もっともクリエイティヴで自由でオルタナティヴなピアノ・マンから、5年ぶりのニュー・アルバムが到着! 彼の手にかかればどんな音楽もすべてひとつになる!
「同じレヴェルに立って、向き合い、正直に人との関係を築くことが大切だ。それが大人になってからの人生において必要とされてきたことだから。タイトルには、実際に自分が小柄だという冗談も込めている(笑)。自分にとっては成長の時期だったいう意味を込めたんだ」。
通算8枚目のアルバムとなる『Taller』の表題についてこのように明かしてくれたジェイミー・カラム。自身のルーツに回帰したジャズ・スタンダード集の前作『Interlude』は2014年のリリースだったから、99年のトリオ作品でデビューして以来2~3年に1枚アルバムを重ねてきた人にしては単に長めのブランクとも言えなくはないが、その間にまったく露出が途絶えていたわけではなく、ラジオ・アカデミー賞を受賞したこともあるBBC Radio 2のジャズ番組〈Jamie Cullum's BBC Radio Show〉も快調に展開し、昨年のクリスマス・シーズンにはYouTubeで展開してきたカヴァー企画『The Song Society Playlist』の楽曲を12日間連続で配信してもいた(マライア・キャリーやエド・シーラン、ジャスティン・ビーバー、ウィークエンド、ローリン・ヒル~ドレイクらのカヴァー)。とはいえ、やはり今回のアルバムは完成までに思った以上の時間を要したようだ。
「曲を書くのに苦労したとか、曲を苦心してひねり出したということではないんだ。というよりは、自分の心境を正確に反映させたかったからなんだ。自分の人生における位置を理解するというのかな。5、6年前にこのアルバムの曲を書きはじめたんだけど、聴いてみて正直に思えなかったんだ。歳をとったポップスターがクラブについて歌っているみたいな感じで(笑)。でも子どもを学校に連れていく曲が書きたいわけでもないし(笑)、ただ現在の自分がどんな自分か、どんなことを考えているのかを反映させたアルバムが作りたかった。音楽は自分とコネクトしたものであるべきだと感じたんだ」。
そうやって仕上がった相変わらずヴァラエティー豊かな楽曲群は、いつも以上に率直なものということだろう。軽快なピアノに乗せて悠々と歌い出す表題曲で幕を開けると、シンプルな弾き語りから視野を広げていく“Life Is Grey”へ。続く“Mankind”はクワイアをフィーチャーしたサザン・ソウル調のナンバーだが、アルバム中に何度か登場するその分厚い歌唱は本作を特徴づける要素のひとつとなっている。
「ボブ・マーリーやボブ・ディランが80年代にゴスペル・シンガーと一緒にやっている映像とかを観て、それが感動的だったから、このアルバムにも聖歌隊を入れたいなと思ったんだ。自分の音楽に生命力を注入してくれると感じたんだよ。“Mankind”は発想がおもしろくて、人類に向けて宗教を拒否することについて歌っているんだ。この世界をベターなところにしよう、って。現代はさまざまな問題を抱えているからね」。
一方で、軽快なビートで迫るファンキーな“Usher”はまさにあのアッシャーを題材にした曲で、彼の妻が〈昔アッシャーを知っていた〉ということにインスパイアされて生まれた曲だそう。
「若い頃を振り返って、それがまるで他人事のように思える感覚にインスパイアされたんだ。この曲はサイケデリックな夢でアッシャーに会うという設定で、彼が僕に〈人生はクレイジーで台なしにするのは簡単さ〉って言う。でも〈周囲の人を大切にして正直に生きれば、人生はパーティーで楽しく死ねる。それは美しいことなんだ〉って。だから音はサイケデリックでプリンス色を強めているんだ。それとジミ・ヘンドリックスかな」。
今回のアルバムで共同制作を手掛けているのは、もともと仲の良かったエイミー・ワインハウスのドラマーとして知り合ったというトロイ・ミラー(エミリー・サンデー、ローラ・マヴーラ他)。そんなエイミーの名前も出てくる“The Age Of Anxiety”こそ、多岐に渡る楽曲の中でハイライトとなるナンバーだろう。ホーリーなコーラスを備えて中盤に並ぶこの曲では〈母はボートに乗ってやってきた〉と難民についても触れていて、これはもともと父がエルサレム、母が現ミャンマーから英国にやってきたジェイミーだからこその目線に違いない。
「新しい国にボートでやってくる人々について誰もが不安な時代だと思うんだ。インターネットなどで皆が繋がるようになった時代にもかかわらず、一対一の関係を大切にしていかなければならないし、SNSでコネクトする数が多ければ多いほど良いというわけではない。逆に人はこの環境の中で自分を見失っているし、音楽を通して繋がることが大切だと感じるよ」。
より率直で、本人と楽曲が密接に繋がっていることを意図した通り、自分自身の感情や心境を素直に反映したこの『Taller』は、シンガー・ソングライターとして、アーティストとしてのジェイミー・カラムにとって大きな転機となるだろう。
「これまでにこのような音楽は作ったことがないと思う。メランコリーな瞬間の陶酔感と、喜びの中で生じる疑問を聴いてほしい。聴いてコネクトしてくれたら嬉しいな」。
ジェイミー・カラムの参加した近作を一部紹介。
ジェイミー・カラムの近作を紹介。