1981年にLP発売された伊福部昭本人の監修による初の映画音楽全集が紙ジャケットCDにてBOX化

 この〈全集〉の記憶は持っていない。1981年だからまだCDではない。CDがでてくるにはまだすこし時間があって、誰もがふつうにLPを聴いていた時代だ。当時はボックスではなく、1枚1枚が個別に販売されていたという。

 伊福部昭(1914-2006)は多くの映画の音楽を手掛けている。ゴジラを中心に東宝特撮とおもわれてしまうきらいがあるが、ボックスのラインナップをみれば、むしろ特撮ものはその一部であることがよくわかる。但し少なからぬものは、容易にはみられなくなっているが。なかには、映画は知っている、みている、でも、伊福部昭が音楽だったっけ?というものもあるだろう。特に気にしていなければ、音楽がどうだったか気づかないものだってある。今回はそれら10枚をひとまとめにしたCDボックスとなる。

伊福部昭 伊福部昭 映画音楽全集 復刻箱 キング(2017)

 LPがリリースされた時点で映画のゴジラ・シリーズは休止中だった。あらためて単体で映画化される「ゴジラ」は1984年。そのときはあらたなシリーズの開幕との印象を与え、音楽も伊福部昭でなかった。その後1990年代に伊福部昭はゴジラ映画に復帰するが、ここにははいっていない。ここにあるのは、後年の特撮もののみ偏ってしまいがちなラインナップとは異なった選曲・編集がなされ、むしろ特撮モノを、文芸モノや歴史モノ、ドキュメンタリーといった多彩なジャンルのなかの一部としてフラットに扱っている全集なのだ。

 おそらく伊福部昭自身が 〈全集〉、記録のおもいをもっていたのだろう。もう映画の音楽はやらないだろうとおもっていたかもしれない。だからこそ1年をかけ、じっくりとつくっていったのではないか。なかには音楽マスターテープのないものがあり、音声テープから採録していたりしたという。

 音源が作曲家のどの程度意志や意図とつよく結びついたかたちで実現する例として、このボックスを聴きたい。映画のスチールではなく、〈絵師〉による手描きがジャケットとなっているのにも、少しく意志を感じられるし。