王舟 『don't hurt pride / Muzhhik』 約3年ぶりシングルは彼流の柔和な名曲でありつつ、もはや前人未踏の域へ

王舟 『don't hurt pride / Muzhhik』 felicity (2018)
2018.12.12

間にBIOMANと制作した優美なインスト・アルバム『Villa Tereze』の発表や、HALFBYのアルバム『LAST ALOHA』へのヴォーカル参加など、存在感が薄まることはなかったものの、気が付けば約3年ぶり。2016年のセカンド・アルバム『PICTURE』以来となった、本人名義での新曲パッケージがついに到着だ。両A面の7インチ・シングルとなった本作。〈3年間を経た王舟の進化やいかに……〉と気合十分で針を落としたが、オモテ面(?)の“don't hurt pride”のラウンジーなワルツ・ドラムが鳴った瞬間、一気に肩の力は抜け、彼ならではの柔和なサウンドに身も心もほだされてしまった。

優しいスウィング感を堪えたリズムに、平熱と微熱を行き来しているようなメロディー・センス。そして、ときにエクスペリメンタルと形容されるユニークなサウンド……王舟がキャリアを通して磨き上げていったポップソング・メイキングの才。“don't hurt pride”は、その最新回答とも言える名曲だろう。オルゴール調の音色が流れるなか、〈あと、どれくらい?〉と言葉を交わす恋人たちの姿と、コーラス部分の〈Baby you will find me〉というリフレインに、赤子の誕生を待ちわびるカップルのイメージを思い浮かべたのは、筆者が父親だからであろうか。

そして、CD-R盤『賛成』(2010年)や“ディスコブラジル(Alone)”などフォークトロニカ路線の王舟を愛聴してきたリスナーには、ウラ面の“Muzhhik”に魅了されるに違いない。〈拍〉を掴めないほどに奔放なビートプログラミングと、鼓膜を綿棒でくすぐってくるようなサウンドは、快楽性と人懐っこさが共存。昨今のアンビエント/ニューエイジ再評価ともムードをシェアしつつ、ダンスフロアにもスーパーナチュラルにも近寄らないのが、この人らしいと言えよう。ちなみに、本作は両曲とも王舟のみで制作したという。あくまで飄々とした足取りで、前人未踏のポップを歩み続ける音楽家。きたるべきサード・アルバムがどんな作品になるのか、むしろ予想がまったくつかなくなった。

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