溢れ出すピュアな音楽愛とルーツへの思い……
ヴェテランの活躍が目立つのは最近に限ったことじゃないが、2017年はやけに60年代から活動する面々の凄みを痛感させられた。〈気付いたら70歳を過ぎ、いつしか待ったなしの状態になっちまっていた!〉〈やるならやらねば!〉〈悠長にマイペースで……なんてもう言っていられない!〉〈ひたむきに真摯な態度で音楽と向き合いつつ先に進むことこそ、俺たち生き残った者の義務じゃないか!〉――そんな声が聞こえてくるような作品を手にするたび、〈どうかこのまま好きにやり続けてほしい〉と願うばかり。
なかでもひときわ大きな〈声〉が聞こえてきたのは、ヴァン・モリソンの作品群。ここのところ気力が向上しているのか、自信と誇りを強く感じさせるリリースが間断なく続き、振り返ればそれは2015年作『Duets: Re-Working The Catalogue』の成功がデカかったように思う。ボビー・ウーマックやスティーヴ・ウィンウッド、マイケル・ブーブレにジョス・ストーンらとのデュエットで自身の代表曲を再演するという、(誤解を恐れずに書けば)よくある企画盤でありながら、ヴァン独自の境地を見せつける結果となったあの傑作によって、何やらまた一歩前進したような気さえ抱いたものだ。加えて、良質なアーカイヴ系のコンピも多く、カレドニア・ソウル・オーケストラとの熱演を詰めたライヴ音源集『It's Too Late To Stop Now...Volumes II, III, IV & DVD』、ゼム時代の楽曲を網羅した『The Complete Them 1964-1967』あたりがとりわけ話題に。
そして、2017年はソロ・デビューから50年の節目だったこともあり、〈新作が出ないわけない〉とは考えていたものの、2枚も待っているなんて誰が予想できただろう。9月リリースの『Roll With The Punches』で勢いに乗っている様子はアリアリと目に浮かんだけど、あれからまだ3か月しか経っていないじゃないか……。67年のセッション音源を総まとめした『Authorized Bang Collection』も手元に届けられたし、前作だって聴き込んだと言い切れない状態だし。〈ビックリさせないでよ〉ってツッコミたくなると同時に、先が読めないこの展開もまさしくヴァン的なわけで。
そんなこんなで、ヴァン・モリソンによるニュー・アルバム『Versatile』の話。ジェフ・ベックやクリス・ファーロウが顔を揃えた前作よりも1曲多い16曲入り。2作の共通点はカヴァーが大半を占めていることだが、ブルースやリズム&ブルース色が濃かった『Roll With The Punches』に対し、こちらはビッグバンド・スタイルでスウィング時代のカヴァーをたっぷり聴かせる、言わばヴァン流の〈グレイト・アメリカン・ソングブック〉といった趣だ。トニー・ベネットの十八番“I Left My Heart In San Francisco”やフレッド・アステア“They Can't Take That Away From Me”などのスタンダードは、2005年作『Magic Time』で披露したフランク・シナトラのカヴァーを思い出させる出来。でもって6曲のオリジナルもオールドファッション仕立てである。固い握り拳をガツンと喰らわすようなパワフルさのあった前作に比べると、力みゼロの柔軟な歌唱が実に微笑ましく、ニヤニヤを誘わずにおかない。また、正調リズム&ブルースに調理された“Unchained Melody”やケルティック・スウィング風に奏でられるスコットランド民謡“Skye Boat Song”ほか、ヴァーサタイルな音楽的背景が見えてくるところも流石だな、と。
それにしても気持ち良さげにサックスを吹き、往年のジャズマンになりきって朗々と歌いまくっている御大。こういったピュアな音楽愛を振り撒く彼の真似を、どこの誰ができるというのか。〈この人がいる限りロックはまだまだ大丈夫だな〉なんて呑気な言葉を思わず吐きたくなってしまう。 *桑原シロー
ヴァン・モリソンの作品を紹介。