故国を離れてもショパンが愛し続けたマズルカの原風景が見える
クラシックのピアノ曲の中で、跳ねるグルーヴによって知られているのが、ショパンのマズルカだ。彼は少年時代に農村で出会った民謡を愛し、マズルカ、クヤヴィアク、オベレクといった伝統的な踊りのリズムを生かして生涯に50数曲ものマズルカを残した。
ナチスに追われて亡命し、ハーバードで教鞭をとった音楽歴史学者ライヒテントリットは「踊っている農民、村の結婚式の場面、笑劇、田園詩、エロティシズム、風景、全てがここにあり、我々にはそれが見える」と書いた (レギナ・スメンジャンカ『ショパンをどのように弾きますか』からの引用)。そこまでロマンチックに想像されると、ショパンの心をとらえた農民の音楽も聴きたくなる。
タイミングよく、伝統的なマズルカのアルバム『フットステップス』を発表し、6月に来日公演を控えるヤヌシュ・プルシノフスキ・コンパニャのリーダー、ヤヌシュに話を聞くことができた。彼は都会っ子だが、世紀末にワルシャワ郊外で農村の音楽に出会って衝撃を受け、以後長老たちに学びながら大きなフェスティヴァルを開催するなど、マズルカ復興につとめている。
「マズルカの洗練された構造と可能性にひかれたんだ。あるピアニストが『プリミティヴな音楽だろ?』と言うので、古い録音を聴かせて『これ、弾けるかな』とたずねたら、難しくてうまく弾けなかった(笑)。なにしろオーガニックなでこぼこの土壌から生まれたホリスティックな音楽だからね」。
マズルカのリズムは3拍子系だが、独特なアクセントのつけ方のせいで、複雑に跳ねて聴こえる。「鍵はダンスにある。太鼓手はダンスしながらステップにしたがってアクセントをつける。歌手の言葉のアクセントもダンサーのステップに影響する。即興もある。複雑に見えるけど、伝統の内側にいる人たちは呼吸するように自然にやっているだけなんだ」。
演奏にはフィドル、笛、太鼓、アコーディオン、ツィンバリ、トランペットなどが使われ、曲によって楽器編成が変わる。ショパンの曲も肉付けしたらこんなふうになるのだろうか。タイトル曲の笛はアジア風にも聴こえる。「ポーランドのメロディは西欧ではトルコ音楽と同じように東の音楽だと思われていた。中央アジアやインドのラジャスタンを旅したとき、隣町におまえに似た音楽をやっているやつがいると言われたことがある。マリのポリリズミックな音楽にも同じようなことを感じる。ダンスに根ざした音楽は、ローカルなものでも身体性においてユニバーサルな面があったりする。たぶん3拍子を違った方法で演奏している未知の兄弟がたくさんいるってことだろうね」。
LIVE INFORMATION
ヤヌシュ・プルシノフスキ・コンパニャ初来日ツアー
○6/9 (日)15:30開場 / 16:00開演 会場:北とぴあ つつじホール(東京)
○6/11(火)13:30開場 / 14:00開演 会場:宗次ホール(名古屋)
○6/12(水)18:30開場 / 19:00開演 会場:安来市総合文化ホール アルテピア 小ホール(島根)
○6/13(木)18:30開場 / 19:00開演 会場:100BAN ホール(神戸) www.mplant.com/jpk/