唯一無二の歌詞世界
――ユニークだと言われる、リー・ペリーの歌詞についてはいかがですか?
クロ「めちゃくちゃなように思えて、ちゃんと収拾がついてるんですよね。正直、いままでリー・ペリーの歌詞に注目していなかったし、さっきもアフィさんがマンブルだって言っていましたけど、リスリングもしづらい。でもこうやって改めて読んでみると、すごく芯が通っているというか」
高橋「サイケデリックな言葉遣いのなかにも曲ごとにしっかりテーマがあって、読み物としてもすごくおもしろい。いまさらリー・ペリーの歌詞の魅力に気づきました」
――新作を入り口に彼の詞世界を知っていくということで。僕も訳詞を読んで、ぜひ対訳付きの国内盤CDを買ってほしいなと思いました。
クロ「彼のインスピレーションから来た異質な言葉の置き方が天才的なんですよね。ストーリーはちゃんとあるんだけど、異質な言葉がその規模感を撹乱するような役割になっていて。作詞には真面目なことを真面目に書いてもダメみたいな側面があると思うんですけど、リー・ペリーは非日常な言葉で説得力を持たせられる人で。歌詞全体に不思議な雰囲気がありますね」
――一方で、ラスタらしい反骨精神が変わらずにありますよね。国内盤ボーナス・トラックの“Heaven And Hell”では〈国際通貨基金を追い出せ〉と歌っていたり。
クロ「基本的には反体制ですよね。でも、表現が詩的」
――このアルバムは、エイドリアン・シャーウッドが言うようにリー・ペリーの私的な面が出ていることも特徴ですよね。最後の〈アップセッター自叙伝(“Autobiography Of The Upsetter”)〉では、生い立ちから赤裸々に語っています。お父さんがフリーメイソンだったとか……。
クロ「これ、衝撃ですよね」
高橋「いきなり出てきたのでびっくりしました。他にもボブ・マーリーやマックス・ロメオなどの名前も出てきて、リー・ペリーから見たレゲエ史的なおもしろさがありましたね」
『Rainford』の古くて新しいダブ・サウンド
――『Rainford』におけるエイドリアン・シャーウッドのサウンドや音作りについてはいかがですか?
高橋「エイドリアン・シャーウッドとの前作は、リー・ペリーのレゲエを(2008年当時の)イマ風に変えたようなサウンドでした。バキっとした質感も含め、進化していくレゲエというか。
対してこのアルバムは、未来と過去を並列に扱っているような変な印象なんですよね。楽曲自体はルーツ・レゲエっぽさが強いんですが、回帰というよりも、リー・ペリーの過去作品の混沌とした雰囲気に新しさと可能性を発見したようなフレッシュさというか。再現でもアップデートでもない妙な風通しの良さがおもしろいですね。モダンへの志向はないのに、いままでのリー・ペリーのいろいろな要素を持ってきたら、結果的にモダンにも聴こえた、みたいな」
――なるほど。
高橋「それと、デジタルっぽい音とヴィンテージっぽい音って、一般的には曲ごとに使い分けるんですけど、このアルバムはそのバランスがごちゃごちゃになっていて。そうやって、音色もリー・ペリーがやってきた、ルーツ・レゲエからダブ、ダンスホールまでさまざまな音楽が混ざった作りになっていますよね。例えば、ハイハットだけは打ち込みっぽいけど、他の音は生っぽいとか。
結果として、バッドバッドノットグッドが古い機材と新しい機材を混ぜて使って録った音や、デジタルっぽいピアノの音を使っている最近のテーム・インパラの曲にも近い印象です。音色の組み合わせのおもしろさで、ヴィンテージな音色をそのままモダンにしていますね」
――確かにそういった、音色の面で尖ったことをやっている現行のバンドの作品と並べて聴けそうですよね。
高橋「それとリー・ペリーって、例えばドアが閉まる音を入れたりとか、サウンド・コラージュっぽいことをするじゃないですか」
――“Kentucky Skank”(72年)というケンタッキーフライドチキンに捧げた曲で、フライドチキンを揚げる音が入っていたり……。
高橋「そういう感じで、“Makumba Rock”のクイーカや“Let It Rain”で聴けるチェロもそうなんですが、このアルバムには、なんで入っているのかよくわからないけど重要な音が入っている。
でも、その要素をいちばん感じたのは、本作のリー・ペリーのヴォーカルなんですよね。〈よくわからないけど重要〉という怪しさがまさに。ダブ・エンジニアとしての奇才っぷりがヴォーカルと地続きだったことがやっとわかって、〈リー・ペリーのキャリアの代表作を聴いている!〉とグッときました。リー・ペリーの作品をいちばん最初に聴いたときのあの不思議な感じがあって、すごく良かったです」
クロ「一聴してマイルドな感じもありますよね。エイドリアン・シャーウッドといえば、どちらかというとバキバキなサウンドの時期を思い出すんですけど、個人的には音が鋭すぎて、時間が経つと逆に年代を感じて聴きにくかったりして。この新作はオールタイムで聴けそうな感じがする」
高橋「そうそう、マイルドな音作りでチル系かなって思ったんですけど、そのわりにリー・ペリーはずっとアッパーなんですよ。その狂気感もおもしろい」
クロ「ジャマイカの音楽はそういうところがあるよね」
高橋「うん。この〈チルだけどアッパー〉な、矛盾しているものを当たり前に両立させるところが、リー・ペリーの魅力ですね」

LIVE INFORMATION
■TAMTAM
大雪山ミュージックフェスティバル 2019
2019年6月29日(土)、30日(日)北海道・東川町文化交流センター せんとぴゅあI
※30日はミニ・セットでの出演
FUJI ROCK FESTIVAL ’19
2019年7月26日(金)新潟・湯沢町 苗場スキー場