2024年12月21日にニューアルバム『自然とコンピューター』リリースツアーの東京公演を恵比寿LIQUIDROOMで開催したOGRE YOU ASSHOLE。その後、年明け1月5日には、同リリースツアーの追加公演として立て続けに〈WWW presents “Heritage 3000” Farewell series〉へ出演した。この公演は、2025年にオープンから15周年を迎えるWWWが開業時から使用してきたアナログPA卓Heritage 3000が、デジタル卓に入れ替わることに伴うイベント。名機との最後の〈共演〉で圧倒的な音響空間を作り上げたライブの模様を、音楽ディレクター/評論家の柴崎祐二が伝える。 *Mikiki編集部


 

音楽とテクノロジーが不可分な〈自然にしてコンピューター〉

生物と無生物。人間と機械。アナログとデジタル。自然と人工物。オートポイエーシス的な構造体とそうでないもの。私達は、えてしてそれらを相反・対立する存在として考える。こうした対立軸は、様々なテクノロジーに取り囲まれ、そのテクノロジーの驚異的な発展と浸透を日々目の当たりにしている私達が、なんとかしてその入り組んだ世界の様相を〈冷静に〉理解しようとするための、ごく素朴な見取り図の役割を果たしているようにも思われる。

OGRE YOU ASSHOLEが昨年発表したアルバム『自然とコンピューター』は、タイトルだけをみれば、まさにそうした対立構図を再度確認するようなコンセプトが掲げられていると誤解されてしまうかもしれない。しかし、同作を通じて浮かび上がってくるのは、〈自然、もしくは、コンピューター〉、〈自然、あるいはコンピューター〉という二者択一的な発想とは異なる、〈自然およびコンピューター〉、もっと言えば〈自然にしてコンピューター〉とでも表現するのが適切なような、より相互浸透的な風景である。シンセサイザーやリズムマシン等の〈機械〉をバンドという〈肉体〉に対立する何かとして取り扱うのではなく、それら〈機械〉が奥深くに蔵しているはずの、アンコントローラブルな揺らぎやダイナミズムを、自らの全身を通じた演奏(という運動)と合流させ、何よりも美的次元において不可分の存在とならしめること。音楽表現と各種テクノロジーの密着関係とその歴史的展開について、まさしく根源レベルからの再考が求められている現代において、彼らの作り出した録音作品は、そうした情況に対する最新にして鋭い批評でもあったといえるだろう。

 

演奏に合わせダイナミックに展開するPAの〈パフォーマンス〉

この日のライブは、同作『自然とコンピューター』のリリースを記念したライブの追加公演であると同時に、タイトルに示されている通り、開店以来WWWで長年使用されてきたアナログPAコンソール〈MIDAS Heritage 3000〉のフェアウェル企画の一環として催されたものだ。

そのサウンドや優れた操作性から名機として評価の高いHeritage 3000だが、デジタル卓が主流となる趨勢の中で、主に維持や運用上の理由から、ついにフロアから去らざるを得なくなったという。だが、数あるエンジニアはもちろん、多くのミュージシャンからも愛されたシステムとはいえ、こうしてコンソールの名をそのまま冠したフェアウェルイベントが開催されるという例は、寡聞にして他に知らない。逆に言えば、こうした企画が成り立つということ自体が、昨今の音楽制作・表現現場におけるテクノロジー面の急速な変遷のありようが一般のオーディエンスからも少なからず注目を浴びうるという事実を示しているともいえる。

そう考えてみれば、一連の企画のトップバッターを、そうした問題系に自覚的に取り組んできたロックバンドの一つであるOGRE YOU ASSHOLEが務めるというのも、深く得心がいく。その上、彼らのファンならばよく知っている通り、OGRE YOU ASSHOLEのライブパフォーマンスは、通常のロックバンドのそれを超えてPAオペレーションが特に重要な役割を担っているといえる。YMOやサカナクション、坂本慎太郎らのPAを務めてきたことでも知られる佐々木幸生と、レコーディングエンジニアとして長年バンドを支えてきた中村宗一郎の2人体制で行われるオペレーションは、単なるライブミキシングの範疇を超えて、一種の創造性が刻まれた〈パフォーマンス〉というべきものだ。それゆえにこの日のライブは、各種イコライジング等を駆使しながらバンドの演奏とその展開に合わせてダイナミズムに溢れた操作を行う様を(佐々木自身もっとも使いやすいと評する)去りゆく名機Heritage 3000ならではのスペックとともに堪能できるという意味でも、実に貴重な機会であったといえる。