これはもしかしたら、スカートこと澤部渡の新たな幕開けになるかもしれない。今年の4月にKAKUBARHYTHMからリリースした最新作『CALL』を引っ提げ、東京・渋谷WWWで行ったワンマン・ライヴのアンコールで演奏され、大きな反響を呼んだ“静かな夜がいい”が、キャリア初のCDシングルとしてリリースされた。スカート初期から澤部のバックを支えてきた面々が紡ぐ、イントロから一気に聴き手を昂揚させるグルーヴィーなサウンドに加え、トリプルファイヤー鳥居真道が艶やかなギター・ソロで貢献した同曲は、スカートの非凡なポップセンスが溢れんばかりに詰まったキラー・チューン。澤部が20歳の頃に作ったという“雨の音がきこえる”や新曲の“おれたちはしないよ”と“いつかの手紙”を加えた全4曲は、ポップ・マエストロ澤部渡のさらなる覚醒を告げるかのようだ。

今回は、彼とテン年代を代表する若手トラックメイカーの一人、tofubeatsとの対談を実施。澤部がドラムスを担当するトーベヤンソン・ニューヨークの面々やokadadaら共通の友人を多数持ちながらも、それぞれに別の角度からポップ・ミュージックの山を登ってきた2人ならではの視点から、お互いのポップ観の共通点や違い、そしてスカートのキャリア史上もっとも開かれた雰囲気を持つ“静かな夜がいい”の魅力を語ってもらった。

スカート 静かな夜がいい KAKUBARHYTHM(2016)

澤部さんの音楽のほうが圧倒的に二枚目

――2人がお互いのことを認識したのは、いつ頃でした?

tofubeats 「僕が“No.1”のミュージック・ビデオ(2分50秒頃から澤部がカメオ出演)を撮る前には知っていたので、結構昔の話ですね。2011年ぐらいかな、トーベヤンソン・ニューヨークの初期メンバーの3人(森敬太西村ツチカオノマトペ大臣)がメンバーを募集して、〈凄くデカイ人が入ってきた〉と聞いたのが最初でした。その当時、澤部さんはメンバーに知り合いもいない状況で、飛び込んでいったんですよね?」

tofubeatsの2013年作『lost decade』収録曲“No.1”
トーベヤンソン・ニューヨークの2013年のシングル“ロシアンブルー”のトレイラー映像
 

澤部渡(スカート)「そうですね。知り合いは全然いなかったんですけど、これはおもしろそうだと思って(笑)。トーフくんの名前はその頃から知っていましたよ」

tofubeats「僕も一応トーベヤンソン・ニューヨークの(サポート・)メンバーではあるんですけど、自分のデビュー前後でtofubeatsの活動に勤しみなさいという時期だったんで、〈機材担当〉という扱いになり、1回ぐらいしか出勤したことがないんです(笑)。だからスカートは音源やラジオで聴いていました。ちゃんと話したのは、2013年に神戸のグッゲンハイム邸で開催された〈RUBYSTAR〉というイヴェントのときですね」

――お互いの第一印象は?

tofubeats「僕の第一印象はシンプルに〈大きいな〉ということでした(笑)」

澤部「ハハハ(笑)。僕の印象も〈背がデカイな〉という感じでしたね」

tofubeats 「澤部さんは〈丁寧で技巧派でミュージシャンシップがあって……〉と書かれがちで、実際何でも演奏できる巧者なんですけど、それよりも僕は、あえて生っぽくミックスしている音作りなどから感じられる〈気持ちの乗っかり具合〉が好きなんです。僕はよく〈気合いが感じられるミュージシャンは良い〉と言っていますが、澤部さんは理論を使えるうえで、その気合いが感じられる。スカートの曲は尺を短くすることにこだわっている気がするし、その際の取捨選択にいつも気合いを感じるんです」

澤部「それはめちゃくちゃ意識していますね。ポップスは原点に返れば45回転の7インチですから、できれば3分以内が良いというのがあるんですよ。逆に僕の場合、打ち込みの音楽はよく聴く類のものではないから、トーフくんの曲を聴くと〈ああ、こういう音のバランスにしているのか!〉など新しい発見がある。音に対して凄く繊細な感性を持っている人だと思います」

――トラックメイカーのなかでもシンガー・ソングライターっぽい感覚のある人ですしね。

澤部「そうそう、良い曲を書けるトラックメイカーというイメージがある。ちゃんとメロディーが書けるからこそ、僕のような人間でも聴けるんだろうなと思います」

tofubeats「ただ、僕が澤部さんの音楽を聴いていて思うのは、澤部さんのほうが圧倒的に二枚目だなということなんですよ」

澤部「ちょっと、何言ってんすか(笑)」

tofubeats「今回の作品を聴いても、“おれたちはしないよ”みたいな言い回しも、“静かな夜がいい”というタイトルも二枚目じゃないですか? 僕みたいなタイプがやろうとすると恥ずかしいからちょっとハズしたり、(ゲストを迎えて)人にやってもらったり、曲を長くして薄めたりするんですけど、澤部さんの曲は短くすることでそこが圧縮されるから、ちゃんと自分で言わないといけない。だからやっぱり、今回の作品も二枚目……いつも以上にそうだな、と思いました」

澤部「照れますね(笑)。僕はポップスをやっている意識が強いんですけど、そこにこだわる感覚はトーフくんにもあるように思うんです。同時にそこから逸脱する雰囲気もあって……。そのあたりは自分と凄く似ているのかなと思います」

tofubeatsが10月に発表した新曲“SHOPPINGMALL”
 

――手法は違っても、ポップスとそうでない要素とのバランスを考えている2人というか。

tofubeats「澤部さんも僕も、人に聴かせようとする部分と人には理解されにくいハードコアな部分とがあるタイプだと思うんです。澤部さんの〈フル・コーラスの曲を3分で書く〉というのも知恵を絞らないと無理なことだし、それを常にやるのは相当ハードコアですし」

澤部「あえてそうしている面もありますが、シンガー・ソングライター的な音楽家でありながらポップスを提示しているがゆえに、スカートの音楽はポップスとしては明らかに欠落している部分があるんですよ。そのうえでの僕の理想は〈無駄があるようで無駄がない〉ということ」

――ポップスとして、すべてが完璧なものを作るのではなくて、無駄も含めて完璧な状態に持っていくということですよね。

tofubeats「僕の場合は〈この曲はここ〉というものがちゃんとあれば、あとはわりとどうでもいい感じはあります。むしろ、それさえあれば曲は長いほうが良い。クラブ・ミュージックには〈ループしなきゃいけない〉などの制限が多くて、あまり多くの要素を盛り込めないからこそ、僕の場合はパーソナルな部分が前に出た表現になってしまいがちなんです。だから僕にとって曲を作るというのは、個人的な感情を私的な表現になりすぎることなく、みんなが聴けるポップなものとしてどうにか形にしていく作業なんです」

――例えば“ディスコの神様”は、サウンドとは裏腹に曲の主人公はディスコに行っていないですよね。“静かな夜がいい”の歌詞もここで描かれているものは夢かもしれないと取れるものになっていて、曲に余韻のようなものが入るところが2人に共通している気がします。

澤部「実は“静かな夜がいい”はディスコ帰りの風景を歌った曲なんです。“ディスコの神様”がディスコに行っていないという話には、凄くシンパシーを感じますね」

tofubeatsの2014年作『First Album』収録曲“ディスコの神様”

 

自分の音楽は地に足の着いていないものでありたい

――お互いにアートワークがイラストになることも多いですよね?

澤部「僕の場合は単純にマンガが好きだからというのもありますけど、写真だと現実の話になっちゃうじゃないですか。自分の音楽は地に足の着いていないものでありたいという気持ちがどこかにあって、イラストになるのはそういうことかもしれないです」

――自分と楽曲とを分けたい、ということですか?

澤部「そうですね。もちろんその逆もある。イラストを使ったジャケットは自分と楽曲を繋ぐ碇のようなものというか」

tofubeats「僕の場合、毎号買っている漫画はジオラマ~ユースカぐらい。僕は自分の作品のアートワークにずっと山根慶丈さんのイラストを使わせてもらっていますけど、それは音楽にクローズアップしてもらいたいからなんですよ。僕はこれまでのジャケットを全部大判にして、パネルにして飾っているんです。そうやって自分も後で楽しみたいし、そうすることで自分の曲しか入ってない作品を、自分からちょっと切り離すことができる」

――自分の曲は結構聴きますか?

tofubeats「凄く聴きます(笑)」

澤部「僕も(笑)。いろんなバンドマンから〈信じられない!〉と言われますけどね」

tofubeats「でも、それは大事なことだと思うんです。昔の曲であればあるほど下手なんで、いまはこれより上手くできるぞと思えるし、自分の場合は言ったことに嘘がないようにしようとも思っていて。澤部さんもシンガー・ソングライターですし、毎回言っていることが違うと誠意がないと思われるかもしれませんよね。そういう意味でも、聴き直す部分があるんじゃないですか?」

澤部「確かに。でも実は、そういう意味で聴き返すことはほとんどないんです。単純に録音物として楽しんでいる。やっぱり、僕はどこかで自分が聴きたいものを作っているんですよ。作品になっちゃったら、もう自分のものではないというか。今回の2曲目“雨の音がきこえる”も僕が20歳ぐらいの頃に作った曲ですし、ずっとやりたいことは変わらない」

2011年作『ストーリー』収録曲“ストーリー”のライヴ映像