INTERVIEW

Kaede『今の私は変わり続けてあの頃の私でいられてる。』 素朴な歌心で満たされた初のフル・アルバムを語る

Kaede『今の私は変わり続けてあの頃の私でいられてる。』 素朴な歌心で満たされた初のフル・アルバムを語る

2020年の幕開けに待望のファースト・フル・アルバムが到着! 三者三様に歩むNegiccoでの姿とまた違う歌心は、飾らない素朴な美しさに溢れていて……

より自分らしくやれる

 2018年には結成15周年を迎え、2019年にはNao☆の結婚発表などハッピーなトピックが続いているNegicco。そんななかで、ソロ・シンガーとしてグッとギアを上げてきたのが、グループの末っ娘〈かえぽ〉ことKaedeだ。そもそもは2014年から始まった〈生誕祭〉がソロとしてのステージの始まりで、翌2015年の生誕祭からは澤部渡(スカート)らをバック・バンドに従えたソロ・ステージを毎年披露してきた。2019年に入ると満を持して本格的なソロ活動のスタートを宣言し、CD-Rシングル“クラウドナイン”を限定リリースした4月には東京キネマ倶楽部で公演。6月~7月にかけては東京、新潟、金沢、大阪、愛知でのアコースティック・ツアーも経験する一方、早々にミニ・アルバム『深夜。あなたは今日を振り返り、また新しい朝だね。』も届けた。まずはここまでの手応えから彼女に訊いてみよう。

Kaede 今の私は変わり続けてあの頃の私でいられてる。 T-Palette(2020)

 「生誕祭でのソロは、お祝いだからみんなが温かく見守ってくれているっていうものではあったと思うんですけど、ちゃんと始めるとなるとそれに甘えるだけではいけないというか、もっとちゃんとやらなきゃっていう気持ちが沸いてきますね。本格的にソロをやります!って言ったわりには〈大丈夫か?〉って思われるのはすごく嫌だなって思うし。最近は、(サブスクの)プレイリストで知って、〈KaedeってNegiccoの人だったんだ!〉って言う人もいたりするので、Negiccoのファン以外のところにも届きはじめてるんだなって実感が少しずつ……」。

 根本的な話だが、Negiccoで歌う時とソロで歌う時とで、彼女自身の心持ちはどう違っているんだろうか?

 「Negiccoでやってると、踊りながら歌ったりとか、そういう大変さみたいなものがあるんですけど、ソロだと歌に集中してやれるし、しかも私に向けて作家の皆さんが曲を書いてくださってるので、Negiccoの曲よりも自分に合ったキーで歌えて、より自分らしくやれる。〈NegiccoのKaede〉にはまた違った面があったりするんですけど、普段はアイドル的なむちゃくちゃ明るいっていう性格でもないので、どちらかと言うとソロのほうが素に近いのかなって思いますね」。

 ソロのほうが素に近い――当たり前と言えば当たり前のことなのかも知れないけれど、その〈素〉がとても魅力的であろうことは、〈NegiccoのKaede〉からも窺えるところではあった。例えば、“ネガティヴ・ガールズ!”(2013年作『Melody Palette』収録)のセリフ・パートでの〈でも元気出してこう! ポッポ焼き食べてさ!〉に癒されたような数年来のファンの皆さんならばそれも十分おわかりかと。それもさること、彼女が主に低音パートを務める三声のハーモニーに一聴してNegiccoとわかる響きを与えていたのは、メンバーの中でもひときわ個性的なKaedeの歌声だったと言ってもいい。それだけに、その持ち味を活かしたソロ楽曲にも並ならぬ愛おしさを感じていたファンは少なくなかったはず。

 「めちゃくちゃ歌唱力があるとか声量がものすごいとかってう歌い手ではないのは自分でもわかっているんですけど、そこじゃないところがイイんだよって言ってもらえることも多くて。ワーッとテンションが上がって元気が湧いてくるみたいな曲を求めてる人には響かないと思うんですけど(笑)、そうじゃなくて、心を和らげるというか、やさしく包んでくれるような歌声がイイよねって言ってもらえることが多いですね」。

 

ないものを絞り出さない

 といったところで、2020年新春の幕開けと共に届けられるのが、ファースト・フル・アルバムとなる『今の私は変わり続けてあの頃の私でいられてる。』。それぞれ2017年、2018年の生誕祭の記念にリリースされた澤部作の“あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)”、和田唱(TRICERATOPS)作の“ただいまの魔法”のほか、2019年のシングルで堂島孝平作の“Remember You”、さらに伊藤ゴロー、堀込泰行らが書き下ろした新曲によって構成された全10曲は、生誕祭をきっかけにソロとしての歩みを進めてきた彼女の、ここまでのドキュメントという趣にもなっている。

 「いま聴いてみると、こんな歌い方してたんだなって発見があったり、自分なりに歌いやすい感じで歌うようになってきているので、〈これ、どういう感じで歌ってたんだろう?〉みたいなものもありますね。“あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)”とか声が違ったりもしますから」。

 アルバムの冒頭を飾るのは、TRICERATOPSのカヴァー“2020”。2002年にオリジナルが発表されているこの曲は、2014年の生誕祭以降たびたびKaedeが披露していた楽曲で、2015年に開催したNegicco主催の〈NEGI FES〉で共演した際も、事前リハーサルで彼女のリクエスト曲として“2020”を歌ってもらったという微笑ましいエピソードもある。

 「唱さんには、“ただいまの魔法”を作っていただいたときも〈全部オレが演奏したんだよ、自分的にはまだ拙いんだけど〉って嬉しくなることを言ってくださって、その温かさが曲にも表れていてすごくいいなあって思いました。“2020”はずっと好きな曲だったんですけど、2020年に初めてのフル・アルバムを出して、そこで歌っているっていうのも不思議ですね」。

 新曲群のほとんどは、今回初めての手合わせとなる作家陣ばかり。ピアノとアコースティック・ギターがやさしく響くスロウ・ナンバー“花束”を託した堀込泰行、プライヴェートや仕事でも台湾へ行くことが増えたのをきっかけにしてオファーへと至ったというインディー・ポップ・バンドのEVERFOR、Kaedeが敬愛する原田知世の諸作でも知られる伊藤ゴロー、シンガー・ソングライターの王舟……そこにかねてから親交の深い澤部渡や佐藤優介(カメラ=万年筆)らが加わるという形だ。なかでも、ファンタジーなサウンドスケープを描く伊藤作“永遠の断片”から“花束”へと続く流れはアルバムのハイライトと言いたくなるところで、彼女の歌声の新しい一面も垣間見られる場面だ。

 「ゴローさんには〈ウィスパーっぽく、音になるかならないがギリギリぐらいの意識で歌ってほしい〉と言われて。いままでやったことのない歌い方で難しかったですし、マイクも何種類か試しながらのデリケートなレコーディングだったので、大変でした。泰行さんとのレコーディングは、普段使ってらっしゃるスタジオでのんびり(ニッコリ)。難しい曲もありましたけど、自分の中にまったくないものを絞り出すことはなかったので、どのレコーディングも楽しかったですね」。

 多彩な作家陣によってさまざまな表情を引き出された歌声。アルバムの制作を経て技術的に磨かれたところももちろんあるが、そこから滲み出てくる〈Kaedeらしい温度感〉がなんといっても印象深い。聴くたびに彼女との距離が縮まっていく感覚とでも言おうか、このアルバムを聴きながらゆったりと流れていく時間も含め、すべてが愛おしい。

Kaedeの2019年のソロ作品を紹介。

 

関連盤を紹介。

 

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