©Yoshiaki Sugiyama

 レ・フレール結成10周年を記念し、兄・斎藤守也が初のソロアルバムを録音した。レ・フレールで演奏してきた守也の楽曲をセルフカバーした『旅』だ。

 「2012年のニューヨーク・シンフォニック・アンサンブルとの共演で、ピアノ以外の表現力にすごい刺激を受け、創作意欲をかき立てられました。そして今回、もともと自分が興味を持っていた楽器を取り入れたアルバムにしてみたいと」

 そのアレンジのために守也が選び出したのは、ディジュリドゥから馬頭琴に到るまで、驚くほど多様な民族楽器の数々。まさに〈楽器の博物館〉状態だ。

 「もともと民族音楽には大きな関心を持っていました。民族音楽の独特な音色が好きで、すごくパワーを感じるんです。きっかけは留学中にヨーロッパ各地で聴いたサウンドだと思います。街中を歩いていると、ストリートミュージシャンが普通にツィンバロンと弦を弾いている。あるいは、駅前に必ず南米のミュージシャンがいたりする。アコーディオンと歌のデュオ、小さなブラスアンサンブル、オーボエソロ、ほとんどありとあらゆるジャンルの音楽が路上で聴けるんですね。いろいろなサウンドを生で聴くという点では、ヨーロッパで得たものは大きいと思います」

斎藤守也 『旅』 UCJ Japan/ユニバーサル(2013)

 そうした体験は『旅』にふたつの方向性を与えることになった。ひとつは、民族音楽を意識して守也が書いた楽曲を原点回帰させる〈先祖帰り〉。もうひとつは、完全に別の文脈に置き換える〈生まれ変わり〉だ。

 「例えば“Shamrock”のような曲の場合は、もともとケルトのフレージングを意識した楽曲ですから、それをティンホイッスルのようなベタベタのアイリッシュの楽器にアレンジして演奏してもらいました。それとは逆に、楽曲が持っている別の側面や違った魅力を出すために、敢えて予想外のアレンジをしてみることも必要だと感じました」

 総勢40名にも及ぶ共演ミュージシャンは、すべて守也が納得の上で演奏依頼した若手演奏家ばかり。ライヴで再現することが不可能な〈異種格闘技〉を実現させたが、録音ではさまざまな苦労があったという。

 「ツィンバロンと弦楽器が共演した時は、倍音がぶつかっているのが気になっている、弦楽器奏者の方もいたと思います。でも、ぼくはその倍音の〈居心地の悪さ〉が好きなんで、敢えてそのまま演奏してもらったんです。そこをきれいに表現するなら、そもそも民族楽器は使用しないです。その楽器が持つ本来の良さをそのまま取り入れたかったんです」 

 唯一無二のサウンドを生み出していくサウンドクリエーター、斎藤守也の〈旅〉は始まったばかりだ。