パソコン1台あれば、誰もが音楽を作れてしまう時代。ミュージシャンは〈作曲〉をどのように捉えて、どんなことを大切にしているのか。そんな曲作りのプロセスに迫ったインタヴュー本「メロディがひらめくとき アーティスト16人に訊く作曲に必要なこと」が、本日9月18日に刊行された。

登場するアーティストは下記コンテンツのとおり。自宅やプライヴェート・スタジオでの撮影も含む〈素の姿〉を捉えた各アーティストの写真と共に、十人十色ならぬ16人16色の哲学と隠されたドラマ、そして本音が一冊に詰まっている。音楽家志望者の道標となるのはもちろん、ものづくりに携わる人なら多くのヒントが発見できるかもしれない。336ページと読みごたえも十分。素敵な装丁にも注目したいところ。
 

【コンテンツ】
・MySpaceで発表していたころは、「死ね」とか書かれてました―Galileo Galilei
・DTMは、時間をかけたり、トライアンドエラーを繰り返せば絶対によくなっていく―tofubeats
・人生の波があるから曲ができるし、曲にも波がある―マイカ・ルブテ
・最初に歌詞と曲が「生まれた!」って瞬間が一番嬉しい ―AZUMA HITOMI
・歌ってて気持ちのいいところにいくっていうのは意識していた―sugar me
・工夫すれば道はあるし、DIY次第で結構どうにでもなる―Predawn
・お金がないっていうことは、自分たちで手を動かさなきゃならない―小林祐介
・メロディを作るという発想がなかった―kz(livetune)
・楽しいことがなかったから、自分で音楽を作って楽しむことにした―コンピューター・マジック
・1曲だったら誰でもいい曲は書ける。それをコンスタントに続けられるか―まつきあゆむ
・作曲っていうのは音楽と向き合ってないときにできる―OLDE WORLDE
・歌詞とメロができたからって、なんで「曲が完成した」って思えるのかがわからない―三浦康嗣
・iPhoneでSNSを見たりとか、それと同じ感覚で曲を作りたい―Crystal
・煮詰まることと付き合うのが、この仕事―沖井礼二
・海賊盤でデモから完成まで聴き比べると、制作過程がわかる―宮崎貴士
・作曲というのは目的がないとできないんですよ―冨田ラボ


著者は、90年代にプロ・ミュージシャンとして活動したこともあって楽器/機材にも精通し、世界で唯一の〈マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン(!)〉であり、「シューゲイザー・ディスクガイド」(共著)「プライベート・スタジオ作曲術」などの音楽書で知られる黒田隆憲。今回はご本人よりコメントが届いたので、そちらも併せてご紹介しよう。
 



mikikiをお読みの皆さま、はじめまして。ライター黒田隆憲です。

このたびわたくし、拙著「メロディがひらめくとき」(DU BOOKS)を上梓しました。16人のミュージシャンを訪ね、メロディーはどのようにして生まれるのか、そのプロセスに迫ったインタビュー本です。

筆者がミュージシャンとしてメジャー・デビューした90年代半ばは、〈自分だけのスタジオを持つ〉なんてことは夢の話で、ドラムセットを置けるくらいの広いスペースと防音設備、何十万、何百万とするようなアナログのアウトボードやコンソール、レコーダーなどを持っていなければ、〈商品〉として通用するようなクオリティの音源を作ることなど不可能でした。

それが、デジタル技術の進歩に従い、いつしか本物の楽器や機材に近いサウンドをシミュレート出来るようになっていきます。今や、パソコンが1台さえあれば、誰もが〈スタジオ〉を持てる時代に。もはや、機材環境という点ではプロもアマもさほど違いがなくなってきたのです。

となると、ミュージシャンがどんな機材を持っていて、どんなプライベートスタジオを構えているのか?といったことよりも、〈手持ちの機材を、どのように工夫しながら、どう使い倒しているのか?〉ということの方が、重要なのではないかと思い始めました。

普段ミュージシャンたちはどのようにしてアイディアを思いつくのだろう?

それをどのようにカタチにしていくのだろうか。

そんな、彼らにとってもっともコアな部分である〈曲づくりのプロセス〉が、どうしても知りたくなったのです。


今回、取材に協力してくださった16人のミュージシャンは、僕が心から敬愛し作品をずっと追いかけてきた方たちばかりです。似たような機材環境にありながら、作っている音楽やそれを生み出す発想は全く違う、というケースが幾つも出てきて、〈やはりツールそのものより、それをどう使いこなすかが重要なんだな〉と確信しました。

レコーディング用の機材をひと通り揃え、〈これさえあれば、どんなスタイルの楽曲でも作れる!〉と喜び勇んだ途端、全く曲が書けなくなってしまった10年前の自分に、この本を読ませてやりたかった。そう思いながら作っていた部分もあります。

機材は揃えたのに、なかなか曲づくりが始められない人、〈できること〉が多すぎて、かえって何も選べなくなってしまった人、機材の操作はマスターしたけど、肝心のアイディアがなかなか思い浮かばない人、そんな人たちにとって、この本が何かしらのヒントになれば幸いです。

そして、ここに登場する16人のミュージシャンたちの魅力が、より多くの人に伝わることを願ってやみません。