(左から)リー・スクラッチ・ペリー、エイドリアン・シャーウッド
Photo by Daniel Oduntan

レゲエ/ダブ界の生きる伝説、リー・スクラッチ・ペリーがニュー・アルバム『Rainford』をリリースした。〈待望の〉と冠に付けるには、リイシューや名義貸しのようなアルバムが乱発されすぎている状況だが、本作は決定的な作品と言っていい。というのも、『Rainford』は長年の盟友であるプロデューサー、エイドリアン・シャーウッドが全面的に手掛けたものだからだ。

2008年作『The Mighty Upsetter』以来11年ぶりのタッグとなる本作には、前作と趣の異なる刺激的なサウンドが詰まっている。アップセッターズ『Super Ape』やマックス・ロメオ『War Ina Babylon』(共に76年)といったクラシックを生み出したリー・ペリーのブラック・アーク・スタジオ時代や、On-Uサウンドで実験を重ねていたシャーウッドの充実した80年代作品を彷彿とさせる音が飛び交いつつも、その仕上がりは至ってモダン。マジカルなサウンドが敷き詰められたなか、リー・ペリーは、自由自在なヴォーカルで独特の詞世界を展開している。

そんなリー・ペリーの新作と彼の魅力について、今回はアルバム『Modernluv』(2018年)が好評を呼んでいるTAMTAMのクロ(ヴォーカル/トランペット/シンセサイザー)と高橋アフィ(ドラムス/プログラミング)の2人に語ってもらった。レゲエ/ダブのサウンドを現代的にアップデートし、ジャンル横断的なポップ・ミュージックを奏でている2人にとってのリー・ペリーとは?

新作を機に改めてリー・ペリーの奥深い世界に足を踏み入れてみたい、という方にとっての入門編にもなっていれば幸いだ。

LEE "SCRATCH" PERRY 『Rainford』 On-U/BEAT(2019)

 

TAMTAMクロと高橋アフィのリー・ペリーとの出会い

――お2人のリー・ペリーの音楽との出会いは?

クロ「私は高校生の頃、ブラック・ミュージックを中心に掘っていくなかでレゲエと出会って好きになって。その頃、マックス・ロメオやヘプトーンズの作品を聴いていたんですけど、リー・ペリーがエンジニアで関わっていたことは後から知りました。

一方で、リー・ペリー名義の曲でいちばん最初に聴いたのは何だっけなって思い出してみたら、このトロージャンのコンピレーション(2002年作『Trojan Bob Marley & Friends Box Set』)でした。なんか変なおじさんだなって(笑)」

クロ所有の『Trojan Bob Marley & Friends Box Set』。リー・ペリーやピーター・トッシュ、ジョー・ヒッグスらウェイラーズに関係する60~70年代の楽曲が収められたCD 3枚組

――レゲエのヴォーカルといえば、ロメオのように伸びやかに美しく歌うスタイルがイメージされますが、一方でリー・ペリーのようにダミ声でしゃべるようなスタイルもあるんですよね。なのでシンガーとして聴くと、〈なんだろうこの人?〉となる。

クロ「ラップとも違う、いわゆるトースティングですよね。U・ロイとかと同時期に聴いて、こういう自由度の高いスタイルがあるのかと思った覚えがあります」

高橋アフィ「僕はレゲエ・サークルに入っていたこともあって、新入生の頃に『Super Ape』を〈名盤だから知っておこう〉と思って聴いたのが最初です。ボブ・マーリーのベスト盤みたいなポップなのを期待していたのに、ずっと変な曲ばかりで、いったいこの人は何者なんだろうと(笑)。

しかもこのアルバムのリー・ペリーは、プロデューサーなんですよね。なのでヴォーカリストというよりも、ダブ・エンジニア/プロデューサーとしての印象が強かったです」

※TAMTAMは早稲田大学の中南米研究会というサークル内で結成

 

リー・ペリーの楽曲を完コピしてみる

――それぞれリー・ペリーとの接し方が違っていたわけですね。

高橋「……いま思い出した! 先輩たちのバンドに参加したら、リー・ペリーの曲を完コピしようとしていたんですよ。それで、変なところで音が抜けたりするのを全部細かくメモっていて。〈裏打ちを2回打って1回休む〉〈ここは弾かない〉〈ブレイクのときは2拍休む〉みたいな(笑)。ダブってこうやって演奏するんだなって思っていました(笑)」

クロ「細かいズレの再現が大変だったよね」

――そもそもダブって、録音したものをミキシングでいじっているから、ああなっているわけですよね。それを生演奏でやろうとした?

高橋「素直に、原曲がこうだからそのとおりにやるしかないよねって」

――歌も途切れたりしますよね?

高橋「途切れ途切れに歌ってましたね」

クロ「〈ここは一言歌って8小節休み〉みたいな(笑)」

高橋「ミキサーでフェーダーを下げて音を消しているところも演奏しないといけないから、ただ〈音が鳴っていないなら弾かない〉っていうふうに。そういうところで、リー・ペリーにはすごく迷惑をかけられた思い出があるんです(笑)。“Disco Devil”(77年)をカヴァーしたとき、〈これ、途中でイントロに戻ってない?〉ってなったり」

リー・スクラッチ・ペリー&ザ・フル・サークルの77年の楽曲“Disco Devil”。マックス・ロメオ“Chase The Devil”のトラックでリー・ペリーが歌っている、70年代ブラック・アーク時代を代表する名曲

――見方を変えると、J・ディラのヨレたビートをクリス・デイヴのようなジャズ・ドラマーが模倣したことにも近いかもしれません。

高橋「確かにそうですね。演奏する前提でダブに接したというか」

クロ「なによりやってみると楽しいし」

――その経験があって、いまのTAMTAMがあると。

高橋「そう思うと影響を受けていますね。ギターや歌からドラムまで、なんでもエフェクトをかけてもいいとする考え方はもちろんですが、〈最終的にかっこよければOK〉みたいなアレンジの感覚についても、リー・ペリーの変態さで耐性がついた気もします」