My Wish For Christmas...
街がざわめくこの季節。家族と、恋人と、友達と、いろんな場面で楽しみたい色とりどりのホリデイ・ギフトが届くなか、R・ケリーも初めてのクリスマス・アルバムを発表! もしも願いが叶うのなら、彼は、そして私たちは何を望むのだろう……?
R・ケリーが初のクリスマス・アルバムを出すと聞いた際はどっちに転ぶのか期待が膨らんだものだ。性癖に剥き出しで向き合った〈プレゼントはキミorオレの○○○だよ〉的なR指定アルバムになるのか、あるいはゴスペル作法に根差した敬虔なメッセージ主体の『U Save Me』みたいになるのか……。結果的に届いた『12 Nights Of Christmas』は、ここ数作の流れを汲んで先達のマナーをソウルフルに憑依させたストレートな楽曲性を備え、いかにもな〈企画盤らしさ〉でアレンジが制約されているわけでもない。資料によると、もともと『Black Panties』(2013年)の後にリリースが予定されていたそうだが、本人が中身にこだわった結果、『The Buffet』(2015年)よりも後ろに回されていたものらしい。
メイク・ラヴ系のリリックも廃してはいないがプレイの内容までは描かず通常(?)のR&B程度の描写に抑え、(リリックを除けば)マイルドな冬仕様のR&B作品として普通に楽しめるバランスの良さは流石。『12 Play』を匂わせる表題も、素直にキリスト教における〈十二夜〉に準えた12曲ということのようだ(日本盤のみボーナス・トラックを2曲追加)。賛美歌やジャズのスタンダードを取り上げずオリジナルで固めているのも彼らしいところで、直近で仕上げたのであろうニュアンスは、厳かなピアノ演奏で導入を飾る穏やかな小品“My Wish For Christmas”からもうっすらと伝わってくる。ここでのRは家族の健康と世界の平穏を願い、〈愛が憎しみに打ち勝つこと〉を切実に祈っているが、その背景にあるムードは言うまでもないだろう。
もっとも、2曲目の“Snowman”以降は程良い濃さを帯びたメロディアスなヴォーカリゼーションで、スムースにRの世界が紡がれていく。演奏陣に相棒ドニー・ライル(ギター)やロドニー・イースト(キーボード)といった馴染みの顔ぶれを従え、昨今の〈構造的ネオ・ソウル気分〉や安直なレトロ系とは異なるオーガニックなソウル・ムードを余裕で披露。その“Snowman”など数曲では重鎮ラリー・ゴールドがストリングスを担当していて、とりわけステッパーズの“The Greatest Gift”は流麗な意匠とジャクソンズを意識したような歌い口のフィリーな好相性にニヤリとさせられたりもする。
そこでのジャクソンズのみならず、マーヴィン・ゲイ“Distant Lover”を下敷きにしたような入口から次第に昂っていく“Mrs. Santa Claus”、ビル・ウィザーズ“Use Me”を借景した“Christmas Lovin'”、スモーキー・ロビンソンの繊細な歌い口そのまんまで押し通す“Flyin' On My Sleigh”、そして本編ラストの表題曲では改めてマイケルへの美しいオマージュを聴かせるなど、芸能の本道たるサーヴィス精神は今回も実に芸術的な着地。トラディショナルな音楽から本質を取り出してモダンな自己流に仕立てる術は唯一無二だ。
トラディショナルという意味だと、中盤で披露されるミュージカル調の“Once Upon A Time”は異色の仕上がりだ。貧しくとも幸せだった少年時代を、クリスマスをその象徴として回顧するような言葉が淡々と綴られているのだ。その点では大人も子どもも素直になる、年に一度のクリスマスに相応しい作品だと言えるのかもしれない。
R・ケリーのクリスマス・ソングが聴ける作品。