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リトル・バーリー

田中「2013年にも〈HCW〉に出演しているリトル・バーリーは日本でも人気の高いバンドだけど、まずはベーシックな情報を改めて整理していこうか。ヴォーカル/ギターのバーリー・カドガンプライマル・スクリームのライヴ・メンバーとしても有名で、ほかにもエドウィン・コリンズモリッシーといった名立たるアクトから重用されている〈超〉が付くほどの名ギタリスト。テクを見せつけるタイプではないけれど、ブルースの素養を持ちつつ繊細な運指と細かなエフェクト使いで痺れさせる、これぞブリティッシュ・ロック!と言いたくなる手練のプレイヤーさ。この2012年のセッション動画を観れば彼の凄さが伝わるんじゃないかな」

小熊「ついでに、プライマルで弾いているバーリーさんも紹介しておこうよ。これは2013年の〈グラストンベリー〉での演奏で、ハイムの3姉妹もコーラスで参加している。ここでボビー・ギレスピーに負けず劣らず派手な服を着ているのがバーリーさんだけど、弾きっぷりが堪らないね。曲終盤のソロは圧巻さ」

小熊「あと僕はプログレ野郎だから、リトル・バーリーといえばイエススティーヴ・ハウの息子、ヴァージル・ハウがドラムを叩いていることが真っ先に浮かぶわけ。彼も豊富なリズム・パターンを持つ素晴らしいプレイヤーだね。そして、ルイス・ワートンが弾くベースも、ゴリゴリな音で超かっこいい。99年の結成以来、グルーヴィーでソウルフルなアンサンブルでずっと駆け抜けてきた彼らは、2008年以降はこの3人編成で今日まで活動を続けている。そんなリトル・バーリーのことを端的に表現するなら〈最高のロックンロール・バンド〉となるだろうけど、単なる金太郎飴なバンドかといえば実はそうでもない。〈HCW〉に向けて、彼らの変化についても改めて話しておこうよ」

田中「まずは初作の『We Are Little Barrie』(2005年)。この頃のイギリスは、ブロック・パーティマキシモ・パークフューチャーヘッズといったポスト・パンク・リヴァイヴァルと括られるバンドが台頭していて、そんなムードのなかでのブルージーでソウルフル、ともすれば懐古主義とも捉えられかねないリトル・バーリーの出現には驚いたものさ。そういや、このアルバムのアートワークは1年後にチャットモンチーが初作『耳鳴り』でオマージュを捧げていたことでも有名だよね。3人のプレイヤーがそれぞれの個性を発揮し、バンド・アンサンブル自体を最大の武器としているリトル・バーリーは、3人組だった当時の彼女たちにとって、1つの鑑になったのかもしれないな」

2007年作『We Are Little Barrie』収録曲“Long Hair”
 

小熊「ていうか、“シャングリラ”が発表されてから10年も経つんだね」

田中「ちなみに『We Are Little Barrie』のプロデュースを手掛けているのは、小熊くんも大好きなエドウィン・コリンズさ」

小熊「そうそう、〈キ・ラ・メ・キ・トゥモロー〉なオレンジ・ジュースのリーダーとしてネオアコ・ファンにはお馴染みだけど、UKチャート1位にも輝いた94年発表のソロ代表曲“A Girl Like You”に顕著なように、プロデューサーとしてはヴィンテージな録音機材を用いた豊かな音の質感に定評のある人だね。彼は『We Are Little Barrie』と同じ2005年に、クリブスの『The New Fellas』も手掛けているわけだけど、この2作をいま聴き比べてみるのもおもしろいかもしれない。この時期から2010年作『King Of The Waves』までのリトル・バーリーはロックンロールらしいラフさを活かしながら、ソングライティングの純度に重きを置いたというか、比較的カッチリとした曲作りをしていたように思う」

2010年作『King Of The Waves』収録曲“Surf Hell”
 

田中「それが2013年の4作目『Shadow』では、映画音楽やカンなどクラウトロックをインスピレーション源に、ダークでサイケな音像を押し出したバンドの変化が窺えるものになっていた。そして、もうすぐリリースされる新作『Death Express』は『Shadow』路線をさらに追求したものとなっているそうだね」

2013年作『Shadow』収録曲“Eyes Were Young”
 

小熊「まずB級映画チックなタイトルがヤバいよね。そういうダーティーなノリは、『Vanishing Point』(97年)期のプライマルとも重なるような気がする。高速BPMのリード曲“Love Or Love”は確実にライヴ・アンセム化しそうだし、ジョン・スペンサーを彷彿とさせるエレクトロニック・ブルース調の“I.5.C.A.”も真骨頂のナンバーだね。そんな感じで、『Death Express』は引き出しの多さも随所でアピールしつつ、ハイテンションなナンバーを20曲も収録した強力すぎるアルバムになっているよ」

ニュー・アルバム『Death Express』収録曲“Love Or Love”
 

小熊「しかもジャケは2015年の来日公演でファンが撮影したものを使っていて、さらに他国よりも大幅前倒しで2月15日に日本先行リリースされるという。こういう日本大好きっぷりもプライマル譲りだね(笑)。逆に言えば、日本のファンとは固い絆で結ばれているからこそ、〈HCW〉では120%の真剣パフォーマンスを見せてくれるのは間違いない。2013年の〈HCW〉に出演したときの映像をチェックしながら楽しみに待とうや」

 

キルズ

田中「いよいよ26日のヘッドライナーだね。アリソン・モシャートの妖艶な歌声と、ジェイミー・ヒンスの放つ不穏なギター・サウンドで孤高の立ち位置を築き上げてきたキルズが2017年の〈HCW〉で大トリを務める。と言っても若いリスナーのなかには、実はちゃんと聴いたことがないんだよねという人もいると思うし、まずはライヴの冒頭で演奏されることが多い“U R A Fever”を聴いてみようよ」

2008年作『Midnight Boom』収録曲“U R A Fever”
 

小熊「このモダンなガレージ・サウンド、現代版スーサイドといった趣こそキルズだよね。彼らはデビューから現在に至るまでドミノに所属しているわけだけど、この曲が発表された2008年前後のドミノと言ったら、フランツ・フェルディナンドアークティック・モンキーズアニマル・コレクティヴらを擁するインディーの無敵艦隊という印象だったな。そんな感じで、僕はキルズをレーベル括りで聴いていたけど、世間的なイメージはどんな感じだったんだろう?」

田中「キルズのデビューした2002年は俗に言うロックンロール・リヴァィヴァルが最高潮に達していた年として記憶されているよね。前年にストロークスがセンセーショナルな登場を果たし、その興奮冷めやらぬなか、リバティーンズコーラルヴァインズといったバンドが続々と飛び出してきた。そのなかでもキルズの暴力性を帯びた不穏さは異彩を放っていたと思うんだ。当時プライマルのボビーがお気に入りに挙げていたんだけど、それも納得の荒涼としたロックンロールを鳴らしていて。当時のリヴァイヴァル勢の多くが放っていた思春期的な煌めきとは正反対の真っ黒なデカダンスか漂っていたんだよね」

2002年作『Keep on Your Mean Side』収録曲“Fuck The People”
 

田中「ただ、凡百のロックンロール・バンドが過去のスタイルをなぞることをアイデンティティーにしがちなのとは違って、彼女たちはその時々のトレンドを採り入れたうえでキルズ印のガレージ・ロックに昇華しているんだよね。前述の“U R A fever”を収録した2008年作『Midnight Boom』にもニューレイヴエレクトロ・ディスコボルティモア・ブレイクスといった当時の潮流を汲み取ったリズムが配されている」

小熊CSSクラクソンズが大盛り上がりしたのが2007年前後だよね。『Midnight Boom』はそういう直近のUKにおけるムードとも共振するような内容だったと思う。個人的には、このアルバムがいちばん好き」

2008年作『Midnight Boom』収録曲“Cheap And Cheerful”
 

田中「そんなキルズにバンド史上最大の試練が襲いかかったのが2013年。なんとジェイミーが事故で左手の中指を痛め、思い通りに手を使えなくなってしまったんだよね。ギタリストにとって生命線と言うべき箇所だけに、これは相当にシリアスな事態だよ。手術は何回にも渡ったようで、おそらく最悪のケースが脳裏をよぎったこともあったと思うんだけど、ジェイミーは中指を酷使しないギター奏法を練磨して見事に復活。そして完成したのが5年ぶりの最新作『Ash & Ice』(2016年)というわけなんだ」

小熊「『ドカベン』で明訓高校のエース・里中智が親指の負傷をきっかけに変化球〈さとるボール〉を編み出したことを思い出してしまうな。ジェイミーはスーパーモデルのケイト・モスと結婚(現在は離婚)したことでも有名だけど、それだけ肝が据わっていれば惚れるよねって感じ。それでそれで?」

田中「ジェイミーが怪我のリハビリ中に訪れたシベリアで描いたスケッチを基に制作された『Ash & Ice』は、ミニマルなエレクトロニック・ビートとドス黒いガレージ・ロック・サウンドを重ねた、まさにキルズ!なアルバムさ。その一方でUKベースを彷彿とさせるステッピーな疾走感を堪えた“Hard Habit To Break”や、ゴスペル的な厳粛さ漂う“That Love”など同時代性への目配せや新機軸もある。ロックンロールやガレージはどうしても初期衝動を求められがちだし、キャリアを追うごとになんとなくソフト・ランディングして落ち着いたサウンドになっていくバンドも多いけど、キルズはいまなおギラついた情動や行き場のない苛立ちをロックンロールに託している。この現役感は凄いと思うんだ」

2016年作『Ash & Ice』収録曲“Siberian Nights”
 

小熊「まあ本当に、いまどき珍しいロックンロールの求道者だよね。キルズと名乗っちゃうネーミング・センスに、このバンドのすべてが集約されていると思う。そんな彼らが2日目のヘッドライナーを務めるわけだけど、最近のライヴはどうなんだろう?」

田中「彼女たちは今年で活動15周年ということもあり、〈HCW〉の1か月後にはアニヴァーサリー・ツアーを控えているんだよ。ということは、今回のライヴも相当仕上がった状態で臨んでくれることは間違いないわけで。最後に観てほしいのが、2016年にフランスのヴェルフォールで開催されたフェス〈Eurockéennes 2016〉でのライヴ映像。まったく野外が似合わないサウンドにもかかわらず(笑)、満員のオーディエンスをキルズのダークに世界観に酔わせているよね。2分54秒頃のアリソンなんて後光が差していて、神々しささえ感じさせる」

小熊「いやはや、このライヴは滅茶苦茶カッコイイね。ここまで出演する8組を田中くんと語り合ったことで、すっかり高まってきちゃったよ。早く2月25日にならないかな~。と言うわけで……せーの!」

小熊&田中「〈Hostess Club Weekender〉が待ち遠しい!」

 

Hostess Club Weekender
日時/会場:2017年2月25日(土)、26日(日) 東京・新木場STUDIO COAST
開場/開演:12:30/13:30
出演:〈25日(土)〉ピクシーズ/MONO/ガール・バンド/ピューマローザ
〈26日(日)〉キルズ/リトル・バーリー/レモン・ツイッグス/コミュニオンズ
チケット:通常2日通し券/13,900円、通常1日券/8,500円(いずれも税込/両日1D別)
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