金沢を拠点に活動している8人組noidが新作『HUBBLE』をリリースした。約4年ぶりのアルバムとなった同作では、変拍子を用いたリズム・アプローチ、かすれ声に感情の機微を落とし込むフロントマン、エイジの朴訥としたメロディーといった持ち前のエモ~ポスト・ハードコア的なサウンドを磨き上げつつ、管楽器の大幅な導入により色鮮やかな拡がりを獲得。雄大かつ開放的にポップソングを打ち鳴らしている。2016年に加入した富山在住のシンガー・ソングライター、ゆーきゃんを筆頭に、ライヴやレコーディングにおけるメンバーの流動性も、作品を貫く風通しの良さに貢献しているのだろう。チェンバー・ポップを採り入れたサウンドもしかりだが、そうしたあり方も、ブロークン・ソーシャル・シーンを中心にしたカナダ/トロントのインディー・コミュニティーを想起させる。
そして事実、noidは金沢のインディー・カルチャーにおいて中核を担う存在でもある。10年以上に及ぶキャリアで拡げていった全国的な知名度の点ではもちろん、みずから主催しているイヴェント〈Magical Colors Night〉(以下、MCN)では、ROTH BART BARON、王舟、ザ・なつやすみバンドら東京シーンの第一線のみならず、アメリカからオブ・モントリオールに+/-、カナダからトップスといった海外のバンドまでも招致。さらに関西や九州勢も加えた遠方からのアクトに、北陸を支えている地元勢を揃えた同イヴェントには、近郊のリスナー以外にもさまざまな地方からオーディエンスが訪れるという。恥ずかしながら筆者はこれまで足を運べていないのだが、各所からの評判を見聞きするかぎり、とても朗らかで開けた雰囲気の一夜となっているそうだ。ローカルで暮らす人々の集まれる場所を作りつつ、さらには他のローカルを繋げていく〈MCN〉の姿には、コミュニティーの理想像を幻視してしまう。
今回、Mikikiでは『HUBBLE』のリリース・パーティー東京編として、10月21日(土)に新代田FEVERで、ROTH BART BATONに王舟、UQiYOを迎えて開催する〈Magical Colors Night in Tokyo〉を目前に控えたnoidにインタヴュー。なぜ、彼らはかくも魅力的な磁場を作り上げることができたのか。エイジとゆーきゃんに尋ねた。
モーニング・ベンダーズやブロークン・ソーシャル・シーンに影響を受けた
――そもそもnoidの音楽的なルーツと言えば、どのあたりなんですか?
エイジ「実はもう結成して12年とかで」
――バイオグラフィーにも2004年に結成と書かれていますね。
エイジ「結成当初から〈&レコーズ〉の作品は愛聴していて、〈&〉がリリースしていた+/-や、それ以外でもオブ・モントリオールあたりは、ずっとリスペクトしながら活動してきましたね。なので、自分たちのイヴェント〈Magical Colors Night〉に彼らが出てくれた※のは、10年越しの想いを叶えられたし、本当に夢のようでした」
※オブ・オントリオールは2015年の6月に、+/-は2017年の2月に〈MCN〉に出演した
――noidが結成された2004年頃は、海外のシーンだとアーケード・ファイアが出てきたり、スフィアン・スティーヴンスが『Illinois』を出したり、菅弦楽器を採り入れたインディー・バンドが注目を集めだした頃でした。noidもそうした要素を持っていると思うんですけど、実際に参照点にもなっているのでしょうか?
エイジ「そうですね。その頃だと、Myspace全盛期だったじゃないですか? 自分は(音楽を)掘っていくのが好きなんで、Myspaceで好きなアーティストと繋がっているバンドやレーベルを探して聴いてました。スフィアンもそうですけど、モーニング・ベンダーズやアクロン・ファミリーとか、そのあたりのバンドが背景になっているように思います」
――特に新作『HUBBLE』での管弦楽器の使い方には、ブロークン・ソーシャル・シーン周辺のバンドとも近しさを感じました。
エイジ「ありますね。当時からアーツ&クラフツ※もすごく好きだったし、ブロークンもすごく追っかけていたんで。影響を受けていると思います」
※ブロークン・ソーシャル・シーンのケヴィン・ドリューが設立したインディー・レーベル。スターズやファイストといった周辺のミュージシャンを中心にリリースしてきた
〈Magical Colors Night〉は何よりもお客さんがマジカル
――これまでnoidが〈MCN〉に呼んできたバンドとは、音楽性の面でも繋がっているように感じました。王舟やLlama、ザ・なつやすみバンド……彼らとnoidのサウンドに共通点はあると思いますし、それこそROTH BART BARONは実際にトロントでレコーディングを行っていて。エイジさんが〈MCN〉にオファーするうえで気にされている点は?
エイジ「〈MCN〉には自分が〈いい〉と思ったアーティストを呼んでいます。かつ、メンバーにも刺激を受けてほしいし、わかりやすく言うと社員研修みたいな(笑)。でも、僕自身もライヴを観たこがとない人、音源だけで〈いいな〉と判断した人を呼んでいるんで、結局は自分もライヴを観て刺激を受けています。実際会って話してみて、良い意味で印象が変わった人もいるし、本当に素晴らしい出会いができていますね」
――そして、ゆーきゃんにいたっては、〈MCN〉出演を経てメンバーにまでなってしまったわけで。親睦を深めていったのは、ゆーきゃんが、それまで活動拠点だった京都から地元・富山に戻って以降ですか?
ゆーきゃん「そうですね」
エイジ「前作を出したのがちょうど4年前で、同じくらいにゆーきゃんが帰ってきたのかな。2か月後くらいに一緒にライヴをする機会があって、それから仲良くなっていきました。そして、オブ・モントリオールの金沢公演が決まって、ゆーきゃんと僕で話し合ってブッキングを決めていく、みたいな」
――じゃあ、ゆーきゃんはいつの間にか〈MCN〉の運営を手伝うようになっていった?
ゆーきゃん「そうだと思います。〈おもしろそうだな。ああ、おもしろいな〉って感じ」
――ゆーきゃんが感じたおもしろさとは?
ゆーきゃん「なんだろうな……〈おもしろいことをしている人たちが、地方にもこんなにたくさんいるんだな〉と思ったんです。まさか一地方都市に海外のバンドが来るとは思ってなかったし、〈え、トップス来るの!?〉みたいな。そんな感じで集まってくる人たちがいて、あとは〈ROTH BART BARONが来るんだ〉みたいに、いまの東京のシーンにチューニングを合わせてる人たちが駆けつけてくる――ちっちゃな街なのに、ひとつのシーンやコミュニティーだけで盛り上がっているんではなくて、いろんなルーツというか背景を持ったお客さんがいっぱい集まってる感じが良かった。〈何がマジカルかって、お客さんがマジカルだなあ、カラフルだなぁ〉と思ったんですよ」
――ローカルのなかに、さまざまなバックグラウンドの人たちが集まっているカラフルさはもちろん、出演するバンドも北陸のバンドがいつつ、国内外のバンドをさまざまな地域から招致していて、ローカル同士を繋げていくところが魅力的だと思いました。
エイジ「そうですね。セカンドを出して以降は県外のライヴも増えてきて、そこで対バンして仲良くなったバンド、知り合ったバンドに金沢でも演奏してほしいとか、何かきっかけで繋がったバンドを金沢のお客さんにも観てほしいというのがあって。だいたいのバンドはツアーをしても金沢には止まらないんですよ。金沢は飛ばされることが多いんで(笑)」
――ハハハ(笑)。ゆーきゃんは全国各地に弾き語りで行かれていて、いろいろな地方を見てきたと思うんですが、そのなかで金沢ないし〈MCN〉の独自性は何だとお考えですか?
ゆーきゃん「んー、なんかアメリカの、いや(国内でも)ハードコアやパンクのシーンはローカル同士で繋がっていくっていうことが、わりかし昔から行われてきたと思うんだけど、それともちょっと違うんですよね。地方に行くと、何かをやろうとしている人にはなんとなくの悔しさや苛立ちみたいなものがあって、それが動機になっているのもよく感じるんやけど、noidの〈MCN〉はそういう忸怩たる思いよりも、〈とりあえずやってみよう〉みたいなパカっと開けた感じがしました。待っている感じとかが少なくて。
なかでも、いちばん良いなと思ったのは、東京ばかりを見ていない感じ。最初にゆーきゃんで呼んでもらったときにも、福岡のHearsaysや大阪のnayutaが出ていたし、流行り廃りとかではなくて単純にエイジくんたちが〈いい〉と思った人たちに声をかけていて、お客さんもそれを当たり前のように受け入れるというか、みんな驚きに来るみたいな。〈知らないバンドが観られるから来る〉みたいなお客さんが結構いたりして、名前で人が集まるというよりも、ただおもしろいことを探しに来たっていう感じがあるんですよ」
ゆーきゃんの歌詞はそれ自体が音であり楽器
――では、ゆーきゃんがメンバーに加入した経緯は?
ゆーきゃん「確か〈MCN〉の後に〈冗談ではなく、ほんとうにnoidに加入したい〉ってツイートしたら……」
冗談ではなく、ほんとうにnoidに加入したい
— あかるい部屋 / ゆーきゃん (@aka_rui_heya) 2015年12月13日
エイジ「それを見て、僕わりと真剣に考えちゃって(笑)。メンバーに相談して、ゆーきゃんに電話しましたね。それで、一緒にスタジオに」
――ゆーきゃんはnoidの特にどんなところに魅力を感じたんですか?
ゆーきゃん「んー…自由だったんですね。メンバーもライヴによって変わっていて、フカちゃん(深尾寛史/トランペット)がいたりいなかったり、ギターもメンバーのオギー(荻原竜彦)だったり、彼じゃなかったり」
エイジ「ハハハ(笑)」
ゆーきゃん「ten toteとして活動していて、加藤りまさんと一緒にやったりもしている小豆沢さんがギターで入ることもあって。彼はもともとCoralie というユニットでSecond RoyalやRallyeからリリースしていた人なんですよ。そういうふうに観るたびに編成が違うし、バンドのセットリストも変わっている。それが、すごく風通しがいい感じがして」
――音楽的な印象としてはどうでした?
ゆーきゃん「えーとね、最初に観たときは、デルガドスみたいだなと思いました。北国感みたいなのが出ていて。そのあと、エイジくんに〈ブロークン・ソーシャル・シーンみたいなことをやったらおもしろいんじゃない?〉って話もしたかな」
――なるほど。じゃあ、ゆーきゃんが加入したことでサウンド面での変化もありました?
ゆーきゃん「でも僕、音楽的には何もしてないですよ」
一同「ハハハ(笑)!」
エイジ「いやいや。今回は“ひばり”や“Hello Stranger”など数曲での参加でしたけど、ホントはゆーきゃんにがっつりコーラスしてほしかったんですよ。ただ、なかなかスケジュールが合わなくて。彼の歌声とnoidの楽曲はすごくマッチしてると思うし、なにより彼の詞は〈歌詞自体が音であり楽器になっている〉と思いますね。それくらい馴染むというか違和感がないんです」
――『HUBBLE』でも6曲がゆーきゃんによる歌詞ですね。おふたりが初めてスタジオに入ったときに、ゆーきゃんは10分くらいで歌詞を書きあげたそうで。
エイジ「自分が住んでいる小松と金沢の間くらいにドラムスのさんちゃん(三軒龍昌)が所有してるスタジオがあって、ゆーきゃんを呼んで〈こういう曲はあるんだけど詞が書けなくて〉とデモを流した途端、彼がホワイトボードに詞を書きだしたんです。それで“春”と“ひばり”が、20~30分くらいで完成して、〈これはおもしろいな〉と感動しました」
ゆーきゃん「僕のところに歌詞の依頼がくるときは、エイジくんの弾き語りではなくて、すでにバンドでベーシックを録った段階のデモなんです。それを聴いて浮かんできた景色とか、デモに入っている鼻歌の譜割りで歌詞が決まることもある。パティ・スミスが〈意味よりも優先されるものがある〉――つまり意味より音のほうが歌においては先なんだと言っていたんですけど、その視点を大事にしてるかな。デモを繰り返し聴いて、それに合わせて自動筆記みたいな形で詞を書いていく。だから推敲を立ち止まってするというよりも、何回も何回も上塗りしていくというか、そんなふうに出来上がった感じですね」
エイジ「だから、ゆーきゃんの歌詞はメロディーに当てはめて歌うのに時間がかからないんです。すごく作業しやすい」