一見、馴染みがあるような、そうでもないような、おもしろい顔合わせではある。山崎まさよしと、KANで、YAMA-KAN。山勘? 当てずっぽうの閃きだけかと思いきや、初の共同作業で仕上げた作品は、絶妙なバランスの3つのオリジナル曲であった。

サンバ調の“Take me Follow me”、二人のハーモニーが楽しい“記憶にございません”、ビートルズを彷彿とさせる“手をつなぎたいんだ”。すべての楽器演奏を二人だけで行なったというレコーディングも、今回の特筆すべきトピックである。

そもそもの出会いから、YAMA-KAN結成に至るまでのエピソード、曲作り、レコーディング、そして、まだまだ謎の多い二人の関係性について話を聞いてみた。

YAMA-KAN Take me Follow me/記憶にございません/手をつなぎたいんだ TOWER RECORDS(2018)

 

俺とKANさんやったら何かできるんちゃうかなって(山崎まさよし)

KAN「最初に会ったのは、山崎くんが札幌のSTVラジオ『アタックヤング』っていう番組を始めたころ」

山崎まさよし「95年じゃないですか? 僕がデビューしてすぐだったから」

――同じ番組の曜日違いで。一緒に飲んだりすることもあったんですか?

山崎「うん、KANさんがバーに連れて行ってくれて」

――当時、二人はどんなことを話したんですか?

KAN「“記憶にございません”」

――それ、便利ですね(笑)。お互いの第一印象はどうでしたか?

KAN「そりゃもう、音楽はかっこいいし、歌が強烈だしね」

山崎「KANさんはその時代のポップスの先駆者と思ってましたけど。その前に噂で、KANさんはずっとダジャレばっかり言ってるけど、ウケてもウケなくても気にしない人なんだって聞いていて、会ったらほんまにそのとおりやった(笑)」

KAN「自分のために言ってるんだもん、だって」

山崎「だから最初は戸惑ってました。言ってることが嘘なのか本当なのかもわかりづらいし。僕なんか青二才なんで温度的には熱かったけど、KANさんはそれより5度ぐらい低い」

KAN「もともと平熱低くて、しかも寒がりだから」

山崎「ここ数年で、やっとリズムがわかるようになってきたというか。僕よりも(事務所の後輩の)スキマスイッチとか秦基博のほうがKANさんと仲がいいんですよ。一緒にイベントやったりして。そこに嫉妬を覚えてました。なんでやねん、と(笑)」

KAN「そうだったの?(笑)」

――今回、一緒に音源を作ってみての感想は?

山崎「KANさんはすごいなって改めて思いました。メールの量が多すぎる(笑)」

KAN「よく言われる。誰からも言われる」

山崎「僕はスタッフに任せられるところは任せるんですけど、KANさんは、音楽の中身からジャケットから、全部やってる。少数精鋭。たしかにそのほうがいいんですよ。それにしても、なんやこの手薄は、って思うくらい。それでも、俺とKANさんやったら何かできるんちゃうかなっていうのはあった。だから言ったんですよ、二人だけでやりましょう、と」

――曲作りも、楽器も。

山崎「僕がドラム叩くから、って」

KAN「最初はイベントをやることが目的で出た案だったから、もう一人、誰かがいてもいいかなっていうのも思ってたの。俺と山崎くんともう一人。3人いると(指で三角形を作って)おもしろいことができそうだし。2人だと右か左かどっちか、ってなるから。だからメールで、何人か具体的に提案したんだけど。そのときはまだ曲を作るっていう発想はなくて、イベントをやろうっていうことしか考えてなかったから」

山崎「僕は、1対1のほうがスムーズかなと思った。KANさんは考えてることが明確なので、そこにもう一人加わるより、木村和(きむらかん)という人間と向き合ったほうが絶対おもしろいものができるんじゃないか、と思った」

KAN「本名だよ(笑)。まぁ、そういうふうに山崎くんに言われて、だったら、オリジナル曲を作ろう、って」

山崎「最初は2曲って言ってたけど、それが3曲になって」

KAN「そのほうがCDが立体的になると思ってね。それが去年の12月」

山崎「そう。レコーディングの日数が足りないかもしれないっていう話もあったけど、そこも乗り越えられるんじゃないかと思ったし。ひたすらプレーして、ひたすら録れば。僕は、人は少なければ少ないほど好き。最小人数で挑んで、その代わり、それがひっくり返ったときの嬉しさはやっぱりあるだろうし。だから今回のレコーディングはすごいおもしろかった。3曲ともすごくいいクオリティでできてるし。ヒット曲を目指してるものでもないし」

KAN「えっ?(笑)」

山崎「マニアックな路線やけど、ちゃんとポップなんですよ。聴き応えがあって、オマージュもあって。昔からあるサンバみたいなものであったり、好きなデュオグループであったり、ビートルズであったり、こういうふうなアプローチができるうちにやったほうがいいですよね。リズムにもすごいこだわってるし、なおかつ演奏できるし。めちゃめちゃええと思いますよ、これは」

KAN「いちばん大きいのは、山崎くんがドラムもベースもできること。できなければ打ち込みでもやれるけど、それだと本当に二人でやったって言えなくなるじゃん。だけど、ドラムもベースもやれるから、正々堂々と二人でやったって言えるのね」

 

ものすごくおもしろいよ。それはだって、まったく違うから(KAN)

山崎「“Take me Follow me”は、歌詞はほぼできていて、曲もこっちである程度こねくりまわしたものをKANさんに投げたら、構成的な部分と、あのイントロが返ってきて。〈トリッキーにしたほうがいいと思うんだよね〉って。聴いたときは戸惑いましたよ、これを弾くんかい、って(笑)。たしかにジャズの世界ではよくあるものなんだけど。ドラム入れが大変でしたね」

KAN「あれは時間がかかったよね。僕は感覚じゃなくて、座標で作ってるから。それを聴かされてやるほうはたまったもんじゃないよね(笑)」

山崎「いきなりほっぺた引っ叩かれるような衝撃(笑)」

KAN「でも、今はもう余裕でしょ」

山崎「何言ってるんすか、難しいですよ。KANさんは僕と作ってみて、どうでした?」

KAN「ものすごくおもしろいよ。それはだって、まったく違うから、いろんなことが。イメージしてたけど、実際、作り方も全然違うし、ドラムが叩けるんだもん。スターダストレビューの根本要さんに聴かせたとき、要さんが〈このドラム、誰?〉って。〈山ちゃんですよ〉って言ったらびっくりしてた。要さんはメロディとか歌詞より、アレンジや演奏を聴くタイプだから、真っ先にそれが気になったみたい」

――ドラムの評価も高いですね。曲作りに関しては、自分一人の作品だったら書かないようなメロディとか、発想っていうのもあったりします?

山崎「やっぱり、“Take me Follow me”の追っかけのコーラスとか」

KAN「“記憶にございません”はずっと二人でハモってる。それぞれのパートのどっちも主旋律じゃないっていう」

――たしかに聴いていて新鮮ですよね。歌詞はどうですか? 〈記憶にございません〉っていうフレーズがすごく山崎くんっぽいというか。

KAN「今思えばね(笑)。でも、メロディが自然に引っ張ってきた言葉というか」

山崎「僕のほうからもいろいろ歌詞のアイデアを投げたんだけど、結局、〈“記憶にございません”がいいと思うんだよね〉って。最後の埋まってなかったところだけ、〈ずっと“記憶にございません”って強がってるから、ちょっと泣き言っぽいことを入れてもいいんじゃないですか〉と」

KAN「それで何行か送ってもらって、あ、これで終われるじゃん、と思って」

山崎「記憶がない、記憶がないって言いながら、涙だけ流れてるっていうのがせつないですよね。この曲、めちゃめちゃいい」

KAN「うん、いい曲だね。でもやっぱりミックスが大変だったみたい」

山崎「僕の声は上で、KANさんは下がしっかりしてるから、混じりが難しい」

――そこにはエンジニアさんの活躍もあったわけですね。“手をつなぎたいんだ”ではKANさんはベースを弾いてますが。

KAN「形になって嬉しいです。本当は、ポール(・マッカートニー)はもっとこう、っていうのはあるけど。でも弾くので精一杯だったね」

山崎「全然、弾けてましたよ。ポールはベーシストのベースじゃないというか、ベースが歌っちゃってるから」

KAN「そう。ベースがメロディなんだよね。だから(“手をつなぎたいんだ”の)同じメロディのところでも、ドゥンドゥン……って、毎回フレーズを変えてる。それがポールの弾き方だから」

山崎「曲は(ビートルズの)“I Feel Fine”“Can't Buy Me Love”と」

KAN“She’s A Woman”

山崎「そうそう、それが一緒になったような」

――ピュアなラブソングですね。

山崎「いや、ピュアじゃない!(笑)」

KAN「ピュアだよ。真っ白でピンクだよ」

――なんですか、それ(笑)。

山崎「すごくいい曲ですよ。打算的なものが何もないから、ストレートに聴ける。僕の歌詞なんて悩んでばっかりですよ(笑)」

KAN「(“Take me Follow me”の)〈どっかの偉い人の気まぐれ〉っていうのはトランプ大統領のこと?」

山崎「だったり、いろいろいるんでしょうけど」

KAN「あ、いろいろなんだ」

山崎「僕の歌詞はだいたい、いろいろなんですよ。いろいろで、自分がわからないことを書き殴っているんですよね。あと、この歌詞は、80年代の〈連れてって〉ブームがあったでしょ?」

――私をスキーに連れてって、とか。

山崎「そうそう。なんか、連れてってほしい人ばっかりやったな、と(笑)。でも最近はどうなんやろって思って」

KAN「っていう話をしたのは、去年の9月ぐらいかな。ライブでお客さんに、♪タ〜ララ〜、タラララ〜(“街を/背にして”の部分)っていうのを一緒に歌ってもらおう、って言ってて」

山崎「(筆者に)この曲、どう思います?」

――連れてって、ついてきて、っていうコンセプトはキャッチーですよね。でも何やら歌詞は難しげなことも言ってるのかな、って。

山崎「うん、俺の頭が全然やわらかくないんだよ(笑)」

――でも曲が楽しくて、歌詞がちょっと辛辣っていうバランスがおもしろい。

山崎「メッセージ性(笑)?」

KAN「何かを言おうとしてるのならはっきり言えよ、みたいなのはあるよね(笑)」

山崎「どっかの偉い人とか、しがらみとか、ついついね」

――実はこの曲で、KANさんが書いた歌詞が却下されているそうで。

山崎「はい。いろんな地名が出てきて。ブタペストとか」

KAN「1回目は、最後のサビのところに、僕が最近行ったところの地名をバンバン入れたの。で、〈それは要らないと思います〉って言われて」

山崎「ハハハッ!」

KAN「そのあと、また別のを送ったの。それは、ATM壊れたとか、リクシャーでボラれたとか」

山崎「旅のエピソード」

KAN「そういうのを8つぐらい入れたんだけど、それは、スルーされて」

山崎「根に持ってます?(笑)」

KAN「いや、結果的には要らなかったよ。でも〈要らないです〉っていう、ひと言が欲しかったというか(笑)」

山崎「それはでも、1回断ってるし、2回目は言えないですよ。KANさんに、なかなかねぇ?」

KAN「弱い自分が出たんだ」

山崎「はい」

KAN「っていうのが、いちばんいい言い訳だよね」

山崎「すいません、今度から言います!(笑)」

――言いにくいのもわかるし、でもきっとKANさんは〈それは要らない〉と言われても、その意図を受け入れられるから、言ってほしいっていうのもわかります。

KAN「うん、作る意識を持ったアーティスト同士だったら、何も問題ないはずだよ」

――でも大先輩だしね?

KAN「先輩って言ったって、山崎くんのほうが全然背が高いんだから、関係ないよ(笑)」