写真提供/COTTON CLUB 撮影/山路ゆか

グルーヴの非対称性 - Asymmetric Dance

 その発生が確認されて以来ジャズは様々な国で演奏され、楽しまれる音楽となった。そういう現状をポスト・ジャズだというのではないかとポーランド出身のピアノトリオを取材して思った。まだ四十代前後というのに彼らはすでにトリオとして今年結成25年を迎える。当初キース・ジャレットに憧れていた彼らがトリオ初のレコーディングに選んだ素材はポーランド映画のスコアをたくさん手がけたクシシュトフ・コメダの音楽だった。日本人の我々が現代音楽やジャズを映画を介して刷り込まれたように、彼らにジャズを刷り込んだのも映画だったようだ。そのレコーディングがきっかけとなり、国際的な活動で知られるトマシュ・スタンコのグループに誘われ、彼らは幸運にもECMと出会った。そしてトマシュとともにコメダ作品集の決定版をECMで録音した。「トマシュは、我々の音楽を高く評価してくれました。アヴァンギャルドな彼の音楽と人柄(笑)とは対照的な我々の落ち着いた音楽はうまく作用したと思います」。トリオの成熟はトマシュとの活動を通じて、本人たちの実感以上に進んだのではないか。「国際的なステージを経験し、いろんな音楽家と交流して得たこと」すべてをトリオの成長に費やした。彼らの演奏の特徴といえば、演奏設計が実にミニマルにできているということ、それがアンサンブルの密度を上げることにつながっていることに尽きるのではないかと思う。「いつも一緒だからどんどんうまくなった」とはぐらかすのだが、ピアノの左手のコンピングとベースのコンビネーションには、暗黙の了解以上のものがあるはず。右手のソロに対する動きというよりトリオの響きを濁さない無駄のない左手の動きだというと「僕の左手はそんなに美しい?」と言わんばかりに手を見つめる。「三人には音楽をうまく奏でるための役割がそれぞれあります」と不意に出た彼の言葉にアンサンブルへのこだわりがにじんだ。

MARCIN WASILEWSKI TRIO Live ECM(2018)

 レパートリーはオリジナル作品が中心に据えられているがいくつか凝った解釈のカヴァーが添えられる。ウエイン・ショーターの《プラザ・レアル》に、ハービー・ハンコックの《ドルフィン・ダンス》の世界観を持ち込んだ印象的な解釈を残している。ハービーの《アクチュアル・プルーフ》をトリオで演奏する彼らのグルーブは、非対称性が特徴だと指摘して、オリジナルの《スドヴィアン・ダンス》と、《ナイト・トレイン・トゥ・ユー》では、テーマの前半が後半、マイナスワン・ビート(7拍+6拍 / 6拍+5拍)になっていると説明すると、「ああ、それはポーランドの伝統的ワルツ的な考え方!」といって笑う。なるほどポーランド・ジャズのグルーブの秘密は、ワルツか。