日本人ならではの情感、鼓動感、躍動感
――音像も大きく変わったんじゃないでしょうか。これまでは透明感を感じさせるものでしたけど、今回はすごくロウな感触があります。
橋本「今回の重要なポイントかもね」
Uyama「そうですね。ただ、ロウとかドープって観点で作った曲は、まずブロークンでローファイなビートがあって……というイメージかなと思うんですけど、今回は生音に近いドラムでやろうというのがひとつのコンセプトとしてあったんです」
――ロウ・ハウスみたいな打ち込みのローファイなダンス・トラックとは考え方が違うということですかね。
Uyama「基本的に、アルバム通してドラムのセットを変えてないんです。それは、ゆくゆくは生のバンド編成でやったらおもしろいかなという目論見もあって。これまでのような曲……例えば“One Day”のような曲を生のドラムで叩いても、原曲の気持ち良さには及ばない。ドラムの鳴りが違うので」
橋本「“One Day”はループ・ミュージックの気持ち良さだからね。今回はループ・ミュージックのフォーマットから逸脱した作りで、そこがいちばん変わったところなんじゃないかな。そして、それは奇しくも現在進行形のジャズやヒップホップの潮流とも一致していると思う。クリス・デイヴ以降のドラムだったり、ケンドリック・ラマー以降の動きだったり。生音寄りのアプローチもそうだし、ジャストじゃない、揺れているグルーヴもシンクロしている」
Uyama「ブルー・ノート界隈やロバート・グラスパー以降のジャズの動きは、僕ら世代のヒップホップとすごく密接になっているなあと感じるんですよね」
橋本「グラスパー周辺はJ・ディラの影響をすごく受けているけど、Uyamaくんたちも同時代にJ・ディラの音を吸収してきたわけで、近いアプローチになるのは自然なことだと思う。そういえばグラスパーの初来日は、J・ディラと誕生日と歳が同じ(74年2月7日)Nujabesと観に行ったんだよね」
Uyama「ホントですか!? 確か10年前とか、結構早いタイミングですよね。僕はサックスを吹くので、サックスを意識していまのジャズを聴いているんです。ジャリール・ショウとか、楽器のフロウもヒップホップっぽいし」
橋本「まさにそういうものだよね」
Uyama「それから、ジャズとヒップホップの関連でいうと、フライング・ロータス周辺の動きもあるじゃないですか。そういうものも意識しながら、日本人としてできることを考えたらこういう作品になったんですよね。今回は日本人ならではの情感、鼓動感、躍動感を出したいというのも考えていたことで」
橋本「そういう意味では、今回ラッパーはShing02だけで、海外のメンツは参加していないでしょう。それも良かったんじゃないかなと」
Uyama「そこは狙ったところですね。海外の音を聴いて、海外っぽい音を作りたくなくて。例えばDJ KRUSHは日本らしさを表現しているからこそ、海外でも評価されたと思うんです」
橋本「そういう新しい挑戦をリスナーも待っていたと思うし、それでいてUyama Hirotoのサード・アルバムとしていままでのリスナーも自然に受け入れられるものになったんじゃないかな。これまでの作品も、フレーズとかに和的な要素が結構あるものね」
Uyama「そうかもしれないですね。ビートに関しては新しいパターンを模索しつつ、従来のヒップホップ的なブレイクビーツも入れていますし。そこは新しい挑戦と、これまでやってきたことのせめぎ合いというか」
橋本「アンダーソン・パックのアルバムとかもそうじゃない? ヒップホップっぽい曲もあれば、ハウスっぽい曲もソウルっぽい曲もあって、壊れている曲もある。まあアンダーソン・パックの場合はいろんなプロデューサーが参加した結果、ああいうバランスになっているわけだけど、Uyamaくんの場合はそれを自分ひとりで咀嚼してやっているという違いはあるかな」
Uyama「こんなパターンのドラムは誰もやったことがないんじゃないかな……とか、日記を綴る感覚で音楽を作って、そのなかで自分のなかから出てきたアイデアをどんどん採り込んでいったら、自然とヴァラエティーに富んだ作品になったんです」
橋本「そういう制作の勢いがすごく感じられる作品だよね。ちょっと歪だったり、ズレや引っくり返る感覚を大事にしている。自由奔放で、予定調和的ではない。そのへんの気持ちをタイトルの〈freeform〉って言葉に託しているのかなと」
Uyama「まさにそうですね。昔のジャズには、ハービー・ハンコックの『Sextant』(73年)や電化時代のマイルスとか、日本でも富樫(雅彦)さんの『Spiritual Nature』(75年)のように、〈なんでこんなレコードが作れてしまうんだ!〉と思えるものがたくさんある。特にフリージャズのレコードにはそういうパワーを感じるんですね。そこから影響を受けて、僕も挑戦したかったんです」
橋本「フリージャズにもクリシェはあるけど、そういう枠すら排して作ったんだろうなと思う。ジャズの自由な部分に反応した作品ということで、良いタイトルだと思うな」
Uyama「これをジャズと呼んでいいのかわからないですけど、でもジャズは自由なものだと思いましたし。あと、seietsuくんの『Freeform Breaks』(2010年)というぶっ飛んだビート集があって、その作品に焚き付けられたところもあって」
橋本「なるほどね、『Freeform Breaks』は重要だよね。そことリンクしているんだろうな感は確かにある」
――橋本さんは選曲家として、この作品の横にどんな作品を置きますか?
橋本「なんだろう? この1週間は『freeform jazz』がベッド脇のCDプレイヤーには入りっぱなしだったから、他の作品と並べられない(笑)」
Uyama「作り手からしても他と並べづらい作品だろうなとは思います。でも、橋本さんにそう言ってもらえるのはすごく嬉しいことですね」
橋本「Uyama Hirotoという人しか浮かび上がってこない感じがあるんだよね。かといって、ファーストやセカンドを並べる必要もないし。まあ記事として関連したものを紹介したい気持ちはわかるんだけどね(笑)」
――部分的に通じるものはいろいろあるんでしょうけどね。曲によってはセオ・パリッシュなんかと近い手触りも感じましたし、先ほどはロバート・グラスパー周辺のお話も出ましたけど。
橋本「グラスパーなんかの現行ジャズのものと一線を画しているように感じるのは、Uyamaくんがマルチ・プレイヤーってことなんじゃないかな。つまりさっきも話したけど、ほとんど一人で演奏して作っている。参加しているのはShing02とSegawaくんくらいで。いまのNYにしてもLAにしても、ジャズ・ミュージシャン同士の出会いやジャンルを超えた出会いがあって、音楽が生まれていると思うんだよね。でもこれはもっとパーソナルな作品でしょう。デリック・ホッジの新作『The Second』はほとんど一人で作っていたけど、隣に並べる感じとはまた違うし……」
Uyama「そういうことでいうと、パット・メセニーがちょっと前に一人で組んだ『Orchestrion』(2010年)というアルバムを出していて、あれを聴いて〈バンドじゃなくてもいいんだな〉と吹っ切れたところはありますね。まあ単純に、自分で全部やっちゃったほうが早いというのがデカイんですけど(笑)」
――今回の作品はどういう位置付けになりそうですか。
Uyama「ある意味でトライアルなんですけど、でもこれが自分自身なんです。ファーストやセカンドの頃は、アルバムを聴いた人と実際に会って話したりすると、音楽のイメージと違いますね、みたいなことを言われることが多くて」
橋本「Uyamaくんをよく知っている人は、今回のほうが〈らしい〉と思うだろうね。男っぽさや芯の強さが伝わりやすい作品になっている。これまでのアルバムみたいに、ガールフレンドと一緒に聴きたいもの、という感じじゃないからね(笑)。一人で聴いて奮い立たされるような作品だと感じたな」
Uyama「テンションは高いし、気合いも入っているつもりです。とにかく自分をさらけ出したかったし、それができて本当に良かったなと思ってますね」
Super Plume presents REJOICE
Uyama Hiroto "freeform jazz" 発売記念party
11月2日(水)@CONTACT TOKYO
open 22:00~
Studio:
Uyama Hiroto -Hybrid Live Set
Kuniyuki Takahashi -Live
sauce81 -Live
Toru Hashimoto (Suburbia)
DJ Kenta (ZZ Production)
FK (ex Guinness Tribe Records)
Dacha (Zukijima)
Contact:
DJ Yogurt (Upset Rec)
DJ Funnel feat. shiba @ FreedomSunset
中村智昭 (Musicaänossa | Bar Music)
Wataru Sakuraba
hikarimono (Playa)
YA (Village Ram)
Friday Lounge Crew (Cafe Apres-midi)