6月16日(金)、東京キネマ倶楽部にて異色のツーマン公演が開催される。かたや、その洗練されたバンド・サウンドを国内オルタナティヴ・シーンに提示しつづけながら、昨年には全編アコースティック編成でのアルバム『1』を発表したthe band apart。そしてもう一方は、こちらも昨年にサード・アルバム『MOROHA III』を発表、MC+アコギという極めてシンプルなスタイルと、そこで生まれる直情的な楽曲が大きな反響を呼んでいるMOROHA。音楽性はもちろん、世代も異なるこの両者だが、今回のツーマンを主宰した東京キネマ倶楽部の川合陽子が〈どちらのライヴも、観たものの感情をガラッと変えてしまう〉と話していたように、この2組にはなにかしら通じるものもありそうだ。そこで今回は両バンドを代表して、the band apartのドラマー、木暮栄一と、MOROHAのギタリスト、UKによる対談を敢行。かねてからお互いにシンパシーを抱いてきたという2人に、その思いの丈をぶつけてもらった。
THA BLUE HERBとeastern youthを混ぜて泥臭くしたような衝撃
――実は両者が共演するのは、今回が初ではないんですよね。2015年の8月に下北沢SHELTERでもツーマンをやられていて。
木暮栄一(the band apart)「UKくん、SHELTERのときは坊主だったよね?」
UK(MOROHA)「そうですね(笑)」
木暮「そのあとに〈SYNCHRONICITY〉で会ったときは髪が伸びていて。で、さらに今日はメガネをかけてない。MC担当のアフロくんはあんまり変わらないんだけど、その相棒は順調にチェンジしていくんだなっていう(笑)。今日も一瞬、誰だかわかんなかったもん」
UK「あははは(笑)」
木暮「でも、対バンしたSHELTERでのライヴは衝撃的でしたね。アコギだけというスタイルもそうだし、アフロくんのフロウもすごいなと。これは個人的な感想ですけど、THA BLUE HERBとeastern youthが混ざって、それをさらに泥臭くしたような感じだなって」
――UKさんのギター・プレイについてはどう見ていますか?
木暮「(音源だと)UKくんのギターは、色で言うなら青をベースにしていて、そこからいろんなグラデーションをつけていくような印象だったんですよ。でも、ライヴで聴いてみると、すっごくいろんなことをやっているんですよね。アコギ1本でこれだけのヴァリエーションを持っているのは、相当すごいなと思いました。で、その2人が組み合わさったときに〈これはエモだな〉と。使っているコードや自分を曝け出していく歌い方に、エモだと思いましたね」
――それはすごくおもしろい指摘ですね。
UK「エモ、僕はぜんぜん通ってないんですけど、確かにそういったバンド・サウンドをループ・ミュージックとして自分の演奏に昇華させているところはありますね。あと、フレーズやメロディーを作るときに、どうしてもこだわっている部分がひとつだけあるんです。僕は、音楽通やアングラな人にしか評価されないような音作りは、ぜんぶ排除しているんですよ。それより、あくまでも大衆向けに作ろうと常に心掛けていて。おじいちゃんが聴いても、小学生が聴いても、いい曲だねと言われるものにしたいなって」
――そんなUKさんからすると、the band apartの音楽はどう聴こえるんでしょう。
UK「そもそも僕が好きなのは、the band apartみたいな音楽なんです。ワンマン・バンドもいいんですけど、それよりもメンバー全員が漫画のキャラクターみたいなバンドのほうが好き。そういう魅力をthe band apartからも感じています。ステージ上のどこに目をやっていいのかわからなくなるというか、どの人のことも観ていたくなる感じ。そこがすごく好きですね」
逃げ場がないのがライヴのおもしろさ
――今日はそれぞれの最新作についてもお伺いしたいのですが、UKさんはthe band apart (naked) 名義の『1』は聴かれましたか?
UK「聴きました! 僕、ぶっちゃけアコースティックってそんなに好きじゃなくて。むしろそういうジャンルがどうしても退屈に感じるんですけど、あのアルバムはぜんぜんアコースティックって感じではなくて……いや、これはぜんぜん悪い意味じゃないですよ!」
木暮「あははは! わかってるよ」
UK「どこを聴いても、いわゆるバンドのアコースティック・セットという感じではないんですよね。むしろ、こっちがオリジナルといってもいいくらいの詰め具合というか」
ーーUKさんがアコースティックをそんなに好きじゃない理由は?
UK「あくまでも、これは好みの話なんですけど、それこそフォーク・ギターでコードを〈ジャーン〉と弾きながら歌うというのが、僕はどうしても納得できないんですよ。ほとんど一緒くたに聴こえちゃうというか、なんでもっと色をつけないんだろうと感じて。それは僕からすると怠っているというか〈もうちょっと努力したら、もっといい曲になるのに〉と思っちゃうんですよね。でも、the band apartのアコースティックは、それぞれがフレーズやメロディーをちゃんと考えている。それを感じられるのがすごく好きですね」
木暮「そこを聴き取ってもらえたのは嬉しいですね。これはいまUKくんが言ってたことに近いと思うんですけど、何かしらのコード進行を鳴らしながら、そこにメロディーを付けていくというスタイルはそれこそ過去に山ほどあるわけじゃないですか。だから、そこは自分たちなりのものをやろうと。そういうクセが僕らにはあるんですよね。すでにあるものではなく、新しいものを出せないなら、自分たちがやる意味はないかなと」
――楽器がすべてアコースティックになると、アレンジとの向き合い方もいつもとは違ってくるのかなと思うんですが。
木暮「いやぁ、ぜんぜん違いますね。『1』の半分は原曲をほぼそのままアコースティック楽器に置き換えただけなんですけど、それだけだと自分たちが飽きるから、残りの半分はまた新たにアレンジしたんです。とはいえ、作り方自体は普段と変わらないんですけどね。ただ、アコースティックだと〈すげえミスってんな!〉みたいなことがすぐバレるので(笑)。でも、その生々しさがおもしろくて」
――そういう意味だと、MOROHAは本当に逃げ場のない演奏形態ですよね。
木暮「ホントそうだよね」
UK「でも、逃げ場がない代わりに、そこはもうミスありきというか(笑)。もちろん、完璧に弾けるに越したことはないんですけどね。たとえば、機材トラブルや演奏のミスって、自分たちはすごくハラハラしちゃいますけど、お客さんからすれば〈貴重な場面を観られた! ラッキー〉みたいなところもあるじゃないですか。今はそれもライヴのおもしろさだなと思っています。とはいえ、最初はホントにごまかしが効かなくて、〈もうやだ、辞めたい〉と思ってましたけど(笑)」
木暮「どっちかというと、UKくんのほうがミスできないでしょ?」
UK「そうですね。僕が止まったら演奏が止まっちゃうんで、それはやっぱり怖かったです。でも、僕の場合は歌と合わせるだけでいいんで、グルーヴは出しやすいんですよ。バンドものは他の楽器の音も聴かなきゃいけないから大変じゃないですか?」
木暮「それがまたおもしろいんだけどね」
UK「そう、だからこそ以前は僕もバンドをやってたんですけど、今はそれとは違ったおもしろさを見つけたので。ただ、大変なのは、自分が今やっている音楽のことを共有できる人が、まず皆無だということ。だから、音楽的な悩みは自分1人でなんとかするしかないんですよね」
――共有できるのはアフロさんだけ?
UK「うーん、アフロは音楽に対してそんなに欲がないんですよ。楽器もできないし、音楽がどういうふうにできるのかってことも正直わかってないんです。でも、そういう理屈がわからないからこそ、ナチュラルに出てくるフロウと発想がある。僕からすると、そこが斬新なんです」