©MASAAKI IKEDA/SOUL GRAPH

ゴジラの形をした音楽が巨大化! この夏渋谷に上陸

 平成28(2016)年の「シン・ゴジラ」の登場と、百家争鳴の観を呈したその後の論評、感想、投稿、流言の数々はゴジラというクリーチャーが体現、象徴するものはたんに昭和の時代を背景にするものではなく、平成の世はおろか、元号が変わってもおそらく尽きることはないことをほのめかした。その内実をくまなく追うほどの紙幅は本稿にはないとはいえ、その何割かは音楽が担っているとの断言は速断とまではいえないであろう。〈出現〉や〈復活〉はゴジラの存在と不可分のライトモチーフであり、最初の一音で私たちは巨大な存在と正対する。幻視する、というより音のなかにゴジラの存在そのものがたちあがるかのような音楽の喚起する力は時代だけでなく、作曲者の意図をも超えてしまっている、ゴジラの代名詞ともいうべきこれらの楽曲の多くを手がけたのは、いうまでもなく伊福部昭である。

 伊福部は昭和29(1954)年の第一作から平成30年の今年まで、都合32作あるシリーズ作中の12作の音楽を担当している。少ないととらえるか多いと思うかはひとそれぞれだが、初期に集中する伊福部の仕事はゴジラシリーズだけでなく、とりわけ本多猪四郎監督とのコンビで東宝にのこした作品は特撮映画(音楽)の雛形というよりむしろ母型となった。井上誠は長年にわたりその秘密を探りつづけてきた音楽家である。83年当時ヒカシューに在籍した井上誠がソロ名義で出した『ゴジラ伝説』は集客の不調を理由に銀幕で休眠期に入ったゴジラを音盤で補うかのように、84年までに3作を重ね、平成も終わりかけた2014年『IV』を所収するボックスをリリースし昨年はニューヨークでのライヴ音源による『V』と、ふたたび息を吹きかえしている。『II』以降、巻上公一らヒカシュー陣をふくむ共闘体制をとるこのシリーズはテクノポップを基調のひとつに、伊福部作品のオーケストラによる律動の力感や音響の量感はもとより、複調の構造や非西欧圏のモチーフあるいは特異な旋律線などをポピュラー音楽で再現する趣きだが、その射程はノスタルジーを喚起するにとどまらない。伊福部音楽の大系に首まで浸かりながらその口を衝くしらべには井上誠の積年の研究が培った知見が脈打っている。

 〈ゴジラ伝説2018〉と題する今回の公演は『V』の布陣を踏襲するが、音盤の発行から1年、ニューウェイヴはもとよりハードロックやジャズや演劇や(超)歌謡のエキスを濃縮した異形のものはおそらく、さらなるメタモルフォーゼを果たし渋谷に上陸するにちがいない。

 


LIVE INFORMATION

大和田の夏〈ゴジラ伝説2018〉
○8月5日(日)16:00開演(15:30開場)
会場:文化総合センター大和田6階 伝承ホール
出演:
井上誠(シンセサイザー) 
ヒカシュー:巻上公一(ヴォーカル、テルミン、コルネット)、三田超人(ギター)、坂出雅海(ベース)、清水一登(ピアノ、シンセサイザー)、佐藤正治(ドラムス)、辰巳小五郎(トランペット)、後藤篤(トロンボーン)、吉田隆一(バリトンサックス)
チャラン・ポ・ランタン:もも(ヴォーカル)、小春(ヴォーカル、アコーディオン)
※演奏曲目は当日紹介。
※出演者などに変更がある場合があります。