知られざる歌を探して大分へ、ブラジルへ~松田美緒が出会った強く美しく心に響く歌

 “旅する音楽家”松田美緒が2枚のアルバムを立て続けに発表した。世界中を股にかけて歌のルーツを巡る彼女の姿勢にはいつも感服させられるが、今回も「思わずそう来たか!」と唸らせる切り口と見事な内容に圧倒されてしまった。

松田美緒 おおいたのうた EnCanto(2019)

 『おおいたのうた』は文字通り、大分県の各地に伝わる伝承歌で構成されたものだ。2017年より依頼を受けて歌探しを始め、実際に現地を訪ね歩き、その土地の人々とのふれあいの中で出会った歌を集めたという。《朝草切り歌》や《青のりとり歌》といったいわゆる労働歌の他、子守唄、旅芸人の歌、そして隠れキリシタンが歌った賛美歌までが収められており、ひとつのエリアにこれほどまで豊かな歌文化があったことに驚かされた。そして、これらの歌を土着的なサウンドではなく、ピアノとパーカッションのみをバックに歌っているため、言葉とメロディがくっきりと浮かび上がってくる。松田美緒の声を通して、歌の本質がしっかりと抽出されており、彼女の歌の心地良さに酔える一作だ。

松田美緒 月の夜のコロニア ~ブラジル移民のうた~ 立光学舎(2019)

 もうひとつの『月の夜のコロニア ~ブラジル移民のうた~』は、ドラム&パーカッション奏者の土取利行とのコラボレーション作品。これもブラジルの日系移民の間で歌い継がれていた楽曲を探し求めて集めたアルバムだ。添田唖蝉坊の代表曲である 《ラッパ節》のブラジル・ヴァージョンを核に、《籠の鳥》、《可愛いスーちゃん》、《五木の子守歌》といった戦前の流行歌や民謡を替え歌にした楽曲が多く収められている。いずれも移民の生活の苦しみや故郷への望郷の念などを綴った歌詞が興味深く、心に染みた。松田の溌剌とした歌声と、唖蝉坊の探求者でもある土取の三味線や各種民族楽器との相性も良く、時空を超えて地球の裏側へ渡った歌が、強く美しく響く。

 2枚とも知られざる歌を探求した作品だが、文化的な価値はもちろんのこと、歌を楽しむというエンタテインメント作品としても成立しているのが松田美緒ならでは。早くも次の彼女の旅が待ち遠しくなってしまった。

 


LIVE INFORMATION

『歌うおおいた』祭典~歌手 松田美緒が大分県内各地で出会った、歌の風景、土地の記憶、歌を継ぐ人々~
○9/21(土) 開場 13:30/開演 14:00
会場:J:COM ホルトホール大分・小ホール
出演:松田美緒 大分県各地の歌い手の皆さま
utauoita.stores.jp/