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学生時代がもうすぐ終わるということを強く意識してました

――では、今作『若者たちへ』ではどんなテーマを設けたんですか。

「テーマは〈夏〉ということ。あと、学生時代がもうすぐ終わるということを強く意識してました。自分の若者時代をちゃんと記録しておきたいし、聴いてくれた人にもその人が若者だった頃を思い出したりしてもらえたらなって」

――〈若者〉という言葉はアルバム・タイトルにも使われていますよね。より具体的にいうと、塩塚さんはどんな人たちのことを〈若者〉と呼んでいるのでしょうか。

「どうなんだろう。個人的には大学生くらいの人を若者と呼ぶのかなと思っていて。そういう年頃の人たちって、まだ青さが残っているというか、いろいろ考えてるし、たくさん失敗もするじゃないですか。

だから、私はいまそういう時期を生きている身として、そういう誰にでもある青春みたいなものを、缶詰にしておけたらなって。それが年下の子たちがこれから迷ったときの支えになったりしたら嬉しいし、年上の人たちにもそういう時期の気持ちを思い出してもらえたらなって」

――そのアルバムの1曲目が“エンディング”というのも、とても示唆的に感じました。

「“エンディング”はライブでもよく1曲目でやってるし、ドラムの音からアルバムが始まるのもいいんじゃないかなって。単純に〈エンディングで始まる〉というのもいいなと思ったし、自分が生きてきた時間を一度ストップさせて、ここからアルバムの世界に入ってもらえたらいいな、みたいなことも考えてましたね。“エンディング”ですけど、ちょっとプロローグみたいな意味合いというか」

――テーマに沿って選曲したということは、すでに曲のストックがあったということなのでしょうか?

「そうですね。私たちはいつもアルバムのためというよりは、〈次のライヴではどんな曲やろうか?〉みたいなところから曲を作っていて。そこでストックされた曲から、今回の〈夏〉というテーマに合うものを選んだ感じです」

――ということは、曲を書いた時期もけっこうバラバラ?

「そうですね。“天国”と“絵日記”は大学1年生のときにつくった曲で、“ドラマ”と“天気予報”は今年。“RED”は去年の夏ですね。“若者たち”と“エンディング”は2年前かな」

 

その時々でいろんな声が作品に入ってるのも大事かなって

――今作はプロダクションもおもしろいですよね。“天国”では電話の着信音が鳴ってたり。

「“天国”はけっこう遊びどころだと思っていて、自主制作盤に入れた時も、新宿駅の改札前でサンプリングした音を使ってたんです。たとえば高木正勝さんみたいな、いろんな音を重ねた音楽も私は大好きなので、そういう録音でしかできないこともやりたいなって」

――“ドラマ”のデス・ヴォイスにもびっくりしました。

「あはは(笑)。羊文学の曲にデス・ヴォイスが出てくるとは、きっと誰も思わないだろうなって。あとはミツキさんの曲にもああいう声が入ってたから、それもちょっと頭にありましたね。“ドラマ”は曲調も激しいから、もがき苦しんで〈わー!〉ってなってる感じを出したいなって」

――あの声は誰なんですか?

「BOYという古着屋のトミーさん(奥冨直人)にお願いしました。作品にはそのときに仲がいい人たちの声を入れておくのもいいなと思っていて。それこそバンド・メンバーも変わったりしてるし、その時々でいろんな声が作品に入ってるのも大事かなって」

――その時々のバンドを取り巻く状況を作品にも刻んでおこうと。

「そうですね。今回はCDのボーナス・トラックにも、私の友達でいま女優を目指している子の声が入ってて。彼女は、私が〈バンド、もう無理かも〉みたいになってた時期にいちばん励ましてくれた、本当に大切な友達なんです。

だから、これはもう完全に私事なんですけど、このアルバムで歌っていることはすべて自分が生きてきたなかで感じたことだし、ここは気を張らずにその時々の自分を刻んでいけたらなって」