シーンの活況に育まれた、現代的なトラップの最高峰!
カラフルなドレッドヘアに代表されるヴィヴィッドなファッション、そしてトラップ・ビートの上を弾むいわゆる〈マンブル・ラップ〉。そんな新世代感を全開にして登場してきたリル・ウージー・ヴァートは、2017年に最大の成功を収めたライジング・スターのひとりである。そのスタイルの新奇さやシンプルな曲の内容、向こう見ずな発言ゆえに叩かれることも多いようだが、こうした個性が現在進行形のリアルを表現しているのは疑いのない事実なのだろう。
サウスのヒップホップ内で発生したサウンド・スタイルが、特徴を肥大させる形でベース・ミュージック~EDM方面で拡大することで世界的な音楽ジャンルとしての認知を得たトラップ。そのEDM方面におけるピークはバウアー“Harlem Shuffle”(2012年)やDJスネイク&リル・ジョンの“Turn Down For What”(2013年)だったと思うが、合間にスクリレックス&リック・ロス“Purple Lamborghini”(2016年)のようなハイブリッドも生み出しつつ、その言葉やイメージはここ数年でふたたびヒップホップ側に取り戻されることになった。フェッティ・ワップ“Trap Queen”(2015年)あたりから改めてフレッシュなワードとして機能しはじめ、また違う種類のドラッギーなライフスタイルを標榜する若い世代のラッパーによって新たな意味も付加されながら言葉として新生したのが現行の〈トラップ〉というわけである。
リル・ウージー・ヴァートは94年生まれの23歳。出身はフィラデルフィアで、同郷の大物DJ/プロデューサー/A&Rであるドン・キャノンとDJドラマに見い出されたことでキャリアを切り拓いていった。彼らの主宰するジェネレーション・ナウを経由してアトランティックとメジャー契約したウージーは、2015年にミックステープ『Luv Is Rage』を発表している。その後はXXLが有望新人を選出する名物企画〈Freshmen Class 2016〉に選出され、同年の『Lil Uzi Vert vs. The World』がミックステープ扱いながらもゴールド認定のヒットを記録。そこで生まれた“Money Longer”のヒットもあってシーンの支持を急速に取り付けていくことになった。
そしてミーゴス“Bad And Boujee”である。2017年初頭に全米1位に輝いたこの客演曲によってウージーの名はいよいよ浸透。TM88らによる自身のソロ・チューン“XO Tour Llif3”も全米TOP10入りのヒットに押し上げるなか、「ワイルド・スピード ICE BREAK」のサントラではクエイヴォ&トラヴィス・スコットと並んで“Go Off”を披露し、アトランティックの激押しするネクスト・ブレイカーとしての存在を改めて念押ししてみせた。そして、満を持して登場した公式ファースト・アルバムが、このたび日本盤のリリースも実現した『Luv Is Rage 2』というわけだ。
DJドラマとドン・キャノンを後ろ盾に、メトロ・ブーミンやマーリー・ロウ、ワンダガールらが並ぶ布陣は、今風の陰鬱で享楽的なダウンテンポのトラップ・ビートをシンプルにデリヴァリー。ラッパーの参加はなく、ウィークエンドやオー・ワンダーといったゲストの歌唱を除けばワンマイクで押し切り、独自のエモい世界をズルズルと展開していく。フィジカル化される前の時点ですでに全米No.1を獲得している大ヒット作だが、CD化にあたってはTM88の“Loaded”など4曲が追加され、さらに日本盤には先述の“Money Longer”などミックステープ発の代表曲もボーナス収録されている。いま聴いてこそ伝わるこのモダンな空気を体感してほしい。 *出嶌孝次
リル・ウージー・ヴァートの参加した作品を一部紹介。