フォークやカントリーなど古き良きアメリカのルーツ・ミュージックを吸収し、再構築しようとするアメリカーナ音楽。ジュリアン・ラージやハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフなどが注目されることで昨今また関心が集まってきているが、まだまだ知られていない良質なアーティストが多く存在し、そういったアーティストを知るほどに、アメリカン・ミュージックの奥深さに気付くことができる。ここで紹介するキャンドルズも、そんなバンドのひとつだ。単独での来日公演は来る8月16日(水)~18日(金)に予定されているブルーノート東京が初となるが、実は彼らはそれ以前にノラ・ジョーンズのサポート・バンドとしてすでに来日経験がある。筆者はその公演で、彼らの奏でるヴィンテージなサウンドに魅了されたひとりなのだが、最新アルバム『Matter+Spirit』(2016年)を聴き、グレイトフル・デッドやビートルズといった60sロックへの愛に溢れかえったフォーキーなサウンドに改めて感銘を受けてしまった。ここではキャンドルズのリーダーであり、ギター&ヴォーカルを務めるジョシュ・ラタンジに行ったインタヴューから、彼らの音楽性について紐解いてみたい。

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のちにキャンドルズを結成することになるラタンジは音楽一家に生まれ、5歳でピアノを習いはじめると、10歳で初めてバンドを結成。その後バークリー音楽大学を卒業している。この経歴だけを見ると、そのままジャズ・ミュージシャンになっていそうなものだが、その音楽遍歴が興味深い。

「10歳の頃はローリング・ストーンズやビートルズ、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズといったクラシックなロックが好きだったんだけど、高校生になるとグレイトフル・デッドみたいな即興音楽に夢中になって、そこからジャズに興味が広がっていったよ。バークリーの学生時代は、ハービー・ハンコックやジョン・コルトレーンにハマっていたけど、30歳の頃にはペイヴメントやソニック・ユースといったUSインディー・ロックを聴いていた。そこから次第に自分が好きなアーティストたちを通じて、その祖先を辿る聴き方をするようになったんだ。ニール・ヤングを通じてカーター・ファミリーを知るようにね。遡っていく過程で音楽的なインスピレーションを受けていった」

高校生でデッドを聴いてからジャズへと、よりディープな方向に流れていった後に、USインディーへ流れ着くというのがおもしろい。だが、71年生まれのラタンジがUSインディーにハマっていたというのは、至極当然な流れと言える。言うなら、ウィルコを聴いていたらフォーク・ミュージックに目覚めたような、そんな普通のロック青年的な視点からキャンドルズは生まれたのかもしれない。ちなみにラタンジはバークリーでもジャズではなく音楽パフォーマンスを専攻しており、ジャズは授業で演奏していた程度であったようだ。その後、彼はレモンヘッズやアルバート・ハモンドJrといったアーティストのレコーディングやライヴ・サポートを97年から2007年まで行い、その後一度、音楽活動を停止する。

ラタンジが参加したアルバート・ハモンドJrの2008年作『Como Te Llama?』収録曲“Spooky Couch”
 

「燃え尽きてしまって、ツアーの誘いがあっても断っていた。でも、その後で自分で作曲を始めて、2009年の終わり頃にはダラスにある友人の家で、メンバーや曲もない頃から考えていた〈THE CANDLES〉という名前でアルバムを作ったんだ」

その後、ジェイソン・エイブラハム・ロバーツ(ギター)、ピート・レム(キーボード)、グレッグ・ウィッゾレック(ドラムス、ヴォーカル)とともに、キャンドルズはバンドとして活動を開始。2010年に『Between The Sounds』、2013年に『La Candelaria』をリリースしている。先述したが、彼らの名前を一躍有名にしたのはノラ・ジョーンズで、ノラの2012年作『Little Broken hearts』のツアーからサポートを担当するようになる。

キャンドルズが参加したノラ・ジョーンズの2012年のパフォーマンス映像
 

「2005年にNYで友人たちとボブ・ディランのトリビュート・バンドを組んで、いろんなバンドからゲストを招いて歌ってもらうイヴェントをやったんだ。例年行事として数回こなしていたら、ストロークスやキングス・オブ・レオンといった大物も参加するようになり、2008年にはノラも参加してくれた。3、4年ほど参加するうちに仲良くなって、彼女のライヴの前座に呼んでもらい、2012年からバンドのメンバーとして誘われたんだ」

ディランのトリビュート・バンドは〈The Cabin Down Below Band〉という名前で、ディラン以外にもローリング・ストーンズやブライアン・ウィルソンなどのトリビュートも行っており、彼らのライヴは一貫して〈The Best Fest〉というチャリティー・イヴェントとして開催されている。このイヴェントを通じて、ラタンジたちとノラは互いに好きな音楽性を共有していったようで、それはグレイトフル・デッドやニール・ヤングといったアーティストだった。

「2012年にサンフランシスコのフェスティヴァルにノラと出た際に、ボブ・ウィアーが来てくれたんだ。会場の近くに彼は住んでいて、僕らがレパートリーとして演奏していたグレイトフル・デッドの曲を一緒にプレイしてくれてね。貴重な体験だったよ」

ボブ・ウィアーを迎えて“It Must Have Been the Roses”を演奏した、ノラ&キャンドルズの2012年のパフォーマンス映像
 

デッドとの初共演をした同じ年に、彼らはノラとともに来日もしている。武道館に並べられたヴィンテージな楽器から生み出される暖かみのあるバンド・サウンドと、ノラの歌声は素晴らしいマッチングを生み出していた。

「古い楽器には何か特別なものが宿っている。新品の楽器でも問題なく演奏はできるけど、それは古い楽器と同じサウンドにはならない。僅かな差でしかないけど、そこにインパクトがあったり、耳を捉えたりする何かがあると思う。しっかり調整された古い楽器をプレイするのはいつだって楽しいし、パフォーマンスに良い影響を与えてくれるんだ」

THE CANDLES Matter + Spirit The End(2016)

前作『La Candelaria』がUSインディーやカレッジ・ポップ的な作風だったのに対して、最新作『Matter+Spirit』は暖かみのあるアコースティック・ギターと歌が耳に残る。あえてデッドで例えるなら『Workingman's Dead』(70年)のような親しみやすさがあり、それに加えて一風変わったリズム・アレンジも楽しめる。また、ノラが参加した、牧歌的な曲“Move Along”も滋味深い仕上がりだ。

「新作ではギターを重ねた分厚いサウンドよりも、ピュアなトーンを求めていた。以前作った濃密なサウンドのアルバムも好きだけど、今回は可能な限りシンプルにして、サウンドよりも作曲自体にもっと頼ってみたかったんだ。僕は頭の中にある小さなメロディーと、傍にあるギターで曲が作れたらそれで十分だと思う。曲が作れないからって、無理矢理捻り出そうとはしないし、朝10時からピアノの前に座って曲を作るやり方は、僕には向かないんだ。インスピレーションが生まれたら、その瞬間を可能な限り即座に捉えて、あまり考え込まないようにしている。これってある意味、禅と同じようなプロセスなんだよね」

〈禅〉という言葉が彼から出てくるのは驚きだったが、本作で聴けるのはそんな自然体な姿勢から生まれた、親しみやすいメロディー、そしてすっと耳に飛び込んでくるフォーキーなバンド・サウンド。今回はそんな『Matter+Spirit』を引っ提げての来日公演となるが、帰国後は再び制作に入るとのことで、ブルーノートのステージは彼らにとって最新アルバムにおける〈最終章〉となりそうだ。

「ノラの『Day Breaks』(2016年)でのツアーではかなりシンプルなアコースティック編成でコンパクトにやったけど、今回の来日ではアコースティックからエレクトリックまでいろんな楽器を持ち込んで、インプロヴィゼーションも挟んで実験的なプレイもするつもり。キャンドルズのフルサイズ・ショウとして楽しんでもらえるライヴをするよ」

2016年のパフォーマンス映像

 


Live Information
キャンドルズ

日時/会場:2017年8月16日(水)~18日(金) ブルーノート東京
開場/開演:
〈8月16日(水)〉
・1stショウ:16:00/17:00
・2ndショウ:19:00/20:00
〈8月17日(木)~18日(金)〉
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:20/21:00
料金:自由席/7,500円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
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