オーストラリアの音楽シーンを追い続けてきたリスナーにとって、2019年は長年の愛が報われるご褒美イヤーとなるに違いない。テーム・インパラがついに米〈コーチェラ〉のヘッドライナーとして抜擢され、〈フジロック〉にはシーア、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード、さらに注目の新人シンガー・ソングライター、ステラ・ドネリーらが決定。一方の〈サマーソニック〉には、2月14日の発表でフルームとサイケデリック・ポーン・クランペッツ(以下、PPC)が追加されたばかりだ。キング・ギザードは海外でもヘッドライン級の人気を誇る大所帯バンドだけに待望の初来日と言えるが、このタイミングでPPCを呼んでしまうサマソニの先見の明はハンパじゃない(そもそも、インパラとその兄弟バンド、ポンドの初来日はどちらもサマソニという実績がある)。
インパラ、ポンド、PPCの共通点として、〈サイケデリック・ミュージック〉であること以外にもうひとつ、〈パース出身〉という事実が挙げられるだろう。西オーストラリアの州都としても知られるパースは、大自然と歴史的建築物、そしてアートが共存することから〈世界でいちばん美しい街〉と称されるが、その一方でアメリカ本土や西欧諸国からの距離が非常に遠いこともあり、〈世界でもっとも孤立した都市〉という不名誉なレッテルも貼られている。でも、だからこそアーティスト/コミュニティー同士が強く結び付き、特異なサウンドが次々と生まれる磁場があるのかもしれない。本稿の主人公=メチル・エチルもまた、そんなパースの新たな顔役となるポテンシャルを秘めたサイケ・ポップ・バンドだ。
中毒性抜群の美メロと、ジェンダーレスなヴォーカル
メチル・エチルは、2013年にフロントマンのジェイク・ウェブ(ヴォーカル/ギター)によるベッドルーム・プロジェクトとしてスタートし、2014年には2枚のEP『Guts』『Teeth』を自主リリースした。その後、不定期でライヴ活動をサポートしていた友人のトム・スチュワート(ベース)と、地元のライヴハウス〈The Bird〉でエンジニアも務めるクリス・ライト(ドラムス)が正式メンバーとして加入。2017年にはキーボード奏者のヘイミッシュ・ラーンも加わった4人編成となり、ポンドのUKツアーでサポート・アクトを務めた。〈メチル・エチル〉とは、ジェイクの父親が仕事でファイバーグラスを作るために使っていた科学化合物、メチルエチルケトンペルオキシドに由来するのだとか。
彼らの武器は、何と言ってもホット・チップやメトロノミーにも通じる中毒性抜群の美メロと、きらめくようなギター・リフの上で舞い踊るジェンダーレスなヴォーカルだ。2015年にメルボルンのリモート・コントロールからリリースしたデビュー・アルバム『Oh Inhuman Spectacle』は、〈オーストラリア版マーキュリー・プライズ〉と称されるAMP(オーストラリアン・ミュージック・プライズ)において、テーム・インパラの『Currents』やコートニー・バーネットの『Sometimes I Sit And Think, Sometimes I Just Sit』と並んでノミネートされるなど、いきなりのスマッシュ・ヒットを記録。
その後イギリスの名門4ADに移籍し、2017年にはジェイムズ・フォード(シミアン・モバイル・ディスコ)を共同プロデューサーに迎えてキャッチー&リズミカルに振り切ったセカンド・アルバム『Everything Is Forgotten』を発表すると、ここ日本でもインディー・ロック・ファンを中心に大きな話題となった。そして、つい先週2月15日にリリースされたばかりなのが、通算3作目のニュー・アルバム『Triage』だ。
1月に開催された4ADのショーケース・イベント〈Revue〉と同時期に、奇しくもプライヴェートで来日していたジェイクにインタヴューを敢行。ここからは、彼の発言を引用しながら新作の魅力や、オージー・サイケの震源地となりつつあるパースの音楽シーンに迫っていきたい。