2018年11月5日 東京国際フォーラム ホールA

華麗なオーケストラと待ち焦がれたファンの歓声が新しいスタートに華を添える

 11月5日、東京国際フォーラムホールAで〈ASKA PREMIUM SYMPONIC CONCERT 2018 -THE PRIDE-〉ツアーがスタートした。ASKAにとってもASKAのファンにとっても、5年8か月ぶりのコンサート。どんな思いでステージに立ったのだろう。

 「ステージに上がり、マイクを前にしたときから、思いのほか冷静になれました。今夜もいつもどおりにやれるな。そう思えた。ただし、本番の直前まで、入念に準備しましたよ。前日まで毎日リハーサルをして、当日も1度全曲通しで歌ってから本番に臨んでいます。喉はかなり酷使しました。でも、ふり返れば、かつてもリハをやり過ぎていた。リハで歌い過ぎちゃうこともいつもどおりでしたね」

 コンサートは2部構成。演奏は藤原いくろう指揮の東京フィルハーモニー交響楽団。インストゥルメンタルに導かれてASKAが登場。1曲目は“熱風”だ。

 「オープニングから客席が温かく迎えてくれていることがわかりました。この空気を大切に、温度をさらに上らせていけばいいと思いました。ほとんどのミュージシャンが両耳にするイヤモニ(歓声の中でも演奏がはっきりと聴こえるように耳に入れるイヤーモニター)を僕は左だけに入れています。左で歌のピッチや楽器の演奏を確かめて、右で自分の生声や歓声もはっきり聴く。すると、会場の空気をリアルに感じられます。オーディエンスと空気を共有できて、客席と自分の一体感を味わいながら歌えるんですよ。コンサート会場って、温度によって音が変わります。暖かければそれだけ、音はゆっくり伝わっていく。あの夜の会場は暖かくて、声がゆるやかに響いていきました」

 久しぶりのステージだからこそ、ASKAは代表曲をずらりと並べた。

 「オーディエンスが喜んでくれることを最優先に考えて、4、5か月前に曲を決めました。今回はバンドのコンサートではなく、オーケストラ。藤原さんが全パートの譜面を書かなくてはいけないので早い時期に準備しています。そして、2017年にリリースした『Too many people』から2曲加えました。自分自身の温度を上げるために歌い慣れていない曲をあえて入れた。実はコンサートの前に1曲だけ変更しました。“男と女”を“迷宮のReplicant”にさしかえています。あくまでもステージの流れを考えてのことですけれど」

 “はじまりはいつも雨”“YAH YAH YAH”“SAY YES”……。どの曲もイントロが鳴る度に会場全体で歓声がわく。“はじまりはいつも雨”では、涙ぐむファンも。“YAH YAH YAH”では、2階席まで5000人のオーディエンスが立ち上がり、こぶしを振り上げて歌っていた。

 「“YAH YAH YAH”“SAY YES”“はじまりはいつも雨”は僕の名刺といえる曲です。長い間楽曲を作っていると、自分でもよくできたと思える作品はあります。こういうインタヴューではね、売れた曲もそうでない曲も、自分の作品は全部子どものようにかわいい、というべきなのかもしれません。でも、本心からそう言うのはやっぱり難しいですよ。実際に“YAH YAH YAH”“SAY YES”は、作詞作曲した時点で、売れると感じました。ヒットしないはずない、とね。それ以前の体験で、多くの人に喜んでもらえると感じた要素を投じて作ったので。その一方で“はじまりはいつも雨”は、完成した時点では、売れるか売れないか、半信半疑でした。その前の曲、そしてさらに前の曲も気に入っていて、でも大ヒットにはいたらなかった。どうしてなんだろう――と、考えていた時期でしたから。次こそはと期待がふくらんでいたタイミングでヒットしたのが《はじまりはいつも雨》でした。この曲で時代と僕の呼吸が合ったのかもしませんね。リリースと同時に売れて、プレスが間に合わない状況になりました。毎週木曜日にCDショップに入荷されるとすぐに売り切れて、翌週の木曜日もまた売り切れて、常に市場在庫がない状況でね。プレスが間に合わないこともあって、ウィークリーチャートのランキングは2位まででした。ただし、僕の作品の中ではもっとも多くカヴァーしてもらった曲でもあり、すごく長くリスナーに愛していただいています」

 この曲は、EXILEのATSUSHI、東山紀之、Kinki Kidsの堂本剛、佐藤竹善など、たくさんのアーティストにカヴァーされている。

 「時代を経ても聴き継がれていく曲、歌い継がれていく曲とはどんな作品なのか――。それは作り手の僕にもよくわかりませんね。たとえば“YAH YAH YAH”も、できたときにヒットを確信したとはいえ、こんなに長くファンの皆さんに愛されるとまでは思いませんでした。セールスでは“SAY YES”のほうがはるかに上なのに、コンサートでのリアクションは“YAH YAH YAH”のほうが大きいですから」