グラミーを機に改めて考える――なぜ彼女は時代に選ばれたのか?
2月にLAで授賞式が開催される第66回グラミー賞。ノミネートの発表時点から大きなニュースになっていたように、今回は女性アーティストの活躍ぶりが半端ない。もはや主要部門はほぼ独占と言っていいほどだ。最多ノミネートを獲得したSZAが9部門。ヴィクトリア・モネイ、フィービー・ブリジャーズ(ボーイジーニアスも含む)が7部門。テイラー・スウィフト、マイリー・サイラス、ビリー・アイリッシュ、ボーイジーニアス、そしてオリヴィア・ロドリゴらが6部門でノミネート。常連組のビヨンセこそ一旦お休みだが、男性アーティストで多数の候補をゲットしたのは、ジョン・バティステくらいなもの。さらには全米で大ヒットした映画「バービー」からはデュア・リパやニッキー・ミナージュ&アイス・スパイスらの楽曲も候補に挙がっている。〈#Me Too〉ムーヴメントの高まりと並行して、女性アーティストに正当な評価がなされていないのでは?と数年前から問題視されていたグラミー賞だが、紆余曲折を経て、ようやく時代の流れに追いついたとも言えそうだ。
認められる理由
そんな候補者のなかでも、ひときわ眩しく輝いているのが、本稿の主役となる現在20歳のオリヴィア・ロドリゴだ。すでに2022年のグラミー賞では主要4部門を含む7部門でノミネートを獲得し、最優秀新人賞や最優秀ポップ・ソロ部門(“drivers license”)、最優秀ポップ・アルバム部門(『SOUR』)を受賞。今回の2024年では最優秀アルバム部門(『GUTS』)、最優秀楽曲と最優秀レコード(“vampire”)といった主要3部門をはじめ、ポップ部門、ロック部門(“ballad of a homeschooled girl”)など全6部門でノミネートを受けている。
確かに保守的な一面もあるグラミー賞だが、同時に言論・表現の自由を守ることにかけては強いこだわりを持っている。先進性や多様性をサポートし、時代や世相を反映するポピュラー・ミュージックに光を当て、評価しようというのが、本来の目的だ。そんなグラミー委員会がいまオリヴィアに着目するのは、一過性の人気やスター性などではなく、もっと長いスパンで見た時に、この時代の顔であり、時代の寵児であり、この世代の女性アーティストとして彼女が多くを代弁しているからに他ならない。デジタル社会やSNSライフの中で感じることや不安や焦燥、希望や喜びを含めて、彼女ほどリアルに素の心情を吐きながら、突飛だったり極端ではなく、あくまでも身近な親友のように感じさせてくれるアーティストはそういない。耳を傾けてみようと多くの人を思わせる。そんな不思議な魅力と存在感を備えている。
ソングライターとしての彼女は、テイラー・スウィフトを聴いて育った世代であり、間違いなくテイラーの手法を継承している。テイラーほどあからさまではないものの、自身のリアルな体験を基にイマジネーションを広げて楽曲を創作。それとなく〈匂わせ〉を散りばめるのもテイラーと同様だ。その典型が世界中でNo.1を記録した2021年のデビュー・シングル“drivers license”や、同じく世界を制したセカンド・アルバム『GUTS』からのリード曲“vampire”だった。ファンやメディアがその背景となった登場人物や出来事を突き止めようと躍起になり、さらなるセンセーションが巻き起こるというのも、SNS時代ならではの現象だろう。