バンド、オリジナル・ラブとしてのライヴ。〈ひとりソウルツアー〉。そして弾き語りツアー。さまざまなショーやパフォーマンス形態でオーディエンスを前に生歌を聴かせるシンガーの田島貴男が、オリジナル・ラブとして新作『bless You!』を2月にリリースした。一方、田島は同時期に全国14公演の〈弾き語りツアー2019〉を開催。その香川・高松オリーブホール公演(3月3日)にいたく感銘を受けたというライター・小鉄昇一郎が、当日の熱気と感動を伝える。 *Mikiki編集部
開演までの客入れBGMはジャンゴ・ラインハルト、ブラインド・ウィリー・マクテル、ビッグビル・ブルーンジー……第二次世界大戦の前後に活躍したブルース/ジャズ・ギターの名演が、外は小雨の会場を地熱のように暖めてゆく。
数本のギターが赤いキャンドルと青いライトで照らされたステージに、ゆらりと大きなシルエットを揺らして田島貴男が現れる。一言もなく、ギターを手にしてすぐさま歌い始める。オープニングは『bless You!』のリード・トラック“ゼロセット”。音源ではアタックの鋭い厚みのあるストリングスのアレンジが聴きものだったが、今日は弾き語りライヴ。ギター一本と歌だけのむき出しの〈音楽〉がそこにある。続いて“ラヴァーマン”。こちらは前作となる2015年リリースの同名アルバムからの選曲。掴みの2曲で既に田島のヴォーカルのテンションはマックスだ。
『bless You!』は全編を通して〈ギタリストとしての田島貴男〉が感じられる内容だった。それは2011年ごろから行われている弾き語りツアーなどのライヴで培った技術と経験がフィードバックされているのではないかと予想していたが、ギターも歌も全力でパフォーマンスする田島の姿を観、確信を得た。アルバムで結晶化されていた田島貴男の汗が、いままさに激しく音と共に流れ続けている様を見せつけられている、そんな状況だ。
しかし、曲の合間に汗を拭きながら客席に語る田島貴男の言葉は軽快だ。リゾネーター・ギター、ワイゼンボーン(スティール・ギターの元となった、膝の上に乗せて弾くギター)など数種類のギターを曲ごとに取り替え、そのギターの成り立ちや音の違い、そこからブルース/ジャズ/ロックが生まれ派生していく歴史、そしてそれを田島貴男/オリジナル・ラブがどのように日本語のポップスに、自身の音楽に落とし込んでいるかを豪快に、時にやや照れながら語る。「昔から僕は、古い音楽ばっかり聴いてるんですよ」。何気ない一言だが、妙に印象に残った。
“グッディガール”(PUNPEEのラップ・パートを力技でみずから歌う!)“いつも手をふり”“ハッピーバースデーソング”“希望のバネ”など、曲目は最新作『bless You!』と前作『ラヴァーマン』からのものを中心としながらも、“フィエスタ”“朝日のあたる道”と言った過去の名曲も登場する。ジャズ・ギターで奏でられる“接吻”の煙の目にしみるような儚いアレンジ……。しかしアウトロは出血大サービスの長くパワフルなスキャット・ソロ。このあたりのバランス感覚がまた乙だ。
個人的に印象に残った曲が“太陽を背に”だった。田島はMCで、ブルースやラグタイムのリズム構造や楽器の変遷については語っても、その精神性やテーマについては語らなかった。しかし〈さあ太陽を背に働きに行こう/きっと記録に残らない者たちが働いて/いまここに町があるんだ〉と歌うこの曲は、どの時代、どこの国にもいるであろう、ただ日々を生きる労働者たちのことを歌う、まさにブルースの精神のど真ん中を行く清々しい佳作だ。そのスピリッツは敢えて言葉にせず、実際の作品に託す。そんな心意気を感じ取った。
労働者をテーマにした歌はオリジナル・ラブの過去のアルバムにもある。99年リリースの隠れた傑作『L』収録の“大車輪”だ。しかし〈日替わりランチ巡り 誰よりも急いで食べ/取り替えがきくような命に縛りつけられ〉と歌う“大車輪”に描かれるカリカチュアライズされた労働者像と“太陽を背に”のリリックには、根底にある眼差しに大きな変化が感じられるだろう(しかし“大車輪”は“大車輪”でまた名曲でもある。モーター音のサンプル・ループが6連符でビートをひねる、オリジナル・ラブ流のインダストリアル・ロックだ)。
何よりも、両足のパーカッション(フット・スタンプとタンバリン)、そしてギターと歌を身一つで汗をかきかき演じる田島貴男の姿は、アーティストやクリエイターと言うよりは正しく〈エンターテイナー〉。誤解を恐れずに言えば奉仕的な、ひとつの職業としての音楽家、その誇りとサービス精神に満ち溢れた〈働く男の姿〉そのものであった。
2時間たっぷりのショウは、アンコール“フリーライド”“幸運なツアー”の2曲で〆。夜が明けたような不思議な爽やかさに包まれた会場だったが、実際にはまだ夜の7時、しかも小雨はまだ降っていた。しかし、MCで田島が語っていた「ずっとジョギングをやってるんですよ。6キロくらいでもいいから、毎日ちょっとずつ走るようにしてるんです。雨だしめんどくせえな、って日もありますけどね」という言葉をふと思い出し、スニーカーの靴紐を結び直すと、会場を出てもその爽やかさを家まで持ち帰れそうな気分になった。