視点によって異なるものとは? STUTS、butaji、YONCE、長澤まさみ……曲ごとに変貌を遂げていく音楽集団からの問いを、さぁ、あなたも考えてみよう
隠されていたものが徐々に明らかになる
2022年10月にリリースしたサード・アルバム『Orbit』において、多数のラッパーやシンガーをフィーチャーしながら、プロデューサーとして、ヒップホップの枠組から溢れ出すような表現世界を描き出したSTUTS。その勢いは止まらず、10月24日から始まったTVドラマ「エルピス -希望、あるいは災い-」において、主題歌“Mirage”をプロデュースした。そのハードワークぶりもさることながら、この楽曲は、彼がプロデューサーとして所属する謎の音楽集団、Mirage Collective名義で制作され、さらにヴォーカルにオートチューンがかけられていることで、ヴォーカリストや編成メンバーの素性を伏せていたことも大きな驚きをもたらした。
「今回のお話があったのは今年の5月ですね。自分のアルバム制作の真っ最中だったんですけど、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』でお仕事させていただいたプロデューサーの佐野亜裕美さんが手掛けるドラマということもあって、がんばってみようと。それで台本を読ませてもらったんですけど、最初の段階でわからなかったものがどんどん露わになっていくというストーリーだった。そこで、誰が歌っているかわからないようにヴォーカルにオートチューンをかけたヴァージョンが最初にあり、それがドラマの進行とともに、バンド・アレンジを施したヴァージョンになっていき、やがてオートチューンが外れて誰が歌っているのかがわかるようになるというアイデアが生まれて。さらに言うと、ディアンジェロやJ・ディラ、クエストラヴなんかが在籍していたソウルクエリアンズのような音楽集団として制作するのがおもしろいんじゃないかという話になったんです」(STUTS)。
参加ラッパーが1話ごとに変化していった「大豆田とわ子と三人の元夫」の主題歌“Presence”を経て、新たなメタモルフォーゼを提示してみせたMirage Collectiveの軌跡がアルバム『Mirage』には余すところなく注ぎ込まれている。
「ヒップホップを扱った『大豆田とわ子と三人の元夫』に対して、今回は歌モノが求められていたので、ヴォーカリストはSuchmosのYONCEくんがいいんじゃないかって。ただ、YONCEくんとは初めてのコラボレーションだったので、メロディーや歌詞を考えるうえで、“Presence”でもご一緒させてもらったbutajiさんにお願いしようと。まずは3、4パターンのビートを作ったのかな。個人的にいままで作ったことない感じのビートをめざしたんですけど、オートチューンのヴォーカルが前提だったので、ポスト・マローンやウィークエンド的なオートチューンがいままでにない感じで乗ったソウル~R&B的な楽曲を、最初はイメージしました」(STUTS)。
さらに、70年代ソウルや甘茶ソウルとも形容されるスウィート・ソウル、歌謡曲の艶やかさが加味されることで、楽曲は大きく発展していったという。
「曲作りのプロセスとしては、STUTSくんが作ったビートに僕がメロディーを付けて、そこにYONCEくんが歌詞を乗せる。そこからさらにSTUTSくんを含めた3人で意見を出し合い、僕がまとめて曲を完成させるという流れですね。最初は、抑揚を抑えた、漂うようなメロディーをYONCEくんが歌っているところをイメージして、トラックの雰囲気に寄り添うようなものを書いてみました。だけど、今回のドラマは、佐野さんと脚本家の渡辺あやさんが6年越しで温めてきた作品ということもあり、『大豆田とわ子と三人の元夫』のときのようにすぐにはOKとはならなかったんです。2、3か月かけて、3人でやりとりしながら、5、6ヴァージョンを作りました」(butaji)。
「その制作途中でYONCEくんに加えて、ドラマの劇伴を手掛けた大友良英さんにギター、ドラマで岸本拓朗役を演じる眞栄田郷敦さんにサックスで参加してもらうことが決まり、主演の長澤まさみさんにも歌ってもらうことになったんです。長澤さんはヴォイス・トレーニングに通って準備してくださって。歌詞のどの部分にどういう感情を込めるのかというところまでイメージしてレコーディングに臨んでいただいたので、歌録りはディレクションが必要ないくらいスムースでした。最高の仕上がりになりましたね」(STUTS)。