本作『HAIKU』の主人公アンナ・マリア・ヨペックは、もう一人の主人公小曽根真に連れられ九州で歌舞伎を初めて観た時、電気ショックのような感動をおぼえたそうだ。あなたがこの作品を聴く時、きっと同じような感動を受けることだろう。
「俳句は、私が文学の中で一番好きな形式。シンプルな中に、非常に深い普遍的なものが表現されています。それは、シンプルなメロディを題材にした私たちの音楽にも当てはまることです。だからこのタイトルをつけました」と語るアンナ・マリア。本作は、>ポーランドと日本両国の伝統音楽をジャズのフィールドで融合するという困難なコンセプトに見事成功した傑作だ。彼女の生の言葉と共に本作の聴きどころを追ってみよう。
この作品に満ちているのは、様々な意味での〈つながり〉感だ。遠く離れた二つの国の音楽家たちの、声と楽器の生々しいぶつかり合いを介した信じられないほどの一体感。
「雪のワルシャワで4時間で録音を全て終えました。二度と繰り返しがきかない、この時にしか生まれない音楽ができたと思っています。ここには裸の感動、普遍的な感情があります」。中でも一際目を引くのが小曽根のピアノの爆発ぶりだろう。彼女が「素晴らしく良い耳を持った、キース・ジャレットのような天才」と絶賛するのも無理はない凄まじい演奏。“オベレク”や“ツィラネチュカ”のギラギラしたソロをぜひ聴いて欲しい。すでに世界的な評価を得ている彼のポテンシャルの扉が、ポーランド音楽という鍵で再び開かれたようだ。
両国の伝統音楽や、小曽根らの現代オリジナル、歌舞伎の篠笛奏者福原友裕と小曽根のハードな即興による“道成寺”など、時間軸や文化の隔たりがあるナンバーが何の違和感もなく調和していることも驚き。これにも秘密がありそうだ。
「一番オリジナルなものは、民謡のような音楽だと思う。そして、結局そういうものが国の枠組みを超えていく。私たちには普遍的な感動を引き立てるツールとして、人類の一番古い楽器である笛が必要だったのです」。福原の起用はこのためらしい。また、彼女の美しい歌声で空中に放たれるポーランド語の響きも本作の重要な要素だ。
「ポーランド語は一つの単語の中に、柔らかい響きと硬い響きが同居する稀な言語。人間の中にある美しいものと厳しいものを同時に表現できるのです」。全編に満ちた多彩な響きを道連れに、約一時間の壮大な音楽の旅をぜひ楽しんで欲しい。