂しさみたいなものを伝えたかったのと同時に、忘れられるからこそ救われる部分もあるっていうもどかしさを歌ってるんです。人は忘れる生き物だけど、そこが良さでもある、と思っているので」(れをる)。

 今後は映像クリエイターがいる強みを活かし、一風変わったところでプロジェクションマッピングなどを使用したライヴをしていきたいというREOL。「お城でライヴとかやってみたいですね。東京ドームの白い天井とかに映してもおもしろそう」(お菊)とアイデアは膨らむ。

 「これからは、ネットで音楽を聴いてる人とCDで音楽を聴いてる人をリンクさせていく存在になれれば。私たちががんばることで、それが結果的にネット発の人たちが認められる土壌を広げられればいいな、と思っています」(れをる)。