プレイボーイ・カーティが突如リリースした4年3か月ぶりのニューアルバム『MUSIC』。2025年のヒップホップ/ラップミュージック界最大の話題作と言わんばかりの盛り上がりのなか受容された本作は、当然のように全米チャートBillboard 200で初登場1位を獲得。デラックスエディション『MUSIC - SORRY 4 DA WAIT』も配信されたばかり。そんな話題作について、音楽ブロガー/ライターのアボかどにラップスタイルの変化、ミックステープ、サンプリングやリバイバルといった視点から綴ってもらった。 *Mikiki編集部

PLAYBOI CARTI 『MUSIC』 AWGE/Interscope(2025)

 

ラップの変化を反映させた変幻自在で集大成的な新作

サブジャンル〈レイジ〉に発展した名作『Whole Lotta Red』から5年。プレイボーイ・カーティの新作『MUSIC』がついにファンのもとへ届けられた。『Whole Lotta Red』の翌年の2021年には新作リリースを示唆し、その後もライブでの未発表曲の披露やインタビューでのアルバムタイトル変更告知などでたびたびリリースを仄めかし続けてきただけに、まさに待望の新作だ。

前作のリリース後のプレイボーイ・カーティは、数曲のシングルリリースと客演でその声を聴かせてくれていた。しかし、それまでは極端な高音とアドリブの多用で知られていたプレイボーイ・カーティだが、2022年頃からそのラップスタイルには大きな変化が見られた。カニエ・ウェストの2022年作『Donda 2』に収録された“Mr. Miyagi”を皮切りに、トラヴィス・スコットの2023年作『UTOPIA』収録の“FE!N”など〈ディープボイス〉と呼ばれる低く深い発声を披露。2024年のカミラ・カベロ“I LUV IT”などではトレードマークだったアドリブの使用も控え、それまでとは異なる側面を覗かせていた。しかし、2023年のザ・ウェークエンドとマドンナとのシングル“Popular”などでは相変わらずの高音ラップも聴かせており、従来のスタイルも捨て切ったわけではない。一体何が出てくるかわからない、変幻自在の個性を獲得していたのである。

『MUSIC』は、そんなプレイボーイ・カーティが開拓した多彩なスタイルが次々と現れる、これまでの試みの集大成のような作品だ。オープニングの“POP OUT”での強烈なビートは『Whole Lotta Red』の続きとして完璧だし、ザ・ウィークエンドとの“RATHER LIE”では2018年作『Die Lit』に入っていそうな煌めくビートと高音のメロディアスなラップが楽しめる。しかし、本作の面白さはそれだけに留まらない。本稿では参加アーティストやサンプリングネタなど、複数の角度からそのディープな魅力を紐解いていく。