ここはどこにでもあってどこにもない架空の街。ジャンプスーツを纏った2人の戦士が、溝だらけの混沌とした この地に降り立った。不安にさいなまれ、重く沈んだ音を鳴らす男たち。彼らを待ち受ける未来は……

危険信号になるかもしれない

 2015年の前作『Blurryface』を全米チャート1位に送り込み、初のグラミー賞を獲得したオハイオの2人組、トゥエンティ・ワン・パイロッツ。記録的な成功を収めた彼らのワールド・ツアーは2017年半ばまで続き、その後2人はしばしの休暇期間に入った。だが、休暇中もソングライティングを担当するタイラー・ジョセフ(ヴォーカル/ピアノ)は自宅スタジオで新曲を作り続け、来るべき次のアルバムの準備を進めていたという。

 「地下室にこもって曲を書き、外界を遮断することにエネルギーを使っていたよ。外部からの影響を受けたくなかったったんだ。これまで通りサウンドも歌詞も俺の内面に関することを曲にしたいと考えたからね」(タイラー)。

TWENTY ONE PILOTS Trench Fueled By Ramen/ワーナー(2018)

 今回タイラーは、2016年にトゥエンティ・ワン・パイロッツと配信限定のコラボEP『TOP×MM』を発表したミュートマスのフロントマン、ポール・ミーニーの助けも借りながらセルフ・プロデュースに挑戦。そして誕生したニュー・アルバム『Trench』は、前作以上にユニークで斬新で、現行ロック・シーンの一歩先を行く一枚に仕上がっている。

 「新鮮でありつつ、これまでと違うバンドになってしまったと思われないようなスタイルのアルバムにしようって2人で話し合った。この2つのバランスが上手く保たれた出来になっていると思うよ。過去の作品とは違うサウンドだけど、トゥエンティ・ワン・パイロッツの音であることには違いないし、過去の要素も入っている。それに、何と言っても楽しい作品だよ。昨晩のショウでも新曲をプレイしたけど、演奏していて凄く楽しかった」(ジョシュ・ダン、ドラムス)。

 そんな今作の新サウンドを象徴する曲になっている、先行シングルにも選ばれた不穏なトーンのオープニング・トラック“Jumpsuit”は、前作のツアーのリハーサル中、ジョシュのドラムスに合わせてタイラーが遊びでベースを演奏していた時のアイデアから発展したとか。

 「ツアーが終わって、iPhoneのヴォイスメモに残しておいたそれらのアイデアをもとに曲を書きはじめたんだ。〈これまでにない作品になるぞ!〉ってすぐに気付いたよ。大方のバンドやアーティストにとってこのアルバムは危険信号になるかもしれないけど、俺たちはまったく新しいサウンドであることに興奮したんだ」(タイラー)。

 ポップ・パンク/エモを出発点に、ヒップホップやEDM、レゲエなどなどをスタイリッシュな方法で融合したトゥエンティ・ワン・パイロッツの音作りは、ここへきてディスコ・ファンクの要素もうっすら纏い、さらに進化。美しいファルセットからロッキンなシャウトまでを、随所でラップを交えながら自在に操るタイラーのヴォーカル・パフォーマンスや、胸にグサッと刺さるライムにも成長が見られ、お世辞抜きで最高傑作と呼べる仕上がりだ。

 

戦いに打ち勝つんだ

 もっとも、注目ポイントはサウンドの真新しさだけじゃない。前作は〈ブラーリーフェイス〉なるキャラクターに自己を投影し、そこからストーリーを構築していたが、『Trench』では完全に別の物語が展開されている。その内容はアートワークやMVからも窺えるはずだ。

 「このアルバムの物語は〈Dema〉という都市のなかで繰り広げられている。そこは俺が創造した場所で、野性的で自然のままで、2つの場所の狭間に存在しているんだ。曲を書いている時、俺はそういう場所にいた。2つの場所の間にいるという感覚は、みんなにも共感してもらえるんじゃないかな?」(タイラー)。

 その〈Dema〉にははっきりとした境界線があり、司法権があって、「特権階級が力を振るっているんだ」とタイラーは説明する。そして、その力が弱まりはじめた時に、彼はその場所から離れたくなるのだとか。本編のラストを飾る“Leave The City”では、〈いつか、俺はこの街を離れる〉と歌っている。

 「最後の曲では自分がどこへ向かっているのか、わざと明確にしなかった。問題への答えを出してしまうことになるからね。まだその答えは出ていないんだ」(タイラー)。

 架空の世界を舞台にしながらも、物語のなかで語られる生々しい感情と思想はタイラー自身のものであり、非常にパーソナルだ。

 「“Jumpsuit”は、新作をレコーディングするうえでのプレッシャーについて書いた曲。驚いたことに俺は成功から自信を得たけど、それと同じスピードと強度で自己不信も増加していったんだ。だから、いくら成功しても、いくら影響力を持っても、俺の現状に変わりはないということを歌っているんだよ」(タイラー)。

 また、タイラーが特に思い入れのある曲として挙げた“Legend”は、今年他界した彼の祖父についてのナンバーで、「簡単に書けたんだけど、凄くエモーショナルだった」と話してくれた。このようにブレイク後も変わらず自分自身の弱さや不安を曝け出し、それでも前進し続けることを表明した『Trench』は、トゥエンティ・ワン・パイロッツの熱心なファンはもちろん、そうでない人たちにも希望と力を与えることだろう。

 「これを聴いて、自分がひとりぼっちではないことに気付いてほしい。自分が孤独じゃないと知るのは凄くパワフルなことなんだ。人が抱えている多くの問題は、自分がひとりきりで、何が起こっているのか誰も理解していないと思い込んでいるところから生まれるしね。それと、個々が抱えている問題に勇気を持って立ち向かってほしい。自分の周りで何が起こっているのかを本質的に理解できる人は、自分以外にいないからさ。他人を通して確かめようとせずに、自分でその戦いに打ち勝つんだ」(タイラー)。

〈Bandito Tour〉と銘打たれ、10月半ばからスタートした北米ツアーは、すべてのアリーナ会場がソールドアウト。何やら『Trench』の物語を反映させたヴィジュアルのショウになっている模様で、ぜひそのセットのまま来日公演も実現させてほしいものだ。

 「日本のファンのみんな、元気かい? みんなのことは大好きだし、早く会いたいと思っているよ」(ジョシュ)。

 「日本でのコンサートは毎回とても楽しいんだ。アルバムがもっとも命を宿す場所はコンサートだから、『Trench』が生きた形で表現されるライヴを多くの人に観てもらいたいな」(タイラー)。

トゥエンティ・ワン・パイロッツの作品。

 

ミュートマスの2017年作『Play Dead』(Wojtek)