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売れてるアーティストより、魅力あるアーティスト

――第1回目の〈FRUE〉が開催されたのは2012年3月だったわけですが、この〈FRUE〉というイヴェント名はどうやって付けられたんですか?

「もともと、音楽でも映画でも〈魂が震える〉というフレーズが好きなんですが(笑)、その気持ちをひと言で言い表せないものかと思っていたんですね。それから〈True〉という言葉の響きにも愛着があったので、TをFに変えて〈FRUE(フルー)〉にしました。また、〈ふるう〉という言葉にはいくつかの意味があります。大きく揺り動かす〈振るう〉、ふるえる〈震う〉、ふるいにかけてより分ける〈篩う〉、能力を発揮する〈揮う〉、気力を充実させる〈奮う〉など、概ね良いイメージを持つ言葉なので、〈フルー〉と発音しているうちに、無意識の中に眠っているそういった〈ふるう〉イメージを喚起できないものかと思って名付けました(笑)。ほかにも伝染する(Flu)という意味もありますね」

――イヴェントを始めるにあたって、具体的なイメージはあったんでしょうか?

「バンドを呼ぶのは予算的にも大変なので、最小の予算でできるDJなりプロデューサーを招聘しようと考えました。もともと、∈Y∋ちゃんやMOOCHYみたいな民族っぽいトラックをMIXしたDJは好きでした。でも、しばらくバンドにどっぷりハマっていたので、ダンス・ミュージックをあまり聴いていない時期が続いてたんですが、〈TAICOCLUB〉でリカルド(・ヴィラロボス)、〈The Labyrinth〉でシャックルトンとファンクションを聴いて、一気にそっち側のダンス・ミュージックに耳が開きました。そんななかで、いまいちばんヤバいアーティストを招聘しようと思ったんです」

※2001年にスタートした、クラブ・ミュージック系の人気野外フェスティヴァル

――1回目の〈FRUE〉ではマドリードのDJ/プロデューサー、スヴレカなどが出演しましたが、彼は〈FRUE〉がプッシュするまで日本ではほぼ知られていなかったですよね。

「誰も知らなかったと思います(笑)。シャックルトンやファンクションみたいにオリジナリティーがあり、妖しさもあって色っぽいテクノ・アーティストがどこかにいないかな?と思ってテクノのサイトを調べまくっていたんですけど、そんなころ(音楽評論家の)阿木譲さんがスヴレカの所属しているセマンティカというレーベルを推していたことを知ったんですね。それでスヴレカのミックスを聴いてみたら凄くて。最初の一時間がビートレスで、後半がダンスになっていく展開のミックスだったんですけど、僕にとってはエクスペリメンタルな前半部がジャム・バンドやジャズのインプロヴィゼーションみたいに聴こえたんです。〈テクノでこんなことできるんだ? やるんだ!〉という驚きがあったんですね。それで第1回目の〈FRUE〉にはこの人しかいない、と」

2016年の〈The Labyrinth〉でのシャックルトンのパフォーマンス映像

スヴレカの2016年作『Narita.Compiled』収録曲“Sleepless”

――やってみて、どうでした?

「ネーム・ヴァリューがある人じゃないから集客的には厳しかったですけど、めちゃくちゃ盛り上がりました。〈The Labyrinth〉のオーガナイザーも踊りまくっていて、その年の〈The Labyrinth〉にスヴレカが呼ばれることになったんです。プロデューサー的な視点で言うと、してやったりという感覚でしたね(笑)。以降、5回ぐらいスヴレカを日本に呼びましたけど、〈FRUE〉とスヴレカは一緒に成長してきたような感覚があります。残念ながら今回のフェスでの来日は叶いませんでしたが」

――スヴレカと共に〈FRUE〉がプッシュしてきたDJ、トーマッシュも日本ではほぼ知られていなかった存在ですよね。

「そうですね。そもそも売れてる人をブッキングするのってすごく難しいんです。ギャラが高かったり、スケジュールが合わなかったり。でも、まだ世界的に知られているわけではないけど、魅力のあるアーティストを発掘して紹介していくというのは自分たちがやりたいことでもあります。砂漠の中からひと粒の輝く原石を探す感じは嫌いじゃないです(笑)。ただ、誰もが知るアーティストではないので、日本に呼ぶにはリスクもある。だから、最初は赤字だったとしても3回目くらいで取り返すつもりでいました。続けて呼ぶことで定着させる、と。スヴレカにせよトーマッシュにせよ、そういうアーティストですね」

――その後、年に3、4回のペースで〈FRUE〉を開催していくわけですが、これまでにババズーラやヘリオセントリクスのような海外のバンドの来日公演も実現してきましたね。

「さっきも言ったように、バンドはやっぱり呼びたいですからね。〈OG〉はアメリカのジャム・バンド系を中心に呼んでいたので、〈FRUE〉では違うタイプのバンドを呼びたいと思っていて。ただ、本当は出演者の顔ぶれで来るんじゃなくて、〈FRUE〉というパーティーに遊びに来てくれる人が増えてくれたらいいんですけどね。空間演出なども含めた全体を見てくれたら嬉しいです」

ヴ―ドゥーホップのパフォーマンス映像