
故Nujabesをサポートし続け、自身の作品でも美しく叙情的な世界を紡いできたマルチ・プレイヤー、Uyama Hiroto。そのサウンドは前作『freedom of the son』(2014年)の時点でかなり多様な広がりを見せてはいたのだが、それでもひと括りに〈ジャジー・ヒップホップ〉として受け止められてしまう傾向はあったように思う。しかし、それから2年を経て届けられたニュー・アルバム『freeform jazz』は、そうした旧来のカテゴライズを明確に拒否する、タイトル通りのフリー・フォームな作品だ。Uyamaらしい美しいアンサンブルが紡がれながら、ここにはフリーキーに躍るビートや実験的なアイデア、じっくり聴き手をハメていくドープな展開が詰まっている。今回はそのUyama氏に加え、かねてから交流の深い編集者・選曲家の橋本徹(SUBURBIA)氏を迎え、冒険心溢れる『freeform jazz』について大いに語ってもらった。

海に近い場所に住む人ならではの音楽
――まずは、お二人の交流が始まったきっかけから伺いたいです。
橋本徹「初めて顔を合わせたのは、Nujabesの家のテラスでバーベキューをやった時が最初かな。あれは2008年くらい?」
Uyama Hiroto「そうですね、ちょうど僕がファースト・アルバム(2008年作『a son of the sun』)を出した頃だと思います」
橋本「そうだよね。その時にUyamaくんやharuka nakamuraとか、今回の作品にも参加しているSegawa(DJ Segawa Tatsuya)くんあたりも来ていて。僕とNujabesが飲みすぎてソファーでくつろいでいたら、Uyamaくんとnakamuraくんのセッションが始まって、それに感動しちゃってね。もちろんそれまでもUyamaくんのソロ作は素晴らしいなと思って聴いていたし、それ以前からNujabesの右腕として活躍していることも知っていたんだけど、その時のセッションで、Nujabes作品の情感やウワモノの感じはUyamaくんに依るところが大きいんだなって、改めてわかったんです。NujabesもUyamaくんをすごく信頼していましたし」
Uyama「その時は、橋本さんがバーベキューに来るよって言われたから、〈えっ!〉て驚いちゃって。ビートを作りはじめた18歳くらいの頃、周りはDJでヒップホップをかけていたんですけど、自分はネタものを中心にかけていて。音楽を知るうえで、橋本さんが手掛けていた〈Free Soul〉のコンピから学ぶことがすごく大きかったんですよ。橋本さんは先生みたいな存在といいますか」
橋本「94~95年に〈FREE SOUL UNDERGROUND〉というパーティーを渋谷のDJ Bar Inkstickでやっていた時、Nujabesもほぼ毎月通ってくれていてね。UyamaくんにしてもNujabesにしても、音楽に求める情緒が近いのかなと思いますけど」
Uyama「それはもう、橋本さんが紹介されていたものをチェックして、レコード買いに行って勉強した結果ですね(笑)」
橋本「いやいや、いまは僕がUyamaくんが〈ヤバイですよね〉っていうものをチェックしてますから。特にパット・メセニー&ライル・メイズ的なものとか、ミナスの音楽、スピリチュアル・ジャズと呼ばれる音楽に求めている感覚が近いんじゃないかな」
――橋本さんが今春コンパイルした『Good Mellows For Sunrise Dreaming』にはUyamaさんの楽曲が収録されています。
橋本「この1年ほどでいちばん好きな曲と言っても過言ではない“End Of The Road”を入れたくて、まだ本人のアルバムにも入っていない曲なので申し訳ないかなとも思ったんだけど、快諾してもらったんです。リリース記念のイヴェントにもライヴで出演してもらいましたね」
Uyama「〈Free Soul〉シリーズを聴いていた20年前の自分からすると、まさか橋本さんのコンピレーションに(自分の楽曲が)入るとは思ってもいませんから。これはもう光栄なことで」
――〈Good Mellows〉のコンピ・シリーズはバレアリックなチルアウト・ミュージック寄りの選曲で、その文脈でUyamaさんの音楽を紹介しているのがおもしろいなと感じました。
橋本「〈Good Mellows〉はハウス・ミュージック以降の感覚を踏まえたメロウ・チルアウトがコンセプトなんだけど、ジャジー・ヒップホップの流れともクロスするものがあるんですよ。Uyamaくんの“Homeward Journey”にブロークン・ハウスっぽいリミックスがあるけど、あの曲は〈Good Mellows〉のDJセットに入ってくるし、海辺でDJをやる時にもすごく映える。実際にUyamaくんは横須賀を拠点にしていて、一緒にレーベルを運営している小泉(巧)くんは逗子にいて、そしてNujabesの家は鎌倉にあって――そういう海に近いところの人たちの音楽との接し方は、ある種の週末気分があってすごく素敵だなと思うし、〈Good Mellows〉シリーズの感覚と合致するんです。そういう意味でもコンピを締め括るに相応しい作品だと思って、Uyamaくんの曲をエンディングに入れさせてもらったんですよ」
Uyama「ヒップホップでもLAとNYとでは全然違うように、住む場所で作る音が変わってくるよねって話はNujabesともしていました。やっぱり、僕の音はどこか海っぽかったり夕陽っぽかったりするのかなと」
橋本「特に湘南あたりは海のほうに陽が沈んでいくでしょう。あの夕陽が大きいんじゃないかな。haruka nakamura“Lamp”のPVのような、陽が沈むか沈まないかの時間の感覚。そういう時間帯に海辺を歩いていたら、Uyamaくんたちがレコーディングの休憩で出てきたところにたまたま出くわしたこともあった(笑)」
Uyama「ハハハ(笑)、ありましたね。東京に住んでいれば便利だろうと思うこともありますけど、結局いまに至るまでこっち(横須賀)で暮らして音を作っていますね」
橋本「渋谷なんかに住んでいると、どうしても人や物や情報に溺れてしまうところがあるでしょう。そういう意味で、クリエイティヴの環境としてもすごくいいんじゃないのかな。僕は東京にいて距離的には離れているけど、UyamaくんとDJやライヴで共演したりする機会はちょくちょくあって、そういうやり取りがずっと続いている。良い距離感なのかもしれないね。半年に1回くらいは会って、そこでUyama Hirotoはいまこういう方向に進んでるんだなってことがわかる」
Uyama「ミュージシャン同士で会っても、いま作っているものについて詳しく話したりはしないんですけど、橋本さんにはストレートに、具体的に話せちゃうんですよね」
予定調和を外したかった
――ではUyamaさんの新作『freeform jazz』の方向性は、橋本さんは以前から感じ取っていましたか?
橋本「ここ2回くらいのSegawaくんとやっているライヴを観て、ディープで本来的な意味でのスピリチュアルなジャズを志向しているんだろうなと感じていましたからね。即興的な部分も含めて」
――『freeform jazz』は、まさにいま橋本さんがおっしゃったような新しいモードが窺える作品ですよね。過去2作とは大きく変化を遂げたんじゃないかと。
Uyama「そうですね。前作にあたるセカンド『freedom of the son』はファーストの続編という位置付けで、ずっと前から描いていたイメージを形にしたものだったし、それまでのリスナーが聴きやすいようにと考えて作っていたところもあるんです。その後に、Nujabesの遺作『spiritual state』(2011年)を、作品の素材を集めながら主体的に関わって完成させたんですね。そこで、これまでの路線は一区切りで、より自分らしいことをしたいなって思うようになったんです」
橋本「1週間ほど前に新作の音源をいただいんだけど、毎日、朝起きた時と夜眠る前に聴いていて、より心の深いところで感じる音楽だなと。これだけ繰り返し聴く音楽はなかなかない。これまでは、いわゆるジャジー・ヒップホップ~メロウ・ビーツのフォーマットに則した音楽を求められていたと思うし、そのフォーマットのなかでUyamaくんらしい表現をしていたと思うんだけど、今回はもっと根本のところで創作していると感じましたね。心のうねりを感じるというか、内面をえぐるようなサウンドというか。それが僕のリスナーとしての気持ちにもフィットしたのかなと」
Uyama「予定調和を外したかったという気持ちがいちばんデカかったですね。これまでは構築的で、頭の中で描いた青写真をどう具体化していくかという作り方だったんです。サンプリング・ミュージックだと、どうしてもそういう作り方になるというのもありますし。今回はほとんどサンプリングを使っていなくて、ビートはほとんど手打ちで補正もしていない」
橋本「それもあって、すごくエモーショナルだよね」
Uyama「ワンテイクで録っちゃったものも結構多いんです。一筆書きの書道みたいな音楽というか。そうやって、自分の内にあるものをストレートに反映させたらどんなものが出来るのかをやってみました」
橋本「だから作り方は大きく変わったんだろうけど、アルバムとしてガラリと変わったという印象は、僕はあまり受けなかったんだよね。相変わらずUyamaくんらしいなと。それは曲順が巧みに構成されているからかもしれないけど。感情のままに生み出した楽曲をアルバムとしてまとめる時に、これまで培ってきた経験が反映されたんじゃないかな」
――これまでの作品に通じるモーダルで美しいアンサンブルが、特に前半は前に出ているように感じられます。だから自然に入っていけるんですが、徐々にドープな展開を見せていく。沼にハマっていくような感じといいますか。
橋本「その感じが気持ち良いんだよね。やっぱり僕らはアルバムを聴いて育っているから、自然と構成を考えちゃうじゃない。自分がコンピレーションを作る時も考えるし」
Uyama「確かに全体の流れはかなり考えました。それから、今回は曲間を詰めて、間を置かずに次へ繋がっていく構成にしているのも大きいかなと」
日本人ならではの情感、鼓動感、躍動感
――音像も大きく変わったんじゃないでしょうか。これまでは透明感を感じさせるものでしたけど、今回はすごくロウな感触があります。
橋本「今回の重要なポイントかもね」
Uyama「そうですね。ただ、ロウとかドープって観点で作った曲は、まずブロークンでローファイなビートがあって……というイメージかなと思うんですけど、今回は生音に近いドラムでやろうというのがひとつのコンセプトとしてあったんです」
――ロウ・ハウスみたいな打ち込みのローファイなダンス・トラックとは考え方が違うということですかね。
Uyama「基本的に、アルバム通してドラムのセットを変えてないんです。それは、ゆくゆくは生のバンド編成でやったらおもしろいかなという目論見もあって。これまでのような曲……例えば“One Day”のような曲を生のドラムで叩いても、原曲の気持ち良さには及ばない。ドラムの鳴りが違うので」
橋本「“One Day”はループ・ミュージックの気持ち良さだからね。今回はループ・ミュージックのフォーマットから逸脱した作りで、そこがいちばん変わったところなんじゃないかな。そして、それは奇しくも現在進行形のジャズやヒップホップの潮流とも一致していると思う。クリス・デイヴ以降のドラムだったり、ケンドリック・ラマー以降の動きだったり。生音寄りのアプローチもそうだし、ジャストじゃない、揺れているグルーヴもシンクロしている」
Uyama「ブルー・ノート界隈やロバート・グラスパー以降のジャズの動きは、僕ら世代のヒップホップとすごく密接になっているなあと感じるんですよね」
橋本「グラスパー周辺はJ・ディラの影響をすごく受けているけど、Uyamaくんたちも同時代にJ・ディラの音を吸収してきたわけで、近いアプローチになるのは自然なことだと思う。そういえばグラスパーの初来日は、J・ディラと誕生日と歳が同じ(74年2月7日)Nujabesと観に行ったんだよね」
Uyama「ホントですか!? 確か10年前とか、結構早いタイミングですよね。僕はサックスを吹くので、サックスを意識していまのジャズを聴いているんです。ジャリール・ショウとか、楽器のフロウもヒップホップっぽいし」
橋本「まさにそういうものだよね」
Uyama「それから、ジャズとヒップホップの関連でいうと、フライング・ロータス周辺の動きもあるじゃないですか。そういうものも意識しながら、日本人としてできることを考えたらこういう作品になったんですよね。今回は日本人ならではの情感、鼓動感、躍動感を出したいというのも考えていたことで」
橋本「そういう意味では、今回ラッパーはShing02だけで、海外のメンツは参加していないでしょう。それも良かったんじゃないかなと」
Uyama「そこは狙ったところですね。海外の音を聴いて、海外っぽい音を作りたくなくて。例えばDJ KRUSHは日本らしさを表現しているからこそ、海外でも評価されたと思うんです」
橋本「そういう新しい挑戦をリスナーも待っていたと思うし、それでいてUyama Hirotoのサード・アルバムとしていままでのリスナーも自然に受け入れられるものになったんじゃないかな。これまでの作品も、フレーズとかに和的な要素が結構あるものね」
Uyama「そうかもしれないですね。ビートに関しては新しいパターンを模索しつつ、従来のヒップホップ的なブレイクビーツも入れていますし。そこは新しい挑戦と、これまでやってきたことのせめぎ合いというか」
橋本「アンダーソン・パックのアルバムとかもそうじゃない? ヒップホップっぽい曲もあれば、ハウスっぽい曲もソウルっぽい曲もあって、壊れている曲もある。まあアンダーソン・パックの場合はいろんなプロデューサーが参加した結果、ああいうバランスになっているわけだけど、Uyamaくんの場合はそれを自分ひとりで咀嚼してやっているという違いはあるかな」
Uyama「こんなパターンのドラムは誰もやったことがないんじゃないかな……とか、日記を綴る感覚で音楽を作って、そのなかで自分のなかから出てきたアイデアをどんどん採り込んでいったら、自然とヴァラエティーに富んだ作品になったんです」
橋本「そういう制作の勢いがすごく感じられる作品だよね。ちょっと歪だったり、ズレや引っくり返る感覚を大事にしている。自由奔放で、予定調和的ではない。そのへんの気持ちをタイトルの〈freeform〉って言葉に託しているのかなと」
Uyama「まさにそうですね。昔のジャズには、ハービー・ハンコックの『Sextant』(73年)や電化時代のマイルスとか、日本でも富樫(雅彦)さんの『Spiritual Nature』(75年)のように、〈なんでこんなレコードが作れてしまうんだ!〉と思えるものがたくさんある。特にフリージャズのレコードにはそういうパワーを感じるんですね。そこから影響を受けて、僕も挑戦したかったんです」
橋本「フリージャズにもクリシェはあるけど、そういう枠すら排して作ったんだろうなと思う。ジャズの自由な部分に反応した作品ということで、良いタイトルだと思うな」
Uyama「これをジャズと呼んでいいのかわからないですけど、でもジャズは自由なものだと思いましたし。あと、seietsuくんの『Freeform Breaks』(2010年)というぶっ飛んだビート集があって、その作品に焚き付けられたところもあって」
橋本「なるほどね、『Freeform Breaks』は重要だよね。そことリンクしているんだろうな感は確かにある」
――橋本さんは選曲家として、この作品の横にどんな作品を置きますか?
橋本「なんだろう? この1週間は『freeform jazz』がベッド脇のCDプレイヤーには入りっぱなしだったから、他の作品と並べられない(笑)」
Uyama「作り手からしても他と並べづらい作品だろうなとは思います。でも、橋本さんにそう言ってもらえるのはすごく嬉しいことですね」
橋本「Uyama Hirotoという人しか浮かび上がってこない感じがあるんだよね。かといって、ファーストやセカンドを並べる必要もないし。まあ記事として関連したものを紹介したい気持ちはわかるんだけどね(笑)」
――部分的に通じるものはいろいろあるんでしょうけどね。曲によってはセオ・パリッシュなんかと近い手触りも感じましたし、先ほどはロバート・グラスパー周辺のお話も出ましたけど。
橋本「グラスパーなんかの現行ジャズのものと一線を画しているように感じるのは、Uyamaくんがマルチ・プレイヤーってことなんじゃないかな。つまりさっきも話したけど、ほとんど一人で演奏して作っている。参加しているのはShing02とSegawaくんくらいで。いまのNYにしてもLAにしても、ジャズ・ミュージシャン同士の出会いやジャンルを超えた出会いがあって、音楽が生まれていると思うんだよね。でもこれはもっとパーソナルな作品でしょう。デリック・ホッジの新作『The Second』はほとんど一人で作っていたけど、隣に並べる感じとはまた違うし……」
Uyama「そういうことでいうと、パット・メセニーがちょっと前に一人で組んだ『Orchestrion』(2010年)というアルバムを出していて、あれを聴いて〈バンドじゃなくてもいいんだな〉と吹っ切れたところはありますね。まあ単純に、自分で全部やっちゃったほうが早いというのがデカイんですけど(笑)」
――今回の作品はどういう位置付けになりそうですか。
Uyama「ある意味でトライアルなんですけど、でもこれが自分自身なんです。ファーストやセカンドの頃は、アルバムを聴いた人と実際に会って話したりすると、音楽のイメージと違いますね、みたいなことを言われることが多くて」
橋本「Uyamaくんをよく知っている人は、今回のほうが〈らしい〉と思うだろうね。男っぽさや芯の強さが伝わりやすい作品になっている。これまでのアルバムみたいに、ガールフレンドと一緒に聴きたいもの、という感じじゃないからね(笑)。一人で聴いて奮い立たされるような作品だと感じたな」
Uyama「テンションは高いし、気合いも入っているつもりです。とにかく自分をさらけ出したかったし、それができて本当に良かったなと思ってますね」
Super Plume presents REJOICE
Uyama Hiroto "freeform jazz" 発売記念party
11月2日(水)@CONTACT TOKYO
open 22:00~
Studio:
Uyama Hiroto -Hybrid Live Set
Kuniyuki Takahashi -Live
sauce81 -Live
Toru Hashimoto (Suburbia)
DJ Kenta (ZZ Production)
FK (ex Guinness Tribe Records)
Dacha (Zukijima)
Contact:
DJ Yogurt (Upset Rec)
DJ Funnel feat. shiba @ FreedomSunset
中村智昭 (Musicaänossa | Bar Music)
Wataru Sakuraba
hikarimono (Playa)
YA (Village Ram)
Friday Lounge Crew (Cafe Apres-midi)