〈鳴らしたい音をフレッシュな状態のまま届けたい〉という意志を隅々まで行き渡らせた新作。よりメロディアスに進化した歌に乗せて彼らは言う──こんな時代だからこそ、やっぱり〈LOVE〉でしょ?

今だからこその〈LOVE〉

 テロは続くし、ミサイルは発射されるし、あちこちで憎悪の感情が渦巻いて世界はどんどん嫌な感じになっていくけど、そんなときこそひとりひとりが信じていなきゃいけないのはやっぱり〈LOVE〉でしょ。そんな確固たる思いがLOVE PSYCHEDELICOのふたりにはあり、オリジナル・アルバムとしては約4年ぶりとなる新作も『LOVE YOUR LOVE』というタイトルが付けられた。

LOVE PSYCHEDELICO LOVE YOUR LOVE スピードスター(2017)

「今だからこそ〈LOVE〉って言葉をタイトルに入れたいというのはあったね」(KUMI、ヴォーカル)。

「うん。今だからこそ『LOVE YOUR LOVE』でしょ。まあ、アルバム・タイトルというよりも、これはメッセージみたいなもので。自分の大切にしている〈LOVE〉を今こそ大切にしようよっていう。ただ、それはひとりひとりが自分の内で感じればいいものであって、〈みんなで手を繋いで共有しようよ!〉というメッセージとはちょっと違う。僕らからの投げ掛けみたいなものだね」(NAOKI、ギター)。

「そうだね。もともと私たちは、世界で起きていることに対して歌で直截的なメッセージを発していこうっていう表現の仕方ではないから。そういうことがあっていろいろ考えたりしながら生きていく日常の中で、それでも忘れちゃいけない感覚をしっかり見つめていこう、っていうほうだからね。私たちも見つめるべきものを見つめて今回も作った、って感じかな」(KUMI)。

 そんな新作『LOVE YOUR LOVE』は、流石のハイクォリティー。音が良くて、曲が良くて、歌が良くて、並びも良い。そのうえ明快で、すべての曲がラジオ・フレンドリーだ。

「一曲一曲の個性を大切にして作っていったから、粒立ちがいい感じはしてる」(NAOKI)。

「まあ、難しいことはしてないし。あと、メロディーが主体だから、ってところもあるかもしれないね」(KUMI)。

「うん。今回はダイナミクスで聴かせるロック、って感じではないから。僕らはどうしてもリフものとか、そういうロックに行きがちだし、そういうイメージで捉えられてると思うんだけど、別にそういうのばっかり聴いてるわけじゃない。ビリー・ジョエルとかロイ・オービソンとかジェフ・リンとか、あとジョン・レノンの“(Just Like)Starting Over”とか、強弱じゃなくてアンサンブルで聴かせるメロディアスなロックの色気ってあるじゃないですか。今までそれがなかなか血肉になって出てくることがなかったのが、今回はふと出せた気がしたんだよね。その瞬間が“Good Times, Bad Times”のときで、“あれ? これ、良い曲じゃん!”って(笑)」(NAOKI)。

「前作『IN THIS BEAUTIFUL WORLD』を出したあと、最初に作った曲が“Good Times, Bad Times”なんだけど、これで新しい扉を開けた気がしたんだよね。コードは凝ってるんだけどシンプルに聴こえる、ポップでメロディアスな楽曲が出来たなと思って。それは今までありそうでなかったタイプの曲だった。で、そのあと続けて出来たのが“Love Is All Around”と“This Moment”だったりして、そこらへんで楽曲の性質として同じ何かがあるのを感じたんだよね」(KUMI)。

 

初期衝動に近い音を

 確かにメロディーが印象に残る曲ばかりだ。その理由のひとつとして、「今回は既発曲の“Good Times, Bad Times”と“Love Is All Around”を除くすべての曲で、KUMIが鍵盤を弾いているんです」とNAOKIが説明する。

「オルガンもエレピもKUMIが弾いている。新しく買ったりもしてたよね」(NAOKI)。

「クラビ(クラビネット)を買って、メロトロンまで買っちゃって。もともと自己流で弾いていただけだったんだけど、この1年くらいはけっこう入り込んで鍵盤をよく弾いてたかな。だからギターで作った曲でも、鍵盤で作った曲っぽい落とし込みになるというか。うん、それは大きいかも」(KUMI)。

 KUMIは鍵盤とギターのほかに、曲によってはベースやドラムもプレイしている。

「〈自分で弾こう!〉って気合い入れたわけではなく、わりと自然だったけどね」(KUMI)。

「自分たちで鳴らしたい音をフレッシュな状態のまま届けたいという気持ちがあったからね。あと、今回はさっき言った既発の2曲以外、ミックスも全部自分たちでやったんですよ」(NAOKI)。

 それもまた「鳴らしたい音をフレッシュなまま届けたい、初期衝動に近い状態で届けたい、という気持ちから」だとNAOKIは言う。

「レコーディングの段階で僕らは音を一個一個吟味して録っているので、そのあとまたわざわざエンジニアさんを入れてブラッシュアップするというステップを踏む必要はもうないんじゃないかなと。〈世の中の音の傾向はこうだから、それに合わせて整えていく〉という現代的な思想を入れると、自分たちの初期衝動からは遠ざかっていってしまうところがあるからね」(NAOKI)。

 

音楽のある日常

 話題のビートルズ『Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band』の50周年記念盤じゃないが、メンバーの意志がミックスにどう反映(尊重)されているかで、その価値も感触もまったく変わるもの。どの楽器も隠れることなく前面に出てきていて、ヴォーカルの息遣いまでも感じ取れるというのがあの盤の評判だが、『LOVE YOUR LOVE』もまさにそれだ。自分はとりわけオープナーの“Might Fall In Love”や、映画「昼顔」の主題歌“Place Of Love”のようなセクシュアルなムードを湛えた曲におけるKUMIの歌唱表現、声の近さ、息遣いに惹き付けられたのだが、そのあたりも録音時のマイキングとミックスが大きくものを言っているのだろう。

「〈この曲はどう歌おうか〉っていうのもあるけど、同時に〈この曲はどういう音像で、どんな声が入ったらいいか〉っていうイメージを持って、KUMIは歌録りに臨んでいる。僕らは1曲ごとに自分たちでヴォーカル・ブースの広さを変えて録っているんだけど、そうやってマイクに向かうまでの段階からミックスまでのすべてに意志を反映させて届けたいんですよ。だからまあ、自分たちのやることはさらに増えたけど……」(NAOKI)。

「でも、曲作り、レコーディング、ミックスっていうのがひとつの流れの中にあったし、そういう意味ではすべてにおいて、より自然だったよね」(KUMI)。

 レニー・カストロのパーカッションとNAOKIのギター・ソロが情熱的なサンタナ風のラテン・ロック“Might Fall In Love”から、歌謡的なメロディーとストリングスの鳴りがマッチした“Feel My Desire”へと続き、初期のシェリル・クロウっぽいムードも持ったカントリー・ロック調の“Birdie”へと展開する前半。「このアルバムのシンボリックな曲」だとKUMIが言う“This Moment”から、可愛らしさのある“1 2 3”、トラヴェリング・ウィルベリーズの表現に通じる“You'll Find Out”“Rain Parade”など幸福感を湛えた曲へと続く中盤。そしてKUMIのシンガー・ソングライター的な資質が表れたスロウ“Beautiful Lie”に始まり、“Place Of Love”のダークなトーンが存在感を示しつつ、楽しい雰囲気の“No Wonder”で締めとなる後半へ。柔らかさ、軽やかさに、濃艶さまでも同居したこのアルバムは、奇を衒ったところのなさにおいても実にふたりらしい逸品だ。

「私たちの日常にあたりまえのように音楽があって、とっても日常的な感じで今回は作れた。そのことが、この作品の普遍性とかにも繋がってるのかもしれないね」(KUMI)。

 

『LOVE YOUR LOVE』に参加したプレイヤー陣の作品を一部紹介。

 

LOVE PSYCHEDELICOの作品。