着実にステージをクリアしてきた期待のビートメイカーが、ふたたびマイクを握って新たなチャプターに到達! 等身大の人間味で構築されたVaVaワールドを探索せよ!
自分の中での〈ポップ〉
初めて自身でラップした『low mind boi』からおよそ1年半、VaVaが放った待望のニュー・アルバム『VVORLD』は、表題通りのVaVaのワールドが、前作よりも明らかに進化した形で展開されるユニークな傑作だ。もとよりCreativeDrugStoreのビート職人として名を馳せてきた彼だが、今作は改めて自身の存在を知らしめるべく、あらかじめ3作の配信EPを前置きとして完成されたもの。実際、2018年後半に立て続けに投下されたEPの連作――ラップもトラックもすべてセルフメイドな『Virtual』、全曲で海外勢のトラックを採用してラップに専念した『Idiot』、自作ビートで全曲にゲストを迎えた『Universe』――は、着実に彼の名前と作風を浸透させながら、周到に『VVORLD』への筋道を作ってきたはずだ。ビートメイカー/ラッパーとして急速に進化を遂げているVaVaに話を訊いた。
――昨年はずっと制作してた感じですか。
「後半はずっとそうでした。8月に出した『Virtual』含めて全4ステージあったので(笑)。もともとは去年の1月1日にちょっと時間があって作ってたら良い曲が出来て、それが『Virtual』に入る“Call”なんですけど、そこからSUMMITの増田さんと話して固まったのが〈EPを3つ出してからアルバム〉っていう流れで。前のアルバムも2か月ぐらいで作ったので、制作スピードの速さは増田さんもわかってて、〈まあ、VaVaちゃんならイケるんじゃない?〉みたいな感じもあって。ただ、『Universe』と今回のアルバムに関してはホントに時間がなくてヤバかったです(笑)」
――前作『low mind boi』の制作時は、初のラップ作品という特殊な状況ならではの集中力があったと思うんですけど、制作環境や意識はその頃から変わりましたか。
「作る環境はあんまり変わらないですけど、住んでる場所は変わりました。実家が引っ越して自分の部屋がちょっとだけ広くなったので(笑)。でも、機材も意外と変わってないし、やっぱり変わったのは考え方ですね。いわゆるロウな感じの曲が前は多かったのが、やっぱりアガる曲も好きで作りたくなって。昔のビート・アルバムとかではポップなビートも多く作ってたし、そういう自分の中での〈ポップ〉みたいなものをやってみようって思ったところから始まりました」
――前より作風が柔らかいですよね。
「明らかに柔らかいです(笑)。トゲが取れたなっていう感じもありましたね」
――アレンジの幅は前作のほうが広かったと思うんですけど、今回はEPの段階から全体の焦点がハッキリしてる感じで。
「ああ、なるほどですね。そうかもしれないです。EPを作ってく過程で自分の考えとかアルバムでやりたいことのヴィジョンが見えてきて、〈そこが終着点だったらいいな〉みたいに思いながら作ってました」
――作った曲をコンセプトごとに振り分けたのではなく、リリース順に目の前のステージを1面ずつクリアしてきた感じですか?
「まさにそうです(笑)。なので、完成しても、〈ああ、でもまた来月までに5曲か~〉って、嬉しいけど素直に喜べない、みたいな(笑)。でも、制作期間はずっと楽しかったですね」
――アプローチが毎回違うのも良かったかもですね。
「そうだと思います。今回はビートだけ聴いてて物凄いアガる感じっていうのを意識したし、一曲ずつ全部をシングル級の曲にしようって思ってやってました」
楽しいことがしたい
――そういう意識になったきっかけは?
「もともと前作は、CreativeDrugStoreの仲間と一緒に共同生活をしてたのが自分の溜め込んでたストレスとかで上手くいかなくなって、そこを出て孤独になった時に、〈俺一人だと何にもないな……でも、やってやるぞ!〉っていう野望みたいなものだけで作ったアルバムなんですよね。リリックも物凄い牙を剥いてて。その〈やってやるぞ〉感だけでやった前作と比べたら、EP以降はそのエネルギーをうまく昇華できるようになったところがあります。やっぱアガりたいし、何か楽しいことしたいなっていう気持ちがいきなり芽生えはじめて。かつ、仲間とあんまり良い関係じゃないままだったのが、BIMがアルバムを作りはじめた時に“Bonita”のビートを提供して、そこで自分の中でも消化できた気がしたんです」
――BIMさんの“Bonita”が最初に公開されたのは一昨年の末ぐらい?
「12月でしたね。あれは10分くらいで出来たビートで、自分でも気に入ってたからラップしようかなって思ってたんですけど、BIMちゃんがアルバム制作するという話を聞いて、〈これ凄い気に入ってるんだけどどう思う?〉って聴かせたもので」
――なるほど。でも、そういう時期があったのが良かったのかもしれないですね。
「はい。確執みたいなのがあってからすんごい仲良くなったし、変なプライドで強がって仲間を見ることもなくなって。ちゃんと見れるようになったからこそ、トゲとか野望の使い方が変わったって感じですかね」
――だからこそ、等身大で人懐っこい曲が多いっていうか。“Call”でも〈もうカッコつけないよ〉ってラップしていて。
「はい。やっぱ僕自身ヒップホップは好きだけど、そんな強い人間じゃないので。でも〈自分は自分のままでいいのかな〉みたいに少しずつ思えてきて、こういう感じに変化していきましたね」
――その人懐っこさは歌うようなラップやフックからの印象も大きいですね。前作まではオートチューンも使ってなくて。
「なかったです。その変化は確かにありますね。『Virtual』に入れた“93' Syndrome”のサビで初めて使ってみて、最初は〈ついに自分もやってしまった!〉って思いましたが(笑)。聴いてみたら凄い良くて」
――それが、等身大の雰囲気とかまろやかな人間味に繋がってるのかなって。
「オートチューン使うことで逆に人間味が出るのヤバイですね。実際に使いはじめたら、“Call”も何も考えず映像まで全部出来たり、“ロトのように”も5分で出来たり、めちゃめちゃ助けられました」
――その“ロトのように”を含むのが次の『Idiot』ですが、他の人のビートを選ぶことも初めての試みで。
「はい。他の人のビートでラップすること自体も初めてだし、通常は僕がビート作るとこから始まるんで、最初は〈良いビートってどうやって探すんだ?〉って困りましたけど(笑)。普通に好きで聴いてる曲のプロデューサーを調べていくところから始めました。全然知らない人もいたり、やりたいと思ってた人のビートでもやれたりして、おもしろい作業ではありましたね。“ロトのように”のKINGBNJMNもまったく知らなかったんですけど、調べたらフューチャーとかやってる人だったりして」
――自分のビートに感覚が近いものなのか、その逆なのか、判断も難しそうです。
「“Make It”とかは自分で絶対作れないビートですね。でも、〈これ欲しいな〉って思ったものが、よく考えると完全に俺のビートとめっちゃ似てたり、そういうのはやっぱりありました(笑)。日本の方でもよかったんですけど、海外の方だけとやったほうが、〈自分〉だけがわかりやすく見えてくるのかなって」
――ああ、名前が立ってる人のビートを使ったとしたら。
「そうです、やっぱりお力をいただくことになるんで(笑)。『Virtual』と『Idiot』に客演を入れなかったのも、自分がまだ全然知られてないので、まずVaVaとはこういう人間だ、こういう音楽を作る奴だっていうのをわかってもらえたらいいなって思いがあって。なので、客演入りの『Universe』を最後にようやく出せた感じです」
――順番にも意味があったんですね。その『Universe』だと、まずtofubeatsさんとの“Virtual Luv”からして相性が良すぎで。フィーリングの近さを感じます。
「もう光栄なことです。tofuさんは昔“水星”を聴いたところからYouTubeで〈HARD-OFF BEATS〉っていう企画の動画を観て、サイゼに集まって音の話してるみたいなのが〈何かわかんないけど、この人たちめっちゃカッコイイな〉って思ってて。当時tofuさんにTwitterで〈機材は何を使ってるんですか?〉って訊いたら凄い丁寧に教えてもらって、それをバイト代全部使って買ったんです。そっからビートを作るようになったんですよ」
――そういう縁があったんですね。
「おこがましいですけど、そこから始まったので感慨深いですね。自分からお誘いしたのに、まさかやっていただけるとはって。“星降る街角”の角舘健悟さんも、もともとYogee New Wavesの音楽がめっちゃ良いなってずっと思ってたんで、お誘いさせていただきました。OMSBくんはもう昔から大好きで憧れてる方ですし、in-d、JUBEE、BIMはもう、もともと仲間だし、いろいろあったけど改めて〈やっていただけないでしょうか?〉っていう感じでしたね」
そのままの自分であること
――それら3つのEPからの6曲も収めつつ、10曲も新曲の入ったのが今回の『VVORLD』になります。
「タイトルはシンプルに〈VaVaの世界〉、僕の世界観みたいな意味ですけど、音楽を聴いてて過去の記憶とか出来事をいきなり思い出したり、歌詞に当てはまることってあるじゃないですか。それと同じ、このアルバムを聴く人にも、その人なりの聴き方や感じ方の世界があるんだろうなと思って。そしたらもうシンプルに〈ワールド〉でいいな、みたいな。3枚のEPの最終地点という意味も込めたかったですね」
――EPからどの曲を入れるとか、全体像は早めに決まっていたんですかね?
「はい。アルバム用のビートもけっこう早い段階から決まってました。ただ、途中で並べ直したり、何かがちょっと物足りないなって思って『Idiot』と同じようにいろんな人のビートを聴いてみたり。最後のほうにビートを選んだ“8 bit Cherry”も、手をつけたのは遅かったですけど、ラップは数時間で録れましたね」
――全体的に言いたいことが明確になって自然体になった感じです。
「こうやって普通に話してても、ステージ上でも、なるべくそのままの自分であることの重要性みたいなのをずっと考えてましたし、前より自分の弱い部分とかを認められるようになる過程で作ってきたので。例えば“つよがりのゆくえ”は中学時代の、いじめられてて楽しくなかった頃の話をしてますし。逆に“Pac man”は何か牙の剥き方が若干『low mind boi』に近いかもしれない。〈オラオラ〉って(笑)」
――“Chapter”がイントロの次にありますけど、たぶん決定的なテーマというか、全体の結論っぽいことを最初に言ってる感じもするというか。
「はい、確かに。“Chapter”はビートの段階からいいなとは思ってて、トラック的にゲーム音っぽいところから始まって、その8ビットっぽい音がサビでオーケストラ風に変わるみたいなことをやっているので、その、小っちゃいところからどんどん華やかになるみたいなイメージを意識して歌詞も書きました。引きこもってゲームばっかやってた自分が、ヒップホップのビデオとか観て憧れてたことをやってるのって、まるで液晶の中に入ったみたいだけど、入っていってるその先の俺は、昔の自分から見てイケてるのかな……みたいな」
――ここで〈low mindから抜けた〉って言ってますし、そこから次の“現実 Feelin' on my mind”の〈ディスプレイの中〉に繋がってく感じがいいなと思って。めちゃくちゃ良いアルバムです。
「嬉しいですね」
――ここから活動していくにあたって、ビートメイカーとしてもまた新しい名刺代わりの作品になったのではないかなと。
「お誘いをいただけることがまず嬉しいんですけど、こうやってアルバムも出したことですし、今年はそういうプロデュース業もちゃんとやっていきたいですね。去年は目標を立ててやってきて、今年はそこまで固めてないんですけど、何かやれることが目の前にあると楽しいんで、とりあえずはまた格好いいビートをどんどん作って、自分でラップするなり、人にあげるなりしていきたいです。たぶんすぐ作品を作っちゃうと思うんですけど(笑)」
『VVORLD』に参加したアーティストの関連作品を一部紹介。