天野龍太郎「毎週金曜日にMikiki編集部の田中と天野がお送りしている〈Pop Style Now〉、4か月ぶりの再開です。〈ひさしぶり!〉とか言わずにしれっと始めます」
田中亮太「今週も必聴の5曲を紹介していきますよ」
天野「はい! まずは〈Song Of The Week〉!!」
Lana Del Rey “Venice Bitch”
Song Of The Week
天野「ということで今週はラナ・デル・レイの新曲“Venice Bitch”です。ビデオが日本だと観られない(涙)。にしても、すごい曲名!」
田中「ずっと〈Venice Beach〉だと思っていました……」
天野「イタリアのヴェネツィアじゃなくて、LAのヴェニス・ビーチにかけているみたいです。ちなみにラナはNY出身ですが、いまはLAに住んでるんだそうで」
田中「それにしても大曲ですね。10分弱あります」
天野「長さもありますし、ギターやミニ・モーグっぽいシンセサイザーの音がサイケデリックで宇宙的で陶酔的で、サウンドスケープも壮大ですね。音楽による一大叙事詩って感じも。見事です」
田中「先に公開され、これまた名曲だった“Mariners Apartment Complex”と同様に、この曲もジャック・アントノフがプロデュース。ファンやブリーチャーズでの活動で知られ、ソングライターとしてもロードやテイラー・スウィフトの楽曲で大活躍という彼ですが、意外にもラナとはこの2曲が初組み合わせ。今回もホントに良い仕事してますよねー。ちなみに歌詞はどんな内容なんですか?」
天野「平常運転のラナって感じですが、ヴェニス・ビーチにかけた〈Venice bitch〉とか、〈Ice cream, ice queen〉って歌詞とか、ちょっと駄洒落っぽいですね(笑)。でも、〈どんな黄金でも色褪せる〉〈私たちはアメリカ製なの〉〈ノーマン・ロックウェルは私をハッピーかつブルーに描いたの〉といったフレーズは、さすが〈アメリカのモリッシー〉って感じ!ですかね(笑)?」
田中「モリッシーといえば、天野くんは『お騒がせモリッシーの人生講座』の書評を書いていましたね」
天野「良書ですよ。ぜひ亮太さんも読んでください。ラナに話を戻すと、僕は彼女がデビューしたとき、ただのハイプだと思ってたんですよ。歌もサウンドも胡散臭いし、すぐにいなくなるんじゃないかなと(笑)。でも、来年リリース予定の『Norman Fucking Rockwell』でアルバムとしては6枚目を数えるラナは、押しも押されもせぬポップスターになりました。デビュー時の表現をそのまま突き詰めて、作品を重ねるごとに力強さを増していった実力には感服せざるをえません。表現している世界観も〈ポップ〉としてはかなりオルタナティヴなものですし、いまでは大好きなアーティストです」
Charly Bliss “Heaven”
田中「チャーリー・ブリスはNYを拠点に活動する4人組。2017年にリリースした初作『Guppy』が、エヴァ・ヘンドリックスのコケティッシュな歌声とドライヴィンなギター・ロック・サウンドで高く評価されました」
天野「『Guppy』、よく聴きましたよ。ウィーザーのファーストが引き合いに出されていましたね。ホントに90sなロック・サウンドで、突き抜けてる印象です。あっ、ウィーザーといえば今週公開された新曲には〈マジかよ……〉って思わされましたね」
田中「KEXPの記事によると、この“Heaven”は『Guppy』のリリース以降に彼らが書いた最初の楽曲のひとつで、バンドにとっても〈次なる何か〉を感じられた曲だそう。ライヴでも以前から演奏されているみたいで、1年以上前に動画もあがっていますね」
天野「エヴァみずから言ってますが、このバンドとしては珍しい、直球のラヴソングになってますね。〈I’m up here/I’m so high/I feel everything/I feel nice〉という最初の歌詞も衒いがなくて」
田中「〈ニルヴァーナ的〉と言うべき、基本的には同じメロディーを繰り返す、シンプルな構造のグランジ・ロックなんですが、曲が進むたびに歌声がどんどんユーフォリックになっていくところが少し怖い(笑)。恋をしているときの天にも昇りそうな気分が狂気と紙一重であることまで捉えた楽曲だと思います!」
天野「最高ですね。ピッチフォークも〈Best New Track〉に選んでましたが、要注目のバンドだと思いますよ」
Marie Davidson “Work It”
天野「マリー・デヴィッドソンはカナダのモントリオールで活動しているプロデューサーです」
田中「この新曲“Work It”は、ニンジャ・チューンからデビューする新作『Working Class Hero』からのシングルですね。アルバム・タイトルがカッコイイ!」
天野「そうなんです。“Work It”はニュー・オーダーの“Blue Monday”を思い出しちゃうような、バリバリ80sなサウンドのダンス・トラックで。この無骨さはEBMとかインダストリアルとかにもちょっと近いですね」
田中「イントロのキック連打から〈キタキタ感〉が(笑)。歌とポエトリー・リーディングの中間というか、吐き捨てるように単語を発するヴォーカルにも痺れます。2分34秒頃の〈Hahaha〉という笑い声も最高!」
天野「このサウンドとヴォーカルはマリーのスタイルですね。〈月曜日から金曜日まで/金曜日から日曜日まで/愛してるから/私は働く〉と皮肉っぽく歌っていますが……」
田中「土日くらいは休んで欲しいと思いますが(笑)」
天野「ですね。僕は2016年の前作『Adieux Au Dancefloor』で彼女を知ったのですが、やはりニンジャ・チューンからデビューするということで、グッと洗練されてちょっと整理された印象です。前作のタイトルも〈ダンスフロアーよさようなら〉というクールなタイトルですね。そういえば、マリーはDirty Dirtこと戸田岳志さんが推してたなー。とにかく、いまもっとも新作が楽しみな音楽家の一人です」
BROCKHAMPTON “J’ouvert”
田中「この曲も収録されるRCAからのメジャー・デビュー・アルバム『Iridescence』が本日リリースのブロックハンプトン! 今年もっとも熱い視線が注がれていたグループのひとつなんじゃないでしょうか」
天野「間違いないですねー。LAが拠点のブロックハンプトンは、去年〈Saturation Trilogy〉と呼ばれる3作のアルバムをリリースして話題になりました。ラッパーはもちろんトラックメイカーやグラフィック・デザイナー、写真家までをも擁する人種混交の異能集団で、メンバーは15人近くいるとかいないとか」
田中「〈Saturation Trilogy〉時は青塗のメイクがトレードマークでしたが、それも特定の人種にカテゴライズされたくない、という意思があったのかなと」
天野「いろんな記事で引用されてる発言ですが、首謀者のケヴィン・アブストラクトが、ガーディアン紙のインタヴューで〈ジャスティン・ビーバーやロード、ワンダイレクションと並列な存在になりたい〉といったことを言ってました。つまり、〈ポップ〉として位置付けられたいということですよね」
田中「実際、彼らは自分たちのことを〈ボーイズ・バンド〉と称しているわけで。この“J’ouvert”も、いきなりビートが倍速でドラムンベースっぽくなったり、50年代のSF映画を思わせる不思議なシンセがサンプリングで使われていたりと、とにかく変なんですが、なぜか仕上がりとしてはポップという。その意味では、アウトキャストの後継者とも言えるのかな……」
天野「個性豊かなMCたちのマイク・リレーにも思わず耳が奪われちゃいますし、どこか懐かしのヒップホップっぽいっていうか、クルー感があるっていうか」
田中「各ラッパーの名前もきっちり覚えたくなっちゃうところも、しっかり〈ボーイズ・バンド〉ですよね!」
Lil Uzi Vert “New Patek”
天野「大ヒット・シングル“XO Tour Lif3”で、デビュー作『Luv Is Rage 2』と共に2017年の顔となったリル・ウージー・ヴァートの新曲“New Patek”。マジでカッコイイ!」
田中「ウージー・ヴァート、みんな大好きミーゴスの“Bad And Boujee”で一躍その名をフィラデルフィアから世界に知らしめたっていう感じでしょうか?」
天野「ですです。新作『Eternal Atake』を出すとか出さないとか言っていますが、半年ぶりのソロ・シングルとなった“New Patek”もきっとアルバムに収録されるんだと思います」
田中「何についてラップしてるんですか?」
天野「〈Patek〉って、うん百万円するスイスの超高級腕時計=パテック・フィリップでしょうね。フランク・ミュラーとオーデマ・ピゲとリシャール・ミルも出てきます。全部高級腕時計です」
田中「へー」
天野「元カノにもらったチープ・カシオを10年間愛用している僕にはまったく縁がないアイテムですが! 日本では『デス・パレード』(2015年)というアニメの曲をサンプリングしているということでちょっと話題になっています」
田中「ウージーはアニメ好きらしいですからね」
天野「FNMNLも書いてますが、リリックに『NARUTO』が出てきますね。あと『トランスフォーマー』のオプティマスも。お得意のメロディアスなラップで、この曲はかなり早口、リリックも長いです。でも内容はブリンブリンなラグジュアリー自慢って感じでしょうか。アウトロでフェイドアウトしていくので、言いたいことがめちゃくちゃたくさんありそう(笑)。というわけで、今週はこのあたりで!」