インターネットのなかで生まれ、そこだけに存在する音楽――この得体の知れない(!?)音楽は確かにあり、われわれMikikiも無視することができないほど増殖し続けています。そこで、いったいインターネット・ミュージックというものがどういうものなのか? なぜ無視できないのか? それを基本のキから紐解いていく連載をスタートします! 何か格好良い連載ロゴなども作りたいです!!
加藤直子「ということで、〈ネット音楽ってなに?〉というウェブ・メディアらしい連載企画を立ち上げまして、これからやっていこうかなと思っているんですけども……」
船越太郎「まず僕らの立場をはっきりさせておきたいなと思って」
加藤「あ……どうぞどうぞ」
船越「こんな企画を立ち上げておいて何なのですが、僕たちはネット音楽については超初心者です(笑)。そもそもなんでこんな企画が上がったかというと、Mikikiというサイトを立ち上げて、どんな音楽を推していこうかと思ったなかで、インターネット・カルチャーから生まれた音楽、親和性の高い音楽は無視できないだろうと。だったら、満を持してここでがっつり紹介していこうじゃないかとなったわけですが、とはいえここで問題が発生したわけです。周りに詳しい人がいない……」
加藤「いるはずなんですけどね……誰かー!」
船越「どこから聴いていけばいいかわからないとか、そもそもネット音楽ってどういうものなのかとか、そういう次から次へと湧いてくる疑問を解決していきたいんです」
加藤「そもそもネット音楽ってどこからどこまでがネット音楽なのかもよくわからないしね――ちなみに個人的にはどう考えてます?」
船越「まだ明確な答えを持っていないんですが、個人的に意識しはじめたのはチルウェイヴが出てきた時に、これまでの音楽ジャンルは土地に根差したものが多かったけど、これはもしかしたら初めてネットから生まれたジャンルかもしれないと言われて。それがちょっと議論になったりして、そこで〈おっ、この流れなんだ?〉というのがあったんですよね。その象徴的なアーティスト、ウォッシュト・アウトの最初のEP(『Life Of Leisure』)が2009年にリリースされて、そこからこの5年の間に〈ネット音楽〉というものが物凄いことになってると思うんです。ただ、当時そこまで深くハマってなかったこともあり、この5年の動きっていうのが全然わかんなくて。ちゃんとその流れを追っていたり、まとめて紹介しているメディアがなかったからそのへんをすごく知りたくて」
加藤「なるほど……。ともあれ宅録であるというのが前提にはあるものなんですよね? 今後ちゃんと紹介しますが、Mikikiでもさんざん利用しているSoundCloudの普及っていうのは大きい気がします。プロ/アマ問わずSoundCloudのおかげで誰もが自分の作った音源を気軽に公開できる環境になって、世界中にトラックメイカーが増えていったからこそネット音楽というものが生まれたと」
船越「それはあるかもしれませんね。フィジカルでは一枚も出してないけど、Bandcampとかでガンガン発表してすでにそこそこ認知度もあって……っていうアーティストもたくさんいますしね。そういう人は完全にネット音楽の人って感じがしますよね。BandcampとかSoundCloudといったプラットフォーム、あとTumblr(簡易ブログ)も結構重要な感じがします」
加藤「Tumblrも……気付いたらもうあった(笑)」
船越「Tumblrの〈タグ付け〉も重要な気がしてて。気付いたらもうあったじゃないですか、SoundCloudもBandcampも。なんかわかんないまま使うようになってて、ネット音楽のコアな人はそれらを有効活用してガンガン掘ってると思うんですけど……まだ……よくわからない(苦笑)」
加藤「ねえ。どうやっておもしろいの見つけてるんだろう」
船越「そのへん知りたいんですよ。レコードの掘り方もいろいろあるじゃないですか、そんな調子でネット音楽の掘り方にもいろんなパターンがあると思うので、それをさまざまな人に訊いてみたいですよね」
加藤「正直いま私は途方に暮れています。膨大すぎる情報の海のなかに放り出されている気分」
船越「ハハハハ。僕もです」
加藤「だからそんななかで話題になる人、例えばネット音楽発の〈シーパンク〉で名を上げたウルトラデーモンとか、どういう経緯で知られるようになったのかなとか」
船越「ウルトラデーモンがネット界隈で話題になって、フィジカルがリフレックスからリリースされたっていうのも象徴的ですよね」
加藤「というのは?」
船越「リフレックスってもともとエイフェックス・ツインことリチャード・ジェイムズのレーベルで、ちょっとオタクっぽいというか、いまで言うならネットと親和性が高そうな雰囲気があるなか、旧世代のナードと新世代のそれ系がクロスする感じが……」
加藤「ほうほう、なるほどね~。まあネット由来の音楽ジャンルというのもいつの間にか……」
船越「シーパンクやヴェイパーウェイヴ……」
加藤「ヴェイパーウェイヴは本当によくわからないんだよなー。あとはクラウド・ラップ、ウィッチ・ハウスとか」
船越「日本発のゴルジェとか(笑)」
加藤「とはいえインド/ネパールの山岳地帯で生まれ……っていう体なんですよね(笑)」
船越「このへんのジャンルについても誰かに訊きたいです。あとはネット・レーベルも本当にたくさんある」
加藤「気付けばこんなにあるんだ……っていうくらいたくさんあるんですよね。でもいちばん有名どころだとMaltineですかね。tofubeatsでお馴染みのレーベルですけど、DJ WILDPARTYをはじめ、いまやフィジカルでリリースしているアーティストも多いですし」
船越「フィジカルのレーベルよりも身軽なぶん、生まれては消え、生まれては消え、じゃないですか。そのなかでもMaltineのように特定のカラーもあって、しっかり運営しているレーベルもあるので、そういうところは追っていきたいですね」
加藤「あとはMikikiでも折に触れて紹介しているAno(t)raksは注目ですよね。個人的にもリリースしている作品は好みのものが多いので。このレーベルからはPOST MODERN TEAMがフィジカルで発表したばかりですけど、今度は現役高校生のShin Rizumuがフル・アルバムのリリースが控えていたりして、もはやネット・レーベルとは言い切れなくなっていますが、だいぶおもしろくなりそうですよね」
船越「PAELLASも音楽的におもしろくなってるし。MaltineとAno(t)raksは避けて通れないですね。あと僕、徳利さんが好きなんですけど、まずDKXOさんとCariosさんという方が〈普通の会社員やド素人でもできる〉ってラップした“Local Distance”という曲を富山から発信したらそれがバズって、それを聴いてラップを始めた福岡の徳利さんの“徳利からの手紙”がまたバズり、さらにそれを受けてすでに名前は全国区だったtofubeatsさんとokadadaさんがラップをジャックしたヴァージョンを発表したり、PUNPEEさんが新しいヴァースを載っけたり……と地方都市からネットを介してリアルなシーンとクロスしながら全国に広がっていく流れが傍から見ててすごくおもしろくて。これがここ2~3年の出来事なんですけど、それ以降のこのへんのシーンもちょっと追っていきたいですね」
加藤「と、こんな感じで、最初にカミングアウトした通り、われわれもよくわかっていないネット音楽とは何物なのか、またそのおもしろさを、さまざまな人の手を借りて解明していきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いします!」