2025年3月11日に発売から30周年を迎えた名作RPG「クロノ・トリガー」。その記念企画として、関連楽曲のライヴ・ストリーミング配信が行われ、続いてSNSでの投票による〈時を超える名曲ベスト10〉が発表された時点から、この日のステージを予想していたファンも多くいたのではないだろうか。
アニヴァーサリー・イヤーも終盤に差し掛かった2026年1月18日、東京国際フォーラム・ホールAにて「クロノ・トリガー」のオーケストラ・コンサート〈CHRONO TRIGGER Orchestra Concert 時を超える旋律〉が開催された。当時らしいシンセサイザーの音色に彩られながらも、非常にシンフォニックなスコア群。数々の時代と国境を超える物語を支えたあの無国籍音楽を生のオーケストレーションのもとで聴くという体験が、この日、ついに叶えられたわけである。
開演前。ちょうど通路に面していた自席から目の前を通り過ぎる人々をぼんやりと眺めていて気づいたのだが……いい意味で客層に統一感がない。年齢、性別という意味でもそうだが、外国人の来場者もたくさん見かけたことからは、「クロノ・トリガー」のワールドワイドな人気ぶりを改めて思い知らされる。


指揮台を囲むように配置されたフル・オーケストラの背後には、「クロノ・トリガー」のロゴが映し出された大きなスクリーンがひとつ。演奏を担当した東京フィルハーモニー交響楽団が定刻通りにステージ上へ現れ、指揮を務めるニコラス・バックが定位置に付くと、スクリーンの映像が「クロノ・トリガー」のオープニング──時計の振り子が揺れる様に切り替わる。カチ、カチ……という音に重なるようにフェイドインしたのは“予感”と“クロノ・トリガー”。そして、“朝の日ざし”から“やすらぎの日々”へ……これはプレイヤーがゲーム内で辿る物語(のスコア)と同じ流れだが、映像もまた、タイトルロールから主人公の目覚めの場面へと実際のゲームの場面が演奏とシンクロするように紡がれていく。

オープニングの4曲の演奏が終わったところで、自身も「クロノ・トリガー」のプレイヤーだという司会の声優・川庄美雪が登場。「音楽で皆さまと時の旅をご一緒させていただきます」と最初の挨拶で語っていたが、その言葉通り、今回のコンサートはオーケストラの生演奏と共に「クロノ・トリガー」のゲーム世界を追体験するという内容だ。セットリストも物語の展開に沿った曲順で組まれていて、効果音も生楽器で見事に再現。曲間にインタールードの如く挿入されるトークパートではプチ解説と実演も行われ、 “朝の日ざし”の鳥の声はクラリネットで、名場面と名高い“魔王決戦”の導入となる風の音はウィンドマシーンで表現されたもの……といった説明がなされると、客席からは「おお〜」という感嘆の声が上がっていた。


仲間との出会い、それぞれの苦悩、世界の崩壊を止めるための旅の道程と戦い──ゲームのストーリーに沿って進行するセットリストと贅沢なオーケストラ・サウンド、そして巨大なスクリーン上に広がる8ビットのゲーム世界に自然と没入していると、あっという間に2時間半が経過。その感情移入ぶりに自分でも驚いたのだが、戦いが終わったあと、未来から来た(そして、崩壊した未来に平和が訪れてしまったために自身の存在が保てるのか不明となってしまった)とある仲間との別れのシーンでは、上半身が震えるほどに涙を堪える事態となってしまった。

場内のあちこちから聞こえてきたすすり泣きの声によってその努力が無に帰したところから一転、本編は“遥かなる時の彼方へ”で華々しく、そしてどこか切ない余韻を残してフィナーレ。その後、アンコールでは“クロノ・トリガー メドレー”を披露することでふたたび物語を振り返り、今回の記念公演は幕を下ろした。なお、スクリーンへ最後に映し出された映像は、物語の始まりで眠っている主人公を母親が起こす「クロノったら!」というセリフ。繰り返しプレイしたくなるマルチエンディング作品の先駆けらしい、何とも粋な演出ではないか。
〈オーケストラ・コンサートという表現を通じて提供された、新たなゲーム体験〉とでも言えそうな、この日のステージ。それほどの感動と満足感を胸に、何度目かの時を超える旅へ出ることを決意して帰路についた筆者であった。