新しいパートナーと作り上げたのは、原点でもあるジャズやブルースの名曲たち

 米国の音楽評論家、グリール・マーカスはヴァン・モリソンについてかつてこのように綴った。「自由をどうやって手に入れ、それをどう処理し、どう維持していくかをうたっている」。まさにそのとおりに活動開始してから現在に至るまでヴァンのその立脚点に揺るぎは一切ない。今なおソウルやジャズのマナーへ一定のリスペクトを表しつつも、そこから、あるいは歌そのものからでさえも自由であろうとしている。昔から多くのカヴァー、改題に挑んでいるのもそのためだろう。しかも、近年の猛烈なリリース・ラッシュの中、昨年も『Roll With The Punches』と『Versatile』の2作品が発表されたが、若い頃の解釈より遥かに歌に対して柔軟だ。

VAN MORRISON,JOEY DEFRANCESCO You're Driving Me Crazy Legacy/ソニー(2018)

 そして前作から僅か半年足らずで届いたジョーイ・デフランセスコとのコラボ・アルバムである新作『You're Driving Me Crazy』を聴いて痛感するのも、やはりそうしたルーツへの敬意とそこからの解放である。ここでも近作同様にカヴァーが約半数で、“Have I Told You Lately”“Young Lovers Do”など自身の過去曲の新録も含む構成。一度は世に放たれた曲を今一度引き寄せて解放させるような作業が自身を、音楽を自由にさせている。特に今作ではビートルズやプレスリーもとりあげたソングライター、タイタス・ターナーの“Sticks And Stones”、メンフィス・スリムことピーター・チャットマンの“Everyday I Have The Blues”あたりの選曲が秀逸で、自在にメロディを喉の奥で転がすような歌声が耳をとらえて離さない。なかでも、おなじみコール・ポーター(本作でも“Miss Otis Regrets”をカヴァーしている)と同世代であり、〈私の青空〉などで知られる作曲家、ウォルター・ドナルドソンによるタイトル曲が素晴らしい。ビリー・ホリディやシナトラまでがとりあげてきた有名曲をダイナミックに歌い切る様子は72歳とは思えないほど豪快。どんな時代の歌でも……いや、歌という歌をすべて一手に引き受けてしまえるこの包容力には、もう、拍手の手がいくつあっても足りない。ヴァンに歌われた歌はその瞬間に自由になって羽ばたいていく。

 そんな本作で演奏のパートナーとなっているのが、ヴァンとはこれが初共演となるジョーイ・デフランセスコだ。71年フィラデルフィア生まれ、若い頃からマイルス・デイヴィスのツアーに参加するなど父親パパ・ジョン・デフランセスコ同様に鍵盤奏者として、トランペット奏者として活躍してきた彼だが、近年の新世代ジャズ・プレイヤーと異なりストレート・アヘッドな奏法でヴァンの豪傑なヴォーカルと渡り合っている。

 実に39作目。だが、我々が心酔している間にももう次の作品へと動き出しているのかもしれない。おそるべき72歳なのである。