Page 2 / 2 1ページ目から読む

たった〈ひとり〉で音楽を作ること――新作『Danz』に至るまで

コンピューター・マジックの音楽には、どこか内省的というか寂しげな響きがある。それは彼女が〈ひとり〉で音楽を作っているからかもしれないし、冒頭でも触れたように〈ひとり〉で過ごした時間も関係あるのだろう。

先に紹介した“The End Of Time”のMVにしても、ベッドルームから街に出た彼女は、目立つ格好をしているのに誰かに話しかけられるわけでもなく、ただ無表情で歩き続け、最後は建物のうえから地上を見下ろすシーンで幕を閉じる。そこには映画「ロスト・イン・トランスレーション」に通じる疎外感が描かれているようにも思う。

その話でいうと、音楽ライターの黒田隆憲氏による著書「メロディがひらめくとき アーティスト16人に訊く作曲に必要なこと」(2015年)に掲載されたインタヴューで、ダンジーがベル・アンド・セバスチャンの歌詞について語っていたのが印象深い。きっとユニークな人物像だけでなく、その裏に隠れたナイーヴな感受性も、彼女が日本で支持された理由として大きかったのではないか。

そういった彼女のアーティスト性は、作品を重ねるごとに深化している。自身のレーベル=チャンネル9を立ち上げて発表した2015年のファースト・アルバム『Davos』では、それまでの集大成ともいえるキャッチーなサウンドを展開。2016年のEP『Obscure But Visible』では宮崎駿にインスパイアされた楽曲を含めて、どことなくオリエンタルな作風が印象的だった。そして、自らの名前を掲げた2018年のセカンド『Danz』では一転、ダークな世界が描かれている。

それもそのはず、ここで彼女がテーマにしたのは〈ディストピア〉。同じSF映画でも「マトリックス」や「エクス・マキナ」などに影響されたという音像は、無邪気さよりもシリアスなムードが際立ったもの。自身の機材やジョージ・オーウェルの「1984」、トム・ヨーク(レディオヘッド)の名前が入ったバッジなどを映しつつ、怯えるような表情で歌う“Amnesia”のMVもその変化を伝えるものだ。

2018年作『Danz』収録曲“Amnesia”
 

ミュージシャンとしての成長ぶりも一目瞭然で、前作から導入されたポリフォニック・シンセサイザー、Prophet-6を駆使したアナログ的な響きのなかに、もはやアマチュアっぽさは感じられないだろう。ヴォーカルの重ね方や感情表現も進化しており、ゲイリー・ニューマンやブロードキャストの系譜に連なるダークなエレポップの最新モードとしても、完成度は非常に高い。

実際、ディストピアを踏まえた物語設定はアメリカの社会情勢を反映したものだし、SNS上では#MeToo運動に共鳴するメッセージを発信したりと、作品以外でもアーティストとしての自覚が感じられる場面は増えていた。同作のライナーノーツによると、彼女自身もかなり意識的にサウンド面の変化を求めたそうだ。

ダンジーはいままさに、大人の階段を登ろうとしているのだろう。Anise Marikoが監督した“Ordinary Life(Message From An A.I. Girlfriend)”のMVに、彼女はみずからメイド服を着て出演しているが、ここで描かれる妖艶なムードにも成熟ぶりが感じられる。

2018年作『Danz』収録曲“Ordinary Life(Message From An A.I. Girlfriend)”
 

これまでも来日を重ねるごとにスキルアップした姿を見せていたダンジーだが、7月のジャパン・ツアーはこの『Danz』を提げての登場ということで、これまでと一味もふた味も違う彼女が観れるのではないか、と期待している。

今回はダンジーと女性ドラマーによるデュオ編成でのステージになるそうで、音源とまた違う味わいが生まれるのは言うまでもないし、最新作で見せたスキルアップは演奏面にも反映されているはずだ。

もちろん、最新作でダークな作風になったからといって、従来の愛くるしい魅力が損なわれることはないだろう。むしろ、コンピューター・マジックほど目先のトレンドに囚われず、一貫した世界観やテイストを保ち続けているアーティストも珍しい。今年6月にアップされた、「エヴァンゲリオン」のプラグスーツに身を包み、招き猫のポーズをとるダンジーの写真姿が何よりそれを物語っている。

 

Computer Magicさん(@danz_cm)がシェアした投稿 -


Live Information
 〈Tugboat Records Presents × Fastcut Records present “Computer Magic Japan Tour 2018 in Osaka”〉

7月21日(土) 大阪・心斎橋 CONPASS Osaka
サポート・アクト:Pictured Resort
開場/開演:18:30/19:00
前売り:4,500円(ドリンク代別)
予約:info@fastcut.jp ※件名に〈7/21 Computer Magic予約〉、本文に氏名・枚数を記載し送信ください。
プレイガイド:Pコード 114-813/Lコード:53747/e+

〈Tugboat Records Presents “Computer Magic Japan Tour 2018 in Tokyo”〉
7月22日(日) 渋谷 CIRCUS Tokyo
サポート・アクト:No Buses
開場/開演:19:00/19:30  
前売り/レーベル割(限定50枚):5,400円/¥4,800(ドリンク代別)
プレイガイド:Pコード 113188/Lコード 75455/e+  

7月24日(火) 東京・渋谷 WWW
サポート・アクト:No Buses
開場/開演:19:00/19:30  
前売り/レーベル割(限定100枚):5,400円/¥4,800(ドリンク代別)
プレイガイド:Pコード 113476/Lコード 71489/e+ 

主催・企画制作:Tugboat Records Inc.
協力:P-VINE RECORDS、Fastcut Records