94年に橋本徹(Suburbia Factory)がクラブ・イヴェント主催に伴って立ち上げたコンピ・シリーズこそ〈フリー・ソウル〉です。今年はその概念の誕生から20年!ということで各社から多種多様な作品がコンパイルされ、またそれに伴うカタログのセレクションが復刻されるなど、いろいろ賑やかな様相を呈しています。
思えば、アシッド・ジャズやレアグルーヴ作品を思わせる麗しいアートワークに身を包んでシリーズが始まった頃には、それは既存の切り口や解釈に対するカウンター的な意味合いもあったはずです。それが徐々に新たな基準を生み出すようになり、指標のひとつとなり、ある種のお墨付きとして成立するようになっての20年。カウンターであり、スタンダードであり、アンバサダーでもあり、場合によっては何かの入口にもなり得るこのシリーズの、各作品に用意されたチョイスをどう楽しんで、その後どうするのかは聴き手の皆さんそれぞれ次第ではありましょう。
下で紹介しているのは、2010年代以降の楽曲からチョイスされた〈2010s〉シリーズや、邦楽を素材にしたもの、また新企画となるミックスCDなど。これをきっかけにもっともっとフリーにソウルを楽しみましょう!!
とにかく名曲、美曲のつるべ打ち状態。フィラデルフィアが育んだスウィート・グループの代表格による音源を、基本的なヒット曲も漏らさずに収録した親切な一枚です。後年のリサイクルによって評価が定まった“Hurry Up This Way Again”をオープニングに置き、ニュー・ソウル感の強めなナンバーで序盤を固めるという采配はフリー・ソウルらしい工夫と言えましょう。スタンダードなベスト・アルバムとしても普通にオススメしたい一方、わりと軽視されがちな近年の作品からも宝石を拾い上げているのは流石です。 *狛犬
フリー・ソウル視点で選ぶ10年代クラシックスの〈グルーヴ〉編。インコグニートやブランニュー・ヘヴィーズといったアシッド・ジャズ組の健在ぶりを起点に、ボビー・コールドウェルを引用したテラス・マーティンやスティーリー・ダンを思わせるステップキッズなど、新進アーティストによるスタイリッシュなAORオマージュも織り交ぜ爽やかに聴かせるセレクション。ハイエイタス・カイヨーテやクリス・ターナーらの芳香も良いアクセントになっており、表題通りの小気味良い聴後感はシリーズ最高峰だ。 *池谷
2010年代クラシックス〈メロウ〉編。スティーヴィーを彷彿とさせるPJ・モートンで始まり、フィリー名曲を現代に再提示したジョン・レジェンド、シャーデー愛を露にするライやジェシー ・ウェア、ブギーを纏うロビン ・シックやインターネット、ジョニを歌うジェイムズ・ブレイク、古典を踏まえながらモダンに響く現代ジャズ勢、そしてビル・ウィザーズの再来たるマイケル・キワヌーカで終幕。コンテンポラリーなソウル・ミュージックを捉えると同時に、70年代から10年代へと連なる音楽の輪廻転生も示す選曲だ。 *池谷
創立8年となる日本屈指のグッド ・ミュージック・レーベルを2枚組160分にコンパイル。ヒップホップを軸にジャズ、ソウル、ブラジルまでさまざまな音楽的素養を持ったミュージシャン集団でもある同レーベルだが、ミルトン・ナシメントのカヴァーやマイゼル・ブラザーズ風味などフリー・ソウル的趣向と共通する手捌きをピックアップすることでその幅広さを示しつつ、ディアンジェロ~J・ディラ以降のソウルネスやビート感覚を孕んだオリジナル楽曲を並べ、新世代ジャズやヒップホップとの同時代性も余すことなく伝える。 *池谷
カラパナをはじめとするハワイ産AORの3連発というオープニングでそよいだピースフルな島風が、シカゴのブランズウィックへと流れてゆき、南部のハイのエレガンスも誘い出しながら、都会のタブーをも纏い、サルソウルとウェスト・エンドの熱で踊らされるうちに、ベツレヘムへ辿り着いて余韻たっぷりのジャズで幕を閉じる。こんなふうに強引にストーリー仕立てで紹介できるほど、それぞれに音のキャラクターが立った多彩なレーベルの楽曲をスムースに連ねた選曲センスが際立つ。こちらはタワレコ限定リリース。 *池谷
文学的な歌詞世界と、その言葉たちを届ける音楽の豊かさがキリンジの美点。お馴染みのロゴを排したジャケがそんな世界観へのリスペクトなのかはわからないが、音楽的な多彩さをソロも含めた広いキャリアから切り取った選曲は、やはりフリー・ソウル的な快さに満ちている。マイケル・フランクスやリロイ・ハトソンなどの影を感じつつ聴き進めるDisc-2もいいけど、メランコリック&フォーキーな“エイリアンズ”とポジティヴなミディアム“スウィート・ソウル”で締めるDisc-1のエヴァーグリーン度といったら! *池谷
フリー・ソウルとはまた違った観点から、90年代以降のリスナーたちに音楽との接し方を提案してきたのが、MUROのミックステープ〈Diggin'〉シリーズでした。近年はオフィシャル盤も増えていますが、本作はタイトルの通り、これまでフリー・ソウルによって提案されてきた数々の楽曲をMUROがDJミックスするというグッド・アイデアな企画盤です。もともとフロア・ミュージックとしての快感を重視して選び抜かれてきたフリー・ソウルだけに、こうした体裁との相性もバッチリ。選曲からはMURO的なフリー・ソウル観も窺えます。 *狛犬
Urban-Mellow盤とUrban-Groove盤という2枚組に埋め込まれた、男、女、涙、哀愁、嘆き、夏、ドライブ……ほろ苦い大人の全36曲。90年代以降のサンプリング感覚と歌謡性を下地に、ソウルやディスコ、ラテン、ファンク、ボッサ、オールディーズ、AOR 、ヒップホップなどが煮込まれたバンドなわけで、この企画がハマりすぎなのも当然っちゃ当然、というかCKBこそがフリー・ソウル・バンドだという言い方もできそう。リリース・タイトルの多い彼らだからこそ、こういう粋なセレクションは非常に嬉しいですね。 *狛犬
2012年に逝去したシカゴのフォーキー・ソウルマンの名曲群がしっくり馴染む形でフリー・ソウル盤にコンパイル。カデット時代の音源を中心に、それ以前の音源からトーキング・ラウドでの復活期、4ヒーローのリミックスやベス・オートンとのコラボレート、そしてポール・ウェラーやNujabesとの共演まで、故人のキャリアを総括するかのよう。解説によると同名パーティーを始めるそもそものきっかけが“Ordinary Joe”にあったそうで、本作が〈フリー・ソウル20周年〉のキックオフとなったことにも納得です。 *狛犬
▼関連作品
往年の〈フリー・ソウル〉シリーズの人気曲を集めた3枚組コンピ『Ultimate Free Soul Collection』(ユニバーサル)
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