湯浅卓雄〈指揮者〉が語る、玉置浩二〈歌手〉とオーケストラの宿命的な出会い

 玉置浩二ほど、同業者から畏敬の念を抱かれている歌手はそう多くないだろう。山下達郎からいきものがかりまで、世代を問わず称賛され、J-POPに計り知れない影響を与えた真に偉大なミュージシャンなのだ。そんな玉置は2015年からオーケストラとの共演に力を注ぐ。その反響はすさまじく、今年3~4月の公演は全国8公演すべて完売。会場では正真正銘、スタンディングオベーションの嵐が巻き起こっているのだ。日本一と称される圧倒的な歌唱力に加え、コンサートホールだからこそ堪能できる玉置の繊細な表現は至福そのもの。

 そして、この公演は共演する指揮者にとっても特別なものなのだと語ってくれたのは巨匠、湯浅卓雄だ。「歌と踊りこそ、音楽の原点」と語る湯浅だが、J-POPの歌手との共演は玉置が初。その歌唱力に魅せられ、共演を決意したという。

 「最初お話をいただいた時はスケジュールが合わなかったんですよ。そもそも僕は主に海外で活動していたので、玉置さんのお名前しか存じ上げなかったんですが、彼がオケと共演した映像を拝見したら、素晴らしい歌をうたわれていらっしゃって。次にお話をいただいた際にお引き受けしました」

 やるならば、玉置とオケ、双方の良さを発揮できなければ意味がない。そのために湯浅は、リハーサルでどう音楽づくりを進めたのか。

 「玉置さんは歌を自由にうたわれ、表現は非常にしなやかですよね。そこに硬派なオケが、如何にしなやかに対応するのか。その部分に気を使っています。縦を合わせるというよりも、横のラインで盛り上がりを作っていくんです」

 その結果、鳴り響いたのは、これまでに聴いたことのない新鮮な音楽だった。

 「ジャンルこそ違えど玉置さんが感動的な歌をうたってくださり、オケも良いところを聴かせられる――これは新しいジャンルになってるんじゃないかなって気がしますね」「玉置さんにとっても、オケとやることで新しいフィーリングのようなものを感じられてるんじゃないでしょうか。低音から鳴る倍音や、減衰しない弦楽器の響きに乗っかれる気持ちの良さ。そこから、普段の玉置さんとは別の魅力が引き出せるんじゃないかと。私にとっても楽しいですよ(笑)」