グルーヴィーな演奏とメロウネス溢れる歌声で〈ツマミになるグッドミュージック〉を奏でる4人組、YONA YONA WEEKENDERS。昨年、待望のファーストアルバム『YONA YONA WEEKENDERS』を発表し、2022年4月7日(金)にはbonobosの蔡忠浩さんをフィーチャーした新曲“夜行性”のリリースを控えています。そんな彼らのフロントマン、磯野くんの連載が〈ラーメンから歌が聴こえる〉です。

磯野くんはとにかくラーメンが大好き。アルバム『YONA YONA WEEKENDERS』の特集記事では、音楽家としてもラーメン好きとしてもリスペクトしているサニーデイ・サービスの田中貴さんとの対談が実現しました。この連載では、そんな彼が愛してやまないラーメンを、音楽にたとえながら紹介してくれます。

今回は、東京・江東区の門前仲町にある〈東京担担麺本舗 ゴマ屋〉に入店。磯野くんがこの数年いちばん足を運んでいるという同店の名物、ザーサイ担担麺から聴こえる歌は? *Mikiki編集部

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“光の中”と“明るい未来”のライブ映像

 


営業努力からはじまったラーメン屋の開拓

先日、僕は約4年半勤めた会社を退職した。YYW結成のきっかけとなったブラック企業の話は、我々のセカンドEP『街を泳いで』(2020年)のセルフライナーノーツでも書かせていただいたが、その会社とは180度違い、有休も育休もたくさん取らせてもらったし、自由な社風でとても居心地のよい職場だった。

給料もそこそこで特に不満はなかったのだが、〈仕事のストレス解消〉として始まったYYWが僕にとって大きな存在になっていくなかで、半端なモチベーションで務まるような仕事でもない。熟考を重ね、一度環境を変えてみようという判断に至った。退職の意思を伝えたときも、上司や同僚は快く僕の背中を押してくれた。

そんな会社で僕は、取引先に出向き〈ねぇ広告費もっと上げてよ〜〉という感じの営業をやっていた。広告費を上げてもらうには、まずクライアントと関係性を構築しなければならない。先方といち早く打ち解ける手段として行なっていたのが、ラーメン屋の情報交換だ。

「近くに美味しいラーメン屋ないっすか?」と訊くと、大抵1つや2つはオススメのラーメン屋が出てくる。僕は商談が終わるとその足でラーメンを食べに行き、商談後のお礼メールに、〈早速行かせていただきました!〉とレビューと写メを添えて送る。これを結構おもしろがってもらえた。嬉しくて、担当エリアにあるラーメン屋を片っ端から開拓し、お返しにとラーメンのプレゼン資料まで作ったりもした(仕事しろ)。

残念ながらというか、当然ながらというか、その努力は営業成績には結びつかなかったが、巡り巡って今日の仕事に繋がっているわけで、無駄な時間ではなかったなとしみじみ思いつつ、この記事を上司が見ないことを祈るばかりだ。

 

お洒落で大人、お店全体の良い雰囲気が味に乗り移っているようなザーサイ担担麺

というわけで今回は、僕が入社1年目に担当していた門前仲町駅周辺でイチオシの、〈東京担担麺本舗 ゴマ屋〉をご紹介させていただきたい。

ゴマ屋は恐らくここ数年でいちばん足を運んでいるラーメン屋ではなかろうか。2年目以降は担当エリアが変わってしまったのだが、それでも足繁く通ったほど大好きなお店である。コロナ禍に突入してからは商談もほとんどリモートになってしまったので、かなり久々の訪問だ。

店の扉を開けると、八角の良い香りがふわっと鼻に抜ける。木製のカウンターの上にIHヒーターが置いてあり、そこで煮卵がグツグツと美味そうに煮込まれている。席に座り、〈いつものヤツ〉であるザーサイ担担麺(1,000円)を辛さ3倍のスーパーホット、麺固めで注文。

BGMでジャズが流れており、店内のそこら中にCDやレコードが並び、真空管のアンプまである。店主の趣味なのだろうか、ビンテージっぽいミニカーやフィギュアなども置いてあり、良い意味でラーメン屋っぽくなく、落ち着いた大人の空間だ。

注文後すぐに店員さんがサービスであの煮卵を持ってきてくれた。固茹での美味しい煮卵に舌鼓を打っている間に、担担麺の着丼だ。赤茶色のスープの上に、たっぷりのゴマ、チャーシュー、大きめに刻まれたザーサイ、生ニラ、茹でられた小松菜が乗っている。

担々麺といえば濃厚でクリーミーなスープを想像する人が多いと思うが、ここの担担麺はサラサラ系のあっさりとしたもの。メニュー構成やごはんについてくる細切りの沢庵など、銀座にある担々麺の名店〈支那麺はしご〉をルーツに持つらしいところが垣間見える。

スープは鶏ガラ醤油をベースに、ゴマの香ばしさと赤唐辛子、八角などの香辛料が効いた独特でクセになる味わい。辛さはスーパーホットでも元の味を邪魔しないくらいの程良さだ。美味過ぎてレンゲが止まらないが、替え玉をしたいので飲み過ぎないようにしておく。

麺は博多ラーメンよろしくな細麺。歯切れが良く、スープともしっかり絡む。大きめに刻まれたザーサイと一緒に食べると、コリコリとした食感で口を楽しませてくれる。チャーシューは豚バラを巻いたもので中央の黒胡椒がアクセントになっている。厚めに切られており、食べ応え十分だ。

するすると食べ進め、満を持して替え玉(100円)を注文。次は卓上のコーレーグース的な調味料を投入し、味変して頂く。お酒の風味と刺激的な辛さが加わり、大人な味わいに様変わり。同行した酒好きのマネージャーも絶賛していた。

このゴマ屋さん、味は勿論なのだが、ホスピタリティーが非常に高いところも大好きな要素の一つだ。飲み物のジャスミン茶は、半分くらい減ると店員さんが必ず気づいて注ぎに来てくれ、僕から「すみませ〜ん」と声掛けしたことは過去に一度もない。

また、中年の店員さんが多く、接客態度もガツガツしすぎず丁寧で、抜群の安定感。安心して食事をすることができる。白髪のダンディーな店主もホールスタッフとして表に出て、席への案内やお客さんの状況に常に目を配っている。

味は良くても接客態度が素っ気なかったり、横柄だったりみたいなところも個人的にはラーメン屋あるあるとして捉えてはいるのだが、ここのラーメンはお店全体の雰囲気が味に乗り移っているような気がするのだ。久々の坦坦麺を2玉分瞬く間に完食し、〈やっぱゴマ屋うめぇー!〉と心の中で叫びながら気持ち良く店を後にした。